生徒を指導するときの言葉を変えて、成果を出す

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歌や楽器の先生、吹奏楽部の顧問の先生が、演奏や合奏の指導をしているときにたくさんのエネルギーを使って意識化するとよいこと。

それは

指導時の言葉の使い方

です。

【指導の在り方にまつわる「いま」の状況】

歌、演奏、合奏の指導をするということは

「演奏者が奏でたいと願っている音楽を実際に奏でられるようにすることを助ける」

という行為です。

それに挑戦するのが指導者という存在なのですが、指導者それぞれの指導を形成する核にあるのは

・自分自身が自分自身をどのように成長させ前進させてきたか
・自分自身がこれまでどんな指導を受けてきたか

の2つです。

しかし、指導という行為は、指導者個人のこういった「ベース」に無いことも要求されます。

それは

・自分が悩んだことのない問題をサポートすることが求められるから
・自分とは異なる考え方・価値観・経験を通して生きている他人が対象だから
・合奏指導の場合、個人ではなく「集団」を指導することになるから

です。

したがって、指導の真っ最中に

「どうしたらいいのかわからない」
「どうアドバイスをしたらいいのかわからない」

という状況に出くわすことは、日常茶飯事です。

ここで指導者が陥ってしまう罠が2つあります。

1:自分が受けてきた指導の記憶を「検索」して、目の前のひと/状況に役立つかどうかを考えずに過去の被指導体験をそのまま押し付けてしまう。

2:なんとなく『「正しい」と思われる=「自分は間違ったことをしていない」と主張できる』指導をしてしまう。

いずれもどうしても、

・型にハマった
・抽象的で
・高圧的

な言葉や態度を誘発してしまいます。

現在、30代後半〜50代前半くらいの指導者の多くは、自らの中学〜大学時代を通じて、暴力的・高圧的・画一的な指導を受けることが当たり前だったでしょう。ですが、そういった指導法に強い疑問を抱き、「もっとよい指導があるはずだ」「自分はこんな指導はしないぞ」と内心思っていたひとが多いです。

しかし残念なことに、その疑問を表明したり、異なる指導法を提唱することがやりづらく、またそういう指導のモデルもなかなか見つからず指導者として手探りで悩んでいるひとも多いです。

一方、現在20代〜30代の指導者はその学生時代からすでに、世の中が暴力的で威圧的な指導に批判的になっており、海外の情報にも日常的に触れられる状況で育っています。そして、すぐうえの世代がすでに指導の在り方を変えようという決意を持ってくれているおかげで、潰してふるいにかけるのでなく、もっとひとりひとりを伸ばし成長させていく指導の探求をすることを応援してもらっています。

そして50代後半〜70代のベテラン指導者たちのなかの探究心や生徒への愛がいまでも新鮮な頭の柔らかいひとたちは、率先していまの時代に役立ち通じる指導法を模索し、学び、後を継ぐすべての世代の指導者たちの後ろ盾になろうとしてくれています。

ひじょうにざっくりと見立てると、現在はこういった状況にあると思います。

つまり、

・「非暴力的・非高圧的・非画一的」な指導のやり方の探求と実践をするうえでの障害はすごく減ってきている

と同時に

・では具体的にそれをどうすればいいのか、というモデルやノウハウはほとんどなく、誰でもまだ先駆者的な状況

であるということです。

ですから、いま多くの指導者がより良い指導をしようと強く意識しながらも、やり方がよく分からず、慣習的によしとされてきたことに反するようで怖く感じたり混乱を感じたりするのは無理もないことなのです。

【言葉の総とっかえプロジェクト】

ではどこから手をつけたらいいのか。

まずは、生徒を指導しているときに指導者である自分自身が使っている言葉を全部意識してみることです。「言葉の総とっかえプロジェクト」と名付けてもよいかもしれません。

言葉という日常的で根本的なものを見直す。しかも全部。

それはずいぶん大変なことに思えるかもしれません。

しかし、指導時において「言葉」は、指導のツール であると捉えれば、口にするあらゆる言葉、選択するあらゆる言葉何らかの「指導効果」を持つものであることがわかります。

であれば、より良い指導を目指すという目標で動いていけば、言葉を意識することと選択することの対象とすることはまったく大変でなく、自然な成り行きとなります。

普段、家族や友人と話すときの「言葉」と、指導で選択する「言葉」は、まったく別だと思うと気がラクになるかもしれません。何も、日常から言葉を見直せと言っているわけではないのです。

この「言葉の総とっかえプロジェクト」は、「指導効果を上げていく」ゲームだと思ってください。

・状況や相手をよく眺め(観察)
・その時点で選べる言葉のなかでベストと思えるものをとりあえず使ってみて(実験)
・それがどんな結果や効果につながっているかを確認する(測定)

この 

観察→実験→測定

というプロセスを、自らの指導時に使っている「言葉」に関して取り入れていくわけです。

これは常に完璧でベストな言葉を使おうとする試みでなく、継続的に言葉の選択と使用のスキルを練習することで、絶え間なく指導効果を上げていく、限界のない楽しいプロセスです。

【まずは挨拶から】

指導はいつ始まっているでしょうか?

