体験談ーアレクサンダーテクニークの体験レポート

先日、このブログでアレクサンダーテクニークを体験してみたい方を募集しました。
その際、数名の方からご応募いただき、実際に体験をしてもらいました。

そのなかで、東京目黒のBODY CHANCE スタジオで体験されたホルン愛好家の青山典裕さんの体験レポートをここで紹介させていただきます。

大変内容の濃いもので、分量は多いですがそのまま掲載したいと思います。

?BODY CHANCE 東京目黒スタジオでのアレクサンダー・テクニーク体験レッスン記?

①レッスンを受ける動機・経緯

アレクサンダー・テクニークという言葉を最初に知ったのは、バーバラ・コナブルさんの「音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと―アレクサンダー・テクニークとボディ・マッピング」でした。
13歳~25歳まで吹奏楽でホルンを吹いていましたが、当時は身体の使い方の効率を良くするなどということを一切考えず(教わらず)にしていたため、身体を痛めてしまい、また、団体での音楽演奏というものに興味がなくなり、6年間ほど楽器から遠ざかっていました。
30歳から再開して、吹奏楽の他にホルンアンサンブルにも参加するようになり、その延長で、32歳から吹奏楽をやめて管弦楽を始めました。アレクサンダー・テクニークを知ったのはこの頃です。
それまであいまいにしかとらえていなかった、身体の骨格と筋肉のあらましをわかりやすく解説し、音楽家が演奏を行う際に、身体には何が起きているのか、どのような意識が身体に影響を与えているのかを知って非常に感銘を受けたとともに、アレクサンダー・テクニークというワークそのものにも興味を覚えました。
アレクサンダー・テクニークの他にも、古武術から派生した身体操作法や、ロードバイク(自転車)の分野での優れた書籍や研究に触れ、ホルンを演奏する技術に取り入れようと独自に勉強していました。
多くの書籍にあたりましたが、やはりアレクサンダー・テクニークは専門の教師から直に教わる必要があると思い、今回の体験レッスンに応募させていただいた次第です。

②レッスンを受けるにあたっての望み

レッスンを受けるにあたって、それまで自分が知りたいと思っていたことは、
・「頭は前に、上に」の実際
・ホルンの演奏も含めた身体を使うというテーマにおいて、自分はどの程度の理解を持っているのか
・ホルンを持って支える腕と、立位・座位での足の使い方
大きくわけて以上の3点でした。

③レッスンを受けてみてのレポート

初回のレッスンは、ホルンを持参せず、すべての基本となる身体のイメージを学ぶことにしました。
まず最初に確認したのは、頭と首の関係。頭骨と頸椎の接点は、両耳をつなぐラインと、上顎-ぼんのくぼをつなぐラインの交点にあることを骨格標本を見ながら自分の身体にフィードバックしました。
これにより、頭を動かすと、頸椎もつられて動いてしまっていることに気づきました。頭だけを動かしているつもりでも、認知がおろそかになっている頸椎を意図せずに動かしていて、楽に伸びていたい頸椎を無理に縮めさせるという負担を強いていたのです。
そのため、頸椎と、当然そこから下に続いていく胸椎・腰椎にも不用なストレスを与えていて、それが肩こりや腰痛そのほかの疾患を引き起こす原因となっているのですが、元より頸椎・胸椎・腰椎に対する認知がおろそかになっていますから、そこに原因があるということに気づきにくかった。これが私が学んだ新たな認識の1つ目です。
1つ目の認識を元に、ヘッドリードというワークを行いました。頭骨と頸椎の接点を基点として、不用意に頸椎を縮めずに、頭骨から先行して動かしていきます。この動作は、初めて行うと、大変不思議な感触を得ました。自分の身体なのに自由に動かせない? この驚きにこそ、アレクサンダー・テクニークが教える「自由と思っていたものは実は自由ではなかった」という重要なポイントがあるのです。
さらに、ヘッドリードをわかりやすくするために、目を動かします。前を向いて、頭骨と頸椎のバランスを整えた状態から、まずは下を見るように目だけをゆっくり動かしていきます。その動きに続いて頭骨を下に向けていきました。
頸椎は、頭骨の動きに沿わせていくだけです。さきほど頸椎を意識できていないと書きましたが、そうかといって頸椎を率先して動かしていこうとするのも、またおかしなことになります。今度は頭骨のことを忘れているわけです。あくまでも、頭骨と頸椎のバランスを意識する必要があるのです。
ヘッドリードで下を向く動作がうまくいくと、首がとても楽に感じます。それだけ、今までは首を縮めて苦しめていたということです。上を向く時にも目を動かしてヘッドリードを行います。下を向いた動作をただ逆回転再生すればよいのではなく、頸椎が萎縮しないバランスを感じながらの動きを作っていきました。

