先日、東京藝術大学大学院の授業で管楽器の院生を対象にアレクサンダー・テクニークを教えていたときのこと。ある院生が「首と肩が痛い」と悩んでいました。
実際に楽器を吹いてもらってみたところ、確かにそこが痛くなるような体の動かし方をしていました。腕の色んなところを「動かないように」固定しようとしていたように見えました。
この「動かないようにする」様子と、痛みに関しての話ぶりを聞いていると、この院生が「痛みを消そう」としていてのが分かりました。
私たちはどうしても、痛みや不快感があるとそれを「消そう」とします。一刻も早く「なかったこと」にしたくなるものなのです。だって、演奏の邪魔に感じるんだもの!
しかし!
痛みや不快感は重要な情報です。身体があなたに、「おいおい、なんでそんな無茶をさせるんだよ」と苦情を言っている、それが痛みや不快感です。
この苦情を、「モンスターペアレントのやっかいなクレーム」的に思っちゃうと、ひたすら過ぎ去るのを待つのみ。堪忍袋の緒が切れるとむしろ怒鳴り返してしまう。そんな精神状態になってしまいます。
想像に難くないでしょうが、もちろんこれでは痛みや不快感はもっと増します。だって、さらに身体が緊張するでしょう?
しかし、痛みや不快感を「情報源」と捉えるとどうでしょう。
普段、なかなか身体のことは「意識」したくてもできないですよね?ですが痛みや不快感があれば、その身体の部分はものすごく「意識」しやすくなっています。ずーっと感覚が強く「お知らせ」をくれてますから。
すると、痛みや不快感は「からだを意識する」またと無いチャンスであり、普段は意識できないことや気付くきっかけすらないことにも気がつく絶好の機会なのです。
痛みや不快感を感じると、私たちはその部位を「敵視」します。あっちいけ!消えろ!邪魔するな!というふうに。
なので、変わりに「意識」してみませんか。
敵視するのではなく、意識してみるのです。
頭の中で、こんなふうに考えながら、痛みや不快感という「お知らせ」をくれている身体の部分を意識してみましょう。
・どこまで動かせるかな?
・どこを越えると、痛くなるかな?
・どんなスピードで動かせるかな?
・角度を変えてみると、何か変わるかな?
・痛みをただ感じてみると、どうなるかな?
・痛みの焦点みたいなものはあるかな?
・痛みや不快感の周辺はどうなっているかな?
・身体の全然別の場所をあえて動かしてみると、どうなるかな?
こうやって、痛みや不快感という、向こうから勝手にやってくる願っても無いチャンスを利用してみましょう。
すると、いままでやりたくてもできなかったような「意識」を身体に対して向けることができます。この作業は良い意味で「吹き方」に手を加えていっているものです。
つまり、図らずも吹き方に変化と上達を生む作業になっているのです。
ちなみに先述の院生とこのようなレッスンをしました、するとその院生は
「え!なんだか息が入ってくる!吸える!」
と驚いていました。
「敵視」をやめて「意識」に切り替えたとたん、身体がいままでより、痛みや不快感が発生する以前よりうまく働きはじめたのです。
身体の感覚はコントロールできるものではありません。
再現できるものでもありません。
あなたに変わるきっかけを与え、新しい道の存在を知らせてくれる「情報源」なのです。
こうやって考えると、ちょっとした痛みや不快感、不調はむしろ上達と飛躍のチャンスなのです。
再び失礼します。
痛みが身体のサイン、ですか……以前は楽器を構えているだけで腕や肩が痛くなったのですが、今は自然とそういった感覚はなくなりました。楽器の重みに慣れたのか、姿勢がよくなったんでしょうか
今は後輩が腕や肩に痛みを訴えています。
慣れろ、と指導してきましたが、今度はちゃんと姿勢を見てあげたいと思います(・ω・;)
初めまして。いつもこちらの「ホルン考」で勉強させて頂いております。
さてかなり前の話題で恐縮ですが、バジルさんはイギリスのホルン界で知られているというリチャード・ビッシル氏に関して言及されていたと思います。
今年の夏に浜松管楽器アカデミーというイベントで来日されるようなのですが、この方のレッスンを受けようかどうか検討しています。
貴重なチャンスとも思いますが、バジルさんはどう思われますか?もしよろしければお聞かせ下さい。
dolcecor さま
高校生くらいまでは、「疲れたら、すぐ休む」「好きなように動きながら吹く」ようにしていれば、肩こり腰痛は解消することも多いです。姿勢で判断しようとすると、うまく伝わらないことの方が多いですから、こういうアプローチも試してみて下さい。
Taku さま
ビッシル氏が来日されるのですね!それは知らなかった。テクニカルに言って、世界のトップ5に入るプレイヤーでしょう。ぜひレッスンを受けてみるとよいと思います。
ありがとうございます^^
dolcecor さま
こちらこそ (^^)/
バジル様
ありがとうございます。ぜひ前向きに検討したいと思います。
どんな音なのか、どんなテクニックなのか楽しみです。
Taku さま
またぜひレポート聞かせてください♪
アレクサンダーテクニークの門をくぐったきっかけは痛みでした。決まって本番が近くなると増してくるものでした。当日の朝が最悪で(^_^;)、本番が終わると和らぎました。
そうすると、”また痛くなったらどうしよう”、と本番前に不安におそわれ、練習を休んでも痛くなる始末(^_^;)(^_^;)。もうどうしたらいいの!状態でした。
ATを習い始めた時、問題の半分(痛み)は解消したも同然!と確信したものです。ぶっちゃけイントロを受けた日にそう思いました。
ところがどっこい、痛みは軽減したものの、完全に霧消はしませんでした。 逆に体の変化に敏感になったくらいです。さらに意外なことに、痛みの捉え方が変わって行きました。痛みはサインだから、自分のシステムが健全である証拠なんだと。体は賢いから、まだまだ改善の余地があるよ、と教えてくれています。まだ治らない、と考えることはなくなっていました。
今では不安に襲われることはなくなりました。ついにベートーヴェンをあらためて弾き始めた自分がいます (^_^)/ 感謝、感謝でございます!!
長い時を経て、痛みも含めて自分の体と付き合えるようになったのかもしれません。演奏を向上させながら、体もよくなっていく、気づいたらそうなっていたいです。
kaorin さん 痛みはシグナルと分かると、大きな解放や変化は目前ですね、毎回。