変化の『結果・体験・経験』

変化や上達には「構造」がある―。その構造を考察するシリーズの最後の稿となりました。今回は、変化の車輪が一回転した地点について。つまりはたどった道のりの『結果』であり、変化や上達の『経験・体験』です。

あなたが、例えば「高い音が出せるようになりたい!」と思って、変化と上達の道のりを歩み始めたとしましょう。実際に高い音が出せるようになったとすれば、あなたは変化を経験し、上達という結果を得たことになりますね。

さて、あなたはそこで終わりにしますか?きっとそうはしないでしょう。おそらく何かができるようになったら、また次にもっとできるようになりたいものが見えてくるようになると思いませんか?ご自身の体験を振り返ってみて下さい。

変化を経て辿りついた新たな体験は、次の『夢』を生み出します。車輪は一回転して止まるのではなく、次の一回転をし始めて前へ進んで行くのです。変化がもたらす新しい『体験』は、あなたをまた次のスタート地点に連れて行きます。目の前には、また新しい道のりが続いているのです。

この新たなスタート地点にたどり着いたときに、何が見えるかは、たどり着いてみて初めて分かります。あなたの体験する変化は、脳の中では新たな神経回路が作られたことを意味します。あなたの脳が物理的に変わるのです。物理的に変わった脳は、これまでとちがった見方と働き方をします。物理的にあなたは「変わる」のです。だから、変わって初めて、物理的に新しい自分の次の『夢』を見ることになります。

新しい『体験』はそれに馴染むのに時間がかかることもあるでしょう。変化や達成にあまちに注力し過ぎたときは、もたらされる『体験』の意味がよく分からなくなることがあります。燃え尽き症候群です。

そんなときは、物理的に新しい自分を動かしてくれる動力源である『自分のエネルギー』=『望み』をまた確認し直したり、新たに探し直すのが助けになります。

先日、講義を受け持っている東京藝術大学でこんなゲームをしてみました。私の授業に出席してくれている東京藝術大学大学院管楽器専攻生の方たちに、目を閉じてもらって、私が言ったことを想像してもらいました。そして、その想像をしたら、自分の体がどう反応するか気付いてみてね、と言ったのです。

「プロのオーケストラの首席奏者として活躍している自分。毎日毎日、重要なソロがあって、みんなに聴かれている。」

「プロのオーケストラの2番奏者として活躍している自分。いろんなタイプの首席奏者にうまく音色や音程を合わせ、細かく気を配る。そうやってハーモニーを作り出す。」

「色々なアンサンブルを組んで、室内楽系の奏者として、幅広く活躍している自分。毎日行く場所も、演奏する相手も異なっている。プログラム作りや会場の手配にも関係しているかもしれない。」

「フリーランス奏者として何年も活動を続けているうちにたくさんの人脈を持つようになり、そのうち自分の事務所を運営し、学生や若いプレイヤーに仕事を与えるようになっている。独自の企画を実行したり、大きなイベントを請け負ったりするかもしれない。」

「大学院まで専門的に学び、フリーランスあるいはオーケストラ奏者として色々な経験を重ね、それを活かして日々指導に邁進するようになる。中学生や高校生が、もっと上手に演奏できるようになるのを自分が助けている」

などなど。その場にいた10名ほどが、それぞれ異なる反応をしていたのがとても興味深かったです。

すでにオーケストラに入団して活躍している院生は、首席としてバリバリやっているところを想像すると背筋が伸び、逆に2番奏者として柔軟に合わせることを思い浮かべると難しい苦しそうな表情になっていました。

目立つポジションにいる自分を想像すると体が苦しくなってきてしまい、逆に2番奏者としてやっていっている自分を想像すると、色々な人と一緒に演奏することに楽しさを感じて顔が笑顔になる院生もいます。

「自分の事務所」ということを想像するとワクワクした、という院生もいましたし、子供たちの指導が大好きという院生もいました。

ほんとうに、人それぞれなのです。ですが、体と感情は進むべき方向性をこのように教えてくれます。変化を経てある『結果・経験・体験』に至ったあと、燃え尽きた感じや方向性が見えない感じに戸惑ってしまったら、『自分のエネルギー』が湧いてくるのが感じられるものを色々と探してみましょう。

目を閉じて、あれこれと、ひとつひとつゆっくり想像します。

息が苦しくなって、気分が暗くなるものは、あなたの望みが伴わず、エネルギーが無い事を意味します。反対に、もしふと気分が明るくなったり、あるいはやる気がどこかで感じられて体に良い意味での張りを感じたら、その想像が示唆する方向性はあなたの進むべきものに近いことを意味します。

こうして変化は続いて行き、成長はとどまることを知りません。年齢は関係がありません。夢があり、自分のエネルギーがあり、サポートのエネルギーと信頼のエネルギーを見つければ、必ず変化があり上達できます。

中断を含めて3ヶ月かけて続けたこのシリーズも、今回で終わりです。読了有り難うございました。

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変化の『結果・体験・経験』」への1件のフィードバック

  1. 変わるための構造

    ひとが変化し成長するということには、ある決まった流れあるいは構造のようなものがあります。アレクサンダー・テクニークのレッスンで、教師はその構造を理解したうえで、受講者がどういう段階にあるかを把握しながら進めています。この構造は、「苦手だったフレーズができるようになる」という小さなレベルから、「プロの音楽家になる」という大きなレベルまで、様々な大きさや長さの「変化」を説明するモデルです。 そのモデルについて、すでに一通り書いていますが、また改めてこのテーマについて書き進めていこうと思います。 今回は、 ・バジル自身がいま辿っている「生き方」レベルでの変化 ・楽器演奏の上達を考えるときに役立つ基本的なモデル の両方を織り交ぜながら進めていきます。 変化には 1:夢 2:現実 3:思考 4:行動 5:見通し 6:結果 1(7):新たな夢 という循環構造の6つの段階と 段階を進んでいくのに必要な A:自分のエネルギー B:サポート(他者・外部)のエネルギー C:信頼というエネルギー という三つのエネルギーがあります。 これから数週間かけて、 1→A→2→3→B→4→5→C→6→1(7) という順番でそれぞれ見ていきます。 どうぞお楽しみに。

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