キャシー・マデン先生との学び備忘録―その7:100万分の1秒―

7:100万分の1秒

キャシー先生は、とにかく実用的。それが私のような「管楽器演奏」という専門的で高度な活動にアレクサンダー・テクニークを役立てたいと考えている人たちにとっては、非常に嬉しいところです。

なぜなら、私たちは身体についてあーだこーだ細かく考えている余裕がないんです。本番なら尚更。音を出すのに必死。初見で本番だったらもっと極端にそうです。

でもキャシー先生のレッスンを受けると、それでもアレクサンダー・テクニークは使える、いやそういう場面で使えてこそ意味があるということがよく分かります。

アレクサンダー・テクニークは頭と脊椎の関係で調整されている身体全体の姿勢調整・維持運動機能の働きを、意図的に最大限引き出すものです。

管楽器を演奏する私たちは、例えばアンブシュアや息のコントロール、あるいはフィンガリングを「意図的」にやっています。実感がないかもしれませんが、何気なく歩くのとは全く異なる、よっぽど注意深く意図的な「思考」を身体の動きに対して行っています。それは分かりますね?

アレクサンダー・テクニークでやるのは、それの「頭と脊椎」バージョン。私たち管楽器奏者がアンブシュアについて考えているのと同じように、「頭と脊椎」にもそういう「意図」を持てるようになるのがアレクサンダー・テクニークのレッスンです。

楽器の先生が、楽器を演奏する為の個々の身体の技術を教えているようにアレクサンダー・テクニークの教師は身体全体のバランスの技術を教えます。

頭と脊椎の関係で調整される姿勢維持とバランス機能は、楽器演奏のより高度で細やかな動きの「基礎」です。楽器演奏の動きは、頭と脊椎のバランスの上に「乗っている」ようなものです。

では読み易いようにするために

頭/脊椎のバランス=A, 楽器演奏の動き=B

という例えにします。

Aは自然/自動的/先天的です。
Bは人為/意図的/後天的です。

アレクサンダー・テクニークの技術は、Aを意識的に望ましい状態に保つ・戻すもの。Bがどれぐらいうまくいくかの大事なを握っています。

驚くべきは、実はB(楽器演奏のための動きの思考・指令)よりもっと短時間の一瞬でAの思考(「頭が繊細に動いて身体全体が呼応して動く」「頭と身体全体のバランス」)はできるのだと。

脳科学的に明らかになっていますが、思考ってものすごく速いのです。コンマ0秒以下のスピード。

とてもそんな感じはしませんが、それは言語に時間がかかるからだけで、言語で表現しようとしているもの自体は何であれ一瞬で「思考」されているのです。

身体の動きも脳の中ではそう。楽器演奏のためのアンブシュアのイメージも一瞬でできますよね?

Aの思考も同じく一瞬です。100万分の1秒。

しかも、身体の動きとしてはバランス機能は必ずあらゆる意図的能動的な動きを先行します。すごいスピート同士の差ですが、「演奏する」という身体の動きより先に「身体全体のバランスのための動き」は起きている。

ちょっとややこしい説明になりましたが、要はアレクサンダー・テクニークは楽器演奏のスピードに全く問題なく使えるということ。アンブシュアや息のイメージとコントロールよりさらに素早く一瞬で「身体全体のバランスを良くする」アレクサンダー・テクニークが実践できるのです。

ゆっくりになるとすれば、それはゆっくり音階をさらうのと同じように、練習のためにゆっくりするだけの話なんですね。

イメージは一瞬。意図は一瞬。意識は一瞬。

これをよく覚えておこうと思います。ここを間違わなければ、管楽器演奏に直接その場でいつでも簡単に使えるアレクサンダー・テクニークが提供できますから。

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