指導者と生徒が挨拶をかわすところからです。

「挨拶」を礼儀やしつけの問題と見なすか、そこも音楽のレッスンの一環と見なすかはひとそれぞの意見が分かれるところでしょうが、わたしは「挨拶」の場面から 「演奏者が奏でたいと願っている音楽を実際に奏でられるようにすることを助ける」プロセスが始まっていると考える事をより重要視する方が、音楽のレッスンや部活指導においては本質的に大事で的確であると思います。

とくに日本では、指導者と生徒の間で、生徒が指導者に対して大きな緊張感を感じながら指導を受けていることが多いので、はじめの挨拶の場面でいかにその緊張をほぐし、楽しく明るい信頼関係を作っていけるかで指導効果が全く変わってくるでしょう。

とくに吹奏楽部では、はじめて外部指導者が来る時の、おきまりの「起立・礼・よろしくお願い致します!」の挨拶のときに、生徒たちは著しく身体を硬直させています。

部活というものの性質上、そういった挨拶のやり方を徹底させることにとくに疑問を持たないのは自然なことなのですが、「演奏者が奏でたいと願っている音楽を実際に奏でられるようにすることを助ける」ということを指導の目的とするならば、そのお決まりの挨拶のやり方から、改善する余地がものすごくあります。

わたしの場合は、ですが、吹奏楽部に指導に行った際に、「お決まり」の起立・礼・挨拶の言葉のルーチンをこなしている生徒の様子を見て、そこに緊張や硬直が見られた場合、意識的にそのルーティンを「邪魔」してみます。

生徒が一斉に「よろしくお願いします!」と全身を硬くして無表情もしくは歯をくいしばるような表情で言う前に、こちらからいきなり質問をしたり話を投げかけたりして、「調子を狂わせる」ことをやってみるのです。

そして、「緊張と硬直のルーティン」を完結させずに、座らせてしまいます。

生徒はもちろん困惑するのですが、

・きょうはいつもとちょっとちがうことをやるのだよ
・わたしは怒ったり怒鳴ったり責めたりしませんよ
・「頑張る姿勢」という名の下に緊張や硬直を求めはしませんよ

というメッセージがこもっているわたしのレッスン時間のはじまりとして象徴的でよいと思いますし、いつものお決まりのルーティンをさせなくしてしまうことで、生徒は俄然、興味と集中力を発揮するからです。

儀礼・形式は大切なものですが、演奏や音楽を損ねるほどの緊張と硬直を恒例化することは、生徒ひとりひとり、そして集団としての音楽創造に+になるとは、到底思えません。

そこで、「挨拶」をするなら、型にハマったものでなく、心がこもった「対話」として始めるようにわたしは心がけています。

たかが「挨拶」という習慣的で日常的に思える部分でも、「演奏者が奏でたいと願っている音楽を実際に奏でられるようにすることを助ける」ということを指導の目的とするならば、その場面も変化を促す必要がありますし、言葉ややりざまを、「生徒と音楽に寄与しているかどうか」という観点から実験精神を以てちゃんと再選択する価値があるのです。

【「挨拶」を意義ある時間にするためのアイデア】

たとえば吹奏楽部の合奏指導の場面で、「挨拶」の時間や「指導者からのお話」の時間を、

・生徒にとってワクワクする時間
・生徒の緊張をほぐし、創造性を解放するクッション
・集団としての音楽創造の土壌を整える作業

として使えるとすれば、なんとなく硬く型にハマって、しかも心身を緊張させるだけのお決まりの挨拶を続けるより、よっぽど素敵だと思いませんか?

それにつながり得るアイデアを、ほんの例としていくつか挙げてみます。

①お誕生日のお祝いをする

その週もしくはその日にお誕生日のひとがいたら、部員全員でハッピーバースデーの歌を合奏&合唱するというのはどうでしょう?

これは、やってもらえると分かっていても、やってもらったらものすごく嬉しいですし、感動的です。合奏を非常に明るい気分と雰囲気でスタートさせるのに絶好の方法です。

しかもこういうときは特段、生徒の音が良くなります。

なぜか?

