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わたしはもう10年以上、いちども「ホルンをやめよう」と思ったことがありません。
うまくいかないことは、この間山ほどありました。
耐え難い恥をかいた事もありました。
しかし、「ホルンをやめる」ことは一度も考えませんでした。
なぜか?
それは大学2年目の夏、一度「本気でやめた」からです。
うまくなりたい一心で(より正確に言えば、下手な自分をとにかく許せなくて)、必死で毎日練習していました。
しかし、現実は残酷でした。
わたしはうまくなるどころか、段々と身体が痛くなっていきました。
しまいには、背中と腰の重い鈍痛が悪化し、息をするのも苦しくなってしまいました。
こんな状態では音をロングトーンして保つのもままならなくなりました。
こんなに、必死で頑張って、すべてを投げ打って練習に捧げていたのに、何も報われない。
上達はまったく見られず、体調は悪くなる一方。
わたしは耐えられなくなり、絶望感に捉われました。
そして、激しく悲しくなり、泣きました。
泣きながら、
「もう終わりだ」
と決めました。
本気の、心の底からの決心です。
するとつぎの瞬間、言いようのない寂しさが襲ってきました。
「やめたくない」
「これで終わりにしてしまいたくない」
「ホルンがない生活なんて、考えられない」
わたしはパニックになりました。
続けられない。
でも、終わりなんて受け入れられない。
どうしていいか分からなくなりました。
しかしそのあと、わたしの心は雪崩を打つように変わり始めました。
「本当に、好きなように、自分がやりたいように、自分のためだけに、ホルンを吹こう」
そうすると、さっきまで痛くて痛くて重くて苦しかった背中が、スルスルとほどけていって、信じられないほどさわやかな空気を吸い込むことができました。
本当に久しぶりの感覚でした。
この感覚のまま、ホルンを吹いてみました。
するとわたしは、自分がこれまで体験したことが無いほどラクに、自然に、歓びを感じながらホルンを吹いているのに気が付きました。
そのとき、非常に豊かな、言いようのない素敵な響きがホルンから生み出されていました。
わたしはこのときに、
「自分のためだけに、ホルンをこれからも一生続ける。誰に何と言われようと、結果が出るとか出ないとか、何も関係ない」
と再び心に深く決めました。
それ以来、わたしはいちども、ホルンをやめたくなったことがありません。
Basil Kritzer
バジルさん
いいお話しですね。
心を打ちました。
献身ということですね。
ご一緒出来ますこと、楽しみに。
香西
香西先生
こういう経験をしていて、何度も音楽から遠ざかろうとしたり、
音楽は自分にはあまり関係ないと思おうとしたりしてきましたが、
不思議と人生はいつも音楽に戻っていきます♪
次回お会いできること、楽しみにしております!
Basil
歴史、スタイル、個人の身体的な要件などによって、いろいろな選択の幅がありますね。
自分のために楽器を吹いていてもいいんですよね。
ありがとうございます。
❤️