これから紹介するエクササイズの目的は観察と最適化にある。教条主義的に一回の練習で長い時間をかえて全てのエクササイズを一つ一つ取り組んでしまうと、「分析神経症」にでもなってしまうかもしれない!
時間制限を設けよう。20分程度にしておいて、各ステップをあくまで比較手段として使い、自分自身の演奏を分析し向上させるための一助にして欲しい。このエクササイズは、練習の補完として使おう。
覚えておいて欲しい。「思っていることができること」なのだ。自分のやっていることに注意を集中してこそ、効果があるのだ。
ステップ1
真ん中のC(記譜のソ)をF管でラクに吹く。あまり小さくなりすぎないように。そのとき例えば次のことを観察してみる。
a:自分の姿勢
b:解放できそうな、身体の中のあらゆる不必要な筋肉的緊張
c:息の流れ
楽器を置いて、リラックスする。
観察したことを頭の中で総ざらいする。何か変えたいことがあるかどうか決める。どのように変えたいか決める。次はどのように演奏するか決める。そして実際に演奏する。
ステップ1を繰り返す。
ステップ2
「意識的に」息を吸い、息の支えを活性化させて、真ん中のドを吹く。
そして観察する。
a:1回目より、息はより深かっただろうか?
b:息を吸ったとき、不必要な緊張が少しでも身体の中に発生しただろうか?
楽器を置いて、リラックする。
観察したことを頭の中で総ざらいして、ステップ2を繰り返す。
ステップ3
あなたの演奏した音はどうだっただろうか?聴きたい理想の通りに真ん中のソを声で歌ってみるのもよいかもしれない。
息を吸って、真ん中のソを演奏する。部屋の中で響く音を聴く。ベル側だけでなく、ベルより遠く、頭の上、自分の前。どのように響いているだろう?
楽器を置いて、リラックスする。
頭の中で、観察した事を総ざらいする。
ステップ4
息を吸って、真ん中のソを演奏する。自分の数メートル前にある想像上の点に向かって息が流れるようにさせてあげる。
観察してみよう。
a:もっと身体的努力を少なくして息を流してあげることができるだろうか?
b:もっと「温もりある」音にできるだろうか?
息を吸って真ん中のソを演奏することは、大して身体的努力を必要としない。アンブシュアはそこそこ開いているし、これに必要とされる息の支えは最低限だ。したがって、「吹く」ことに使われる力も最低限で済むはずだ。理想的な音質に聞き耳を立てよう。
ステップ5
息を吸って、身体的に最小限の労力で息が流れる様にしてあげながら真ん中のソを演奏する。その間、音質は最大限良いものを目指す。顔面の筋肉やアンブシュアがどんな感じがするか、観察しよう。
観察という目的のため、張りを完全に失ってしまわない範囲内でアンブシュアや顔面の筋肉を可能な限り緩めてみよう。音を出せなくなってしまわない範囲内で、どこまでアンブシュアや顔面の筋肉を緩める事ができるだろうか?音が揺れたりぼやけてしまっても構わないから、試しに自分をできるだけ緩めてあげよう。音程を損なってしまいそうなぐらい、マウスピースを唇から引き離してみよう。マウスピースからの圧力が減るにつれて、どれぐらい唇がより振動できてアンブシュア周辺の筋肉が活性化するか、観察してみよう。
「いつも通りに」、できればマウスピースからの圧力は減らしてもう一度真ん中のソを演奏してみる。
このエクササイズの目的は、最適を見出すためのものであり、最小ではない。
楽器を置いて、リラックスする。
ステップ6
どのようにソの音を演奏したいか決める。
意図に沿って演奏する。
評価判断することなく観察し、結果を受け入れる。
楽器を置いてリラックスする。
観察したことを頭の中で総ざらいする。
そして次にどうしたいか決める。
真ん中のソを上手に演奏するのにさほどの身体的努力は本当に必要ない。むしろ、過剰な身体的努力は音の質を損なうものである。身体の不必要な緊張は息の流れを制限してしまい、その埋め合わせをアンブシュアが担うことになる。アンブシュアの不必要な緊張は、自然倍音を狭めてしまうので音のきつさを生み出す。楽器は最適な振動ができなくなってしまう。
ステップ7
ここでプランAを採用する。演奏するその意図のままで音を歌ってみる。「心の耳」で音程を予め聴き取ってから演奏する。
音を生み出すのにいかに少ない労力で済むか、観察する。楽器の奏でる音を聴き、楽器がその空間で響き渡るようにさせてあげる。