誰かのために心をこめて演奏するということが、音楽の本質だからです。本番でこそスケールの大きい熱演をするための隠れた練習法のひとつになります。

また、先生が伴奏をバックに熱唱するのもよいでしょう。ちょっとした道化になってあげてください。生徒はそういう大人を信頼します。

②感動する話 or 面白い話を用意する

合奏前や、途中の気分転換などに、先生が感動する話や面白くて笑ってしまうような小話をしてあげるのもとてもよいものです。

とくにコンクール前の根を詰めた練習が続く時期は、こういったクッションは決定的に重要です。

こうしたほんのちょっとの工夫で、生徒のやる気と集中力は格段に高まります。

③生徒の個人的な成長を、みんなの前で讃える時間を作る

生徒名の一覧を作ります。

人数によりますが、むこう3ヶ月に予定している合奏の数で生徒全員の数を割っておき、グループ化しておきます。これが「合奏前に褒めるひと」のリストです。

パート練習を少し聴きに行ったり、あるいは合奏中に気付いたことをメモを取っておき、次回の合奏で褒める予定になっているひとの成長や進捗に目を向けるようにします。

次回ほめる部員と同じパートの別の部員をちょっとつかまえて、最近気付いた褒める予定の部員の成長などを聞き出しておくのも良案です。パート別のコーチから聞き出すのもひとつの手段です。

そして、合奏前に、その回褒める予定だった部員をひとりひとり、直接言葉を贈って褒めるのです。その際、ひとりづつ立たせ、褒め終わったら部員全員から拍手を送ることを「決まり」にするとよいでしょう。

もちろんひどく照れますが、褒められた部員はものすごくものすごく嬉しいはずです。大きな自信にもなるでしょう。

「褒めスケジュール」をうまく管理して、全員に3ヶ月に1度は「褒める=成長・上達を Confirm (確認・肯定)する」ことを体験させてあげてください。

こういったことを始めると

・指導者にとって、生徒の「伸びる力」の発見力を高める訓練になります。
・指導者と生徒の間の信頼関係が劇的に深まります。
・褒める時間、成長や上達を認める時間を共有することが、生徒同士のチームワークを強力に深めます。

褒められることが、指導者自身が不足して育っていることが多いでしょうが、だからこそ、意識してこういった意味ある形で生徒を褒めるようにしてあげてください。そうすることで、生徒たちは指導者を越えていきます。

【言葉の言い換え例】

・指導効果を上げる「言葉」を選択すること
・生徒を緊張・硬直させ不幸にする言葉を排すること

を徹底していく作業は、個々の指導者が自分なりに

・状況や相手をよく眺め(観察)
・その時点で選べる言葉のなかでベストと思えるものをとりあえず使ってみて(実験)
・それがどんな結果や効果につながっているかを確認する(測定)

という 

観察→実験→測定のプロセス

を続けて行く中で、指導者それぞれの人生・経歴・個性の調和した「言葉力」を作って行くものです。

しかしながら、参考までにいくつか例があると着手しやすいかと思いますので、挙げてみます。お役に立てれば幸いです。

「そこ、リズムがずれてるよ!」
→ 「おっと、そこもう一度確認しておこうか」

「音程が合ってない!」
→ 「いま音程がズレているのに気が付いたかな?」

「周りに合わせて」
→ 「周りの音を聴くと、不思議とすごく演奏しやすくなるよ。ぜひ試してみて」

「ミスするな」
→ 「本番だと思って、ここは絶対カッコ良く決めてやろうっていう気持ちで、思いっきりやってみよう」

「集中しろ」
→ 「あと1回やったら休憩とるから、よろしく頼みました!」

「気合いが足りない!」
→ 「いま、2000人の聴衆が聴いてくれていると想像してみよう。どんな気持ちなる?ドキドキするよね。気分変わってくるよね。その2000人に最高の演奏を届けるつもりで、一度通して演奏してみようか」

「練習が足りない!もっと練習しろ」
→ 「いまのミスはね、実力のせいじゃなくて、たぶん音とか運指が把握しきれていないんだよね。ちょっと譜面を眺めて、頭の中でイメージし直してみようか。そういう作業をやってきとくと、レッスンがもっと楽しくなるよ」

etc…..

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生徒を指導するときの言葉を変えて、成果を出す」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 音質が悪いのは、アンブシュアのせい? | バジル・クリッツァーのブログ

  2. 観察→実験→測定を繰り返すということは、ビジネスや品質マネジメントの世界のPDCA (Plan Do Check Action) に良く似てます。
    やってみたことを測定(チェック)して、次の改善に活かすを事は、どの業界でも一緒ですね。

    • 音楽のレッスンや指導は、相手の演奏の改善や演奏能力の向上のためにやるものですから、測定と教えている内容のチェックは欠かせませんね。

      Basil

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