ヘッドリードの次は、腕と足のワークでした。
積極的に腕を使おうとする私の動きを指摘され、腕は、肩からぶら下がっているのみでよいということを確認しました。腕を使おうとする意識が、頸椎を縮めて固める動きに連動しやすいということに気づいたのです。
ホルンでも、日常生活でも、腕を使わずにはいられません。私は普段在宅でパソコンを使ったデスクワークを生業としているので、腕は特によく使いますが、普段から、首と肩に力が入っていると腕を動かす効率も落ちるというイメージがあったので極力上半身を力ませるようなことはしていませんでした。そのおかげで肩こりはあまり感じたことがありませんが、頭骨と頸椎のバランスや、腕を強く意識することが頸椎に影響を与えるということにまでは理解が及んでおりませんでしたので、これまでより多くの理解と注意する意識を得ることができました。
足については、そのスタートである股関節を骨格標本で再確認するところから始めました。
ここで、私のイメージしていた股関節は、実際の位置よりもかなり上になっていたことを発見したのです。
どうやら私は、これまで、歩く時や走る時など、足をよく使おう→足を長くしようという様に無意識に考えていて、それが股関節の位置を誤認させることになっていたようです。その結果、足の動きの開始点のイメージが腰椎に非常に接近し、腰椎に負担を強いるような状態になっていたのだと思います。これはおそらく頸椎にも影響を与えていたことでしょう。
実際、股関節の位置を正しくとらえなおすと、まるで足が短くなったような気がしましたが、その分、腰椎をもっと大きく広いものとして認知できるようになり、歩く時に、足を、これまでのイメージよりももっとずっと下にある股関節から、アンダースローで前に振り出すという意識を持つと、余計な力を入れずに楽に動かせることを確認できました。

次のワークは前屈です。頭骨と頸椎のバランス、股関節の位置を確かめ、腕は肩からぶら下がるだけ、足も股関節からぶら下がるだけという状態を作り、ヘッドリードからゆっくりと頭骨を下に向けていきます。頸椎を萎縮させず、頭骨が十分に下がったところで、股関節を動かして上体を前屈させていきます。
ここで驚いたのは、腰にまったくストレスや負担を感じることなく、前屈が易々とできてしまったことでした。頸椎から腰椎までが縮こまらずに楽にアーチを描くようになれば、上半身の重量は頸椎から股関節までの背面全域で支えることが可能になって、広範囲の筋肉を使えるので、首や腰に負担が集まることがありません。
つまり、腕や足で何かの動作を行っている時に、その動作から遠く離れているはずの首や腰が痛いと感じた時は、痛いと感じた箇所に萎縮と緊張が起こっていた、ということなのです。
腕や足を使うには、使いたい部位を優先させるのではなく、まず頭骨から股関節までのボディがストレスなく楽になっている状態を確認してから、ということに気づいたのが、新たな認識の2つ目です。

