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たとえば、「音がうすっぺらい感じがする。もっと良い音にしたい。どうしたらいいか?」と考えた際に、
案A
『音を聴きながらロングトーンをしよう』
案B
『息をしっかり支えて吹こう』
案C
『豊かに響くような振動を作り出そう』
と三つの案が出たとする。この三案はそれぞれ、
案A=練習方法
案B=奏法
案C=仕組み
に対応している。
上達したい、美しい音で奏でたい、高音を出せるようになりたい、といった望み・願いに対して、上記ABCを一文につなげると
『何で何をすることで何を起こすか』=『何で(A:練習方法)何をすること(B:奏法)で何を起こすか(C:仕組み)』
ということになる。
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先日、若いアマチュアホルン吹きの男性とレッスンしていて、こんなことがあった。
あるフレーズを構成する各音の音質、音どうしのつながりのなめらかさに彼は自分で不満を感じていた。
わたしは彼に、「これをもっと思い通りに演奏するには、どうしたらいいと思うか?」を何度か問うと、彼は「しっかり息を入れて・・・ロングトーンして・・・」と曖昧ながらも答えてくれた。奏法と練習方法に関する案を答えてくれたということになる。
「それをこれまでやってきて、どうでしたか?」と尋ねると、あまり良い効果は得られてきていないとのこと。
そこで私はこう進めてみた。
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①金管楽器の音は、唇の振動により得られるのはご存知ですね?はい。
↓
②それはつまりなんですか?バズィングのことですね。
↓
③バズィングの仕組み、起こし方はご存知ですか?・・・え??
↓
④ほとんど「おなら」と一緒です。・・・どういうこと?
↓
⑤体外に出る空気により、体の一部が振動するわけです。なるほど。
↓
⑥唇で、おならの真似をしてみてください。プップップッ
↓
⑦できましたね、あとは同じ要領で楽器を構えマウスピースを口につかた状態でそれをやってください。・・・音が簡単にクリアに鳴る。えー!なんでー!
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とても簡単に音が鳴らせて、しかもその音がさっきまでより明らかにクリアで、それが「息を入れる」ことや「何度もロングトーンする」といった頑張りをせずにできてしまって彼は驚き、戸惑い、狐につままれたようだと言った。
さらに続けた。
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8:では、音の出し方はわかりました、あとは出ている音の高さの変え方ですね、どうやって変えましょう?息のスピードを変えます。
↓
9:どうやって変えますか?・・・えっと、唇??
↓
10:やってみてください。・・・うまくいかない。
↓
11:他に生きのスピードを変えられそうなところはありますか?・・・お腹の力使います。
↓
12:やってみてください。・・・あれ!?うまく吹けた!
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苦戦していたフレーズがとても簡単に、スムーズに吹けるようになった。
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「A練習方法」が機能するのは、その特定の譜例や題材を演奏することで「C仕組み」が発生・作動するとき。「B奏法」は、「C仕組み」を起こしたり可能にしたりするものだと言える。「A練習方法」を通じて「B奏法」が形成されたり「C仕組み」が作動されたりすることはあるだろう。ある意味、それが一番楽しいかもしれない。音のことだけを考えていられるからだ。ただし、それは自動的なものでも保証されているものでもない。
「B奏法」は、「C仕組み」を作動させる手段である。ということは、「C仕組み」が作動しているならば「B奏法」は必ずしも意識しなくて良いであろう。また、「B奏法」を意識することは「C仕組み」を作動させる限りにおいて有益である。しかしながらその作動に至るまで数日、数ヶ月といったタイムラグがある場合もあるかもしれない。身体的・運動技能的なトレーニングとして「B奏法」への意識が機能する場合だ。「C仕組み」を作動させる限りにおいて有益であるという点には変わりないが。
「C仕組み」を考えるのは、演奏する、上達するという願いに貢献する限りにおいて有益である。また、「C仕組み」を作動させるそのやり方というのがまさに「B奏法」であり、「C仕組み」を意識したり検証したりしているときに使っている音や譜面に起こすとそれがロングトーン、リップスラーなどの「A練習方法」となっていることもあるだろう。
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自分自身や、アドバイスを贈る他者にとって、どの側面を考えたり取り組んだりするのが効果的(=本人が望むような演奏になる・近づく)は個人差があるように思う。また、同じ一人のひとでも局面や時期によりそれが異なることもよくあることだろうと思う。
考えたことがない側面がもしあったとしたら、そこに注目し考え、なにか試してみることは思わぬ気づきやブレイクスルーを生むかもしれない。
Basil Kritzer