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きょうは、等身大のあるがままで本番のステージに立ち、そこで自分らしく実力を発揮して充実した演奏をするための
『自己否定や舞台恐怖を乗り越えて、自分らしく演奏するための準備方法』
についてお話しします。
そのような準備をするにあたって、活用する価値が高いのが
・あなたの「夢」
と
・あなたの「悪夢」
です。
さて、いったいそれはどういうことなのか?
わたしの個人的な具体例を用いて、説明します。
【1】自分らしさをいちばん失いやすい状況は何か
ひとりで練習しているときは、本番は緊張でダメになってしまいがちなひとでも、安全です。
そこで、安全だからこそ、ある思い切ったことを提案します。
自分にとって実際あり得そうな状況のなかから、もっとも
・ツライ
・自分を見失いやすい
・自分らしくいられない
・怖い
・おそろしい
演奏の状況は何かを考えてみていただきたいのです。
わたしだったら、例えば
「日本ホルンフェスティバルで講座を行ったうえ、演奏もする」
という状況です(笑)
そんな状況が、もしあったとしたら、非常にツライです。
というのも、他の演奏者はみな活躍しているプロや、年代別のコンクールの入賞者という「選ばれし者」です。
客席にもそういうひとたちや、ホルンに関してはものすごく耳が肥えているひとたちばかり!
もしそんな状況で演奏をするとしたら、他のひとたちと比較されて、もう立つ瀬が無い!!…..そんな気持ちになってしまいそうです。
【2】その状況で何を想い、何を感じているのか
あなたにとって、いちばんツラくてやりづらい演奏の状況。
その状況では、自分の中のネガティブ要素や不安が強く刺激されます。
ですから、普段は意識していなかったり、抑え込んである自己否定や不安のようなものがこのような状況において表面化します。
つまり、あえて刺激することで、その時点からちゃんと向き合い、本番になってから突如不安にとらわれて呑み込まれる傾向を減らせるかもしれないのです。
あなたにとって、なぜその状況がつらいのでしょうか?
実は、状況それ自体がつらいのではありません。
その状況に刺激されて浮かび上がっている、あなたが自覚すらしていなかったような、あなた自身の中の深いところにある価値観や考え方があなたを辛くさせているのです。
<<バジルの場合>>
なぜ、わたしにとっては日本ホルンフェスティバルの状況でもし演奏したとしたら、と想像すると、すごくツライのでしょうか?
それは、わたしが
「こんな場で自分が演奏するだけの腕前、価値、資格が自分にはない」
と心の奥では思っているからです。
こう思っていることに、自分にとってもっともやりづらい状況を想定したことで始めて気付くことができました。ショッキングな気付きではありますが、気付けばあらかじめ向き合って、手放すことができます。楽になるチャンスがあるのです。
ちょっと手荒な方法かもしれませんので、やってみるかどうかはご自身でよく判断して頂きたいと思います。
しかしこれをすると 自分にかかっている大きなブレーキ が何かを見つけやすいと思うのです。
わたしの場合は、「自分には演奏するに価する腕前、価値、資格がない」という想いがそのひとつであることが分かりました。
【3】その状況で自分らしく演奏できる方法
ブレーキの正体が分かってきたら、そのブレーキがかかる「状況」をイメージし、そのイメージの中に自分の身をおきます。
その状況において、あなたはどんなことを感じ、考え、経験しているかよーく感じて味わってください。
そのうえで、
「どうすれば、この状況で自分らしく演奏できるかな?」
ということを探求する段に入ります。
わたしの場合は、
・自分が下手でも
・他のプレイヤーがみんな自分より上手でも
・聴衆がみんな自分より上手でも
・聴衆の耳が非常に肥えていても
・聴衆が批判的かもしれなくても
それでも
「演奏したい」
「演奏してよい」
「演奏する価値、意味、資格がある」
理由をいままでより明確に見出す必要があるのです。
それを見出さないまま本番に臨んでしまうと、その状況で満足な演奏はできません。あっという間に緊張と不安に呑まれてダメになってしまうでしょう。
わたしの場合はですが、
・自分という演奏者を受け入れる
・自分の現在のレベルを受け入れる
・そんな自分を愛する
ことが本質的な解決策といいますか、歩むべき道のりなのだな、と分かってきました。
なぜ、いそういうことが大切なになるのか?
それは、わたしがこれまで生きてきた中で自己否定や自己嫌悪、不安がる傾向が積もり積もってしまい、当たり前になってしまっているからです。
(そんな自分になってしまった原因を探ることは、心理カウンセリングの領域です)。
そうやって自覚をしているぶん、そういう自分の歴史や癖を放置して下り坂を転げ落ちるのか、それとも毎日の音楽の取り組みのなかで自己否定をやめ、自分という演奏者を受け入れ、愛することを練習し実践するようにするかは選択の問題なのです。
わたしは、自己否定から脱し、意識的に自己肯定をしながら上達し日々を重ねていくことを選びます。
わたしにとって自己肯定は、楽器演奏と結びつけて練習するものであり、演奏能力を高め続け充実した演奏をするために必要な技術なのです。
【イメージで状況を仮想体験】
日本ホルンフェスティバルの舞台を想像するだけで、怖くなり、硬くなっていて、もうダメになりそうな自分が感じられます。
想像するだけでそうなってしまうのですから、これは実は大変便利です。
ひとり練習室で練習していても、その状況に仮想的に本気で身を置くことができます。
そこで、日本ホルンフェスティバルの舞台にいるつもりになりながら、
「こんな自分でいいんだ」
「こんな自分を愛しながら演奏しよう」
「これでいいんだ、だから安心して演奏しよう」
そんな声かけをしながら演奏する、ということをやってみます。
すると不思議なもので、最初は仮想だけでも緊張し、怖くなり、自己否定が渦巻いていたのに、2〜3日したら慣れてきました。
イメージの中の体験においては、恐怖に捉われた状態から、気負わない状態まで変化することできたのです。
こうして、仮想の練習の中で変化が始まっていきます。
これを無意味だと思うかもしれません。
しかし、これは練習なのです。
練習せずに本番に臨むより、よっぽど意味があると思いませんか?
【4】仮想を「良い方向」に使う
このように、わたしたちは持っている想像力を、「いちばんツライ状況」を乗り越え、変えていくために使うことができます。
その一方で、同じ想像力を「自分にとって最高の状況」を作るためにも活用できることも分かってきました。
どんな状況だったら、いちばん自分らしく、実力を発揮して、堂々と演奏できるでしょうか?
どうやらそこに、「夢を描くこと」が関係してきそうです。
夢のために日々練習し、努力すること。
それは単なるモチベーション活性化だけでなく、
・いま現在、自分にいちばんフィットしている奏法
・いま現在、いちばん自分らしい音色
・いま現在、自分の魂に直結する音楽
を見つけ、体感する一助になるように思います。
あなたにとっての「最高の状況」とは何でしょうか?
想像力を押し殺さず、アイデアを否定せず、自分を嘲笑うこと無く、夢を描いてみましょう。
・あなたはそのとき、誰ですか?
・あなたはそのとき、何をやっているひとですか?
・あなたはそのとき、どこにいますか?
・あなたはそのとき、どんな人たちに囲まれ、関わっていますか?
・あなたはそのとき、どんな気持ちや考え方をしていますか?
わたしが何となく持っている夢のひとつは、
「ジュリアード音楽院で教えること」
です。
父がニューヨークの生まれ育ちなので、文化的にも心象風景としても、いつもなんだかニューヨークに魅かれます。
そのニューヨークの、あの誰もが知るジュリアード音楽院で指導者として活躍している。
そんな夢を思い描くと、心が躍るし、楽しい軽やかな活き活きとした気持ちになります。
そこで、「じゃあ自分はジュリアード音楽院で教えているひとなんだ」ということにして 練習してみました。
・ニューヨークという街。
・そこの文化に貢献している自分。
・この街のコンサート会場。
・そこに聴きにくる聴衆。
そういったものを思い浮かべ、そのつもりで ホルンを吹いてみました。
そうするとですね、全然いつもとカラダの使い方も吹き方も、音も、音楽の運び方進め方もちがっていたんですよ!
これで完成形ではないし、これからも変わって行くだろうけれど、なんだか「とてもイイ感じ」でした。
バテない、力強い、ミスがあまり起きない。
そういう具体的なちがいもありました。なにより、やっていて楽しいし充実します。つまりは、いままでより質の高い練習になるんです。
そうなったからには、これを妄想だ、身の程知らずだ、と切り捨てるわけにはいきません。
だって、よりよい演奏につながるんだもの。
ベストを尽くすことが自分の価値観なら、こういう練習のやり方をレパートリーに加えることは自分にとっては「やるべきこと」になりますね!
これを読んで興味がわいたら、ぜひあなたもあなたなりにどんどんバリエーションや変更を加えて「想像力を活用した練習」を試してみてください。
そして、やってみてどんな変化や気づきがあったり、あるいは疑問が浮かんだりしたか、ぜひ教えてくださいね。basilblog@bodychance.jp
Basil Kritzer
いつもためになる記事を読ませて頂いてありがとうございます。
私は響くホールに苦手意識を持っているのですが、こういう方はよくいらっしゃるのでしょうか?
原因はおそらく、過去にコンクールでひどい演奏をしてしまったことを引きずっていることが大きいと思います。
なので、当時の定期演奏会や文化祭でよく使っていたようなデスホール、いわゆる響きが死んでしまうホールではあまり緊張せず演奏することが可能です。
なにかこの苦手意識を解消するヒントのようなものがあれば、ご教授いただけると幸いです。
美しく響く自分自身の音に、驚いているんでしょうね!
自分の奏でる音が響いていいんだ、目立っていいんだってことに、自分をしてあげればいいですね。