新たな認識の3つ目は、座位です。椅子に座っている時でも、股関節の位置を誤認していれば、足が緊張して固くなり、やはり腰椎を痛めることになります。座っているので足はさほど使っていないだろうというつもりだったのが、それどころか立位の時よりも緊張しやすくなっていることに気づきました。
座った状態で足の緊張を解き、股関節の位置を再確認します。そこから床の上の物に手を伸ばして拾い上げるというワークを行いましたが、初回のレッスンの冒頭でこの動きをした時は、腕も足も突っ張って固く、頸椎も腰椎も縮めていました。あらためて同じワークをすると、立位からの前屈と同じく、ヘッドリードから始まり、股関節を動かしていけば、上体は難なく下がってゆき、」、足も突っ張ることなく、床まで容易に腕を伸ばすことができました。

ここまでで初回のレッスンが終わりました。レッスン時間は30分で、始終ゆったりした動きのみでワークを行いましたが、その内容はとても大きく充実したもので、おそらく30分以上続けても、自分の理解と把握が追いつかなくなっていたと思います。

1週間おいて、2回目のレッスンを受けました。今度はホルンを持参しました。
初回のレッスンでアレクサンダー・テクニークの基本に触れて、具体的にホルンを演奏する時に自分の身体に起きていることを知ることが目的でした。
まずは復習として、頸椎は7個、胸椎は12個でそれぞれ肋骨が接続され、腰椎は5個、これら24個の椎骨が頭骨から骨盤までを一続きとしていることを再確認しました。ボディの動きをヘッドリードから始める際も、24個の椎骨が1つも余さず連動していくことを、次に、股関節から膝、膝から足首に至る足の関節がやはり連動することを確かめました。

まずは立位でホルンを構えて、いざ音を出してみると、確かに響いてはいるようですが、音の立ち上がりが不明瞭で、音の伸びも今ひとつのように感じられます。
そこで、ホルンを床に置いて、もう一度最初から、頭骨と頸椎のバランス、股関節の位置、頸椎~胸椎~腰椎の連動、股関節~膝~足首の連動をとらえ直しました。立位が安定した状態で、ホルンを持たせてもらい、そのまま音を出すと、自分でも驚くほどの豊かな柔らかい音が鳴りました。発音もスムーズで、ロングトーンもいつまでも続けていられそうなほどです。
それに加えてさらに驚いたのが、持っているホルンがとても軽く感じられた、ということです。同じホルンを2年ほど使い続けていますが、普通、立位で楽器を構えていれば、さほどの時間もかからずに腕が疲れてきて、持ち上げていられないほど楽器が重く感じられてしまうのですが、まるで同じ楽器ではないような軽さでした。
このとき、先生から大変重要な指摘を受けました。私は最初に音を出した時、上体が後方にやや仰け反っていた、というのです。もちろん、そのようなことはまったく自覚しておらず、まさに目から鱗が落ちるような、大きなショックを受けました。
つまり、私はこれまで、楽器の重さを支えるために自分の身体に引き寄せようとし、その意識が上体を仰け反らせる動きを作っていたのです。ここにも、自由なつもりが自由でない、という現象が起きていました。
何度か立位での姿勢を作り直して音を出すと、やはり、持っているホルンの重量が変わったと感じた時は音も変わります。重く感じた時は発音が鈍り伸びない音、軽く感じた時はクリアな発音で深く豊かに響く音になりました。まさにこれが、私がアレクサンダー・テクニークを通じて知りたかったことだったのです。なんとも素晴らしい感動を覚えました。

次に、実際のホルン演奏の場面で最も多い、座位での音出しです。
椅子の右横の床に楽器を置いて、座位の姿勢をとらえ直します。そこから床の楽器に手を伸ばして持ち上げるのですが、その動きを何度か繰り返して、楽器を拾い上げることに意識が偏って、ボディワークが疎かになることを解消しました。
ホルンを膝の上に置いてからも、ボディワークの再確認を繰り返しました。立位と同じく、ボディが均整を保つことができていれば、とても良い音が出ますが、さきほどの立位の時ほどではありません。
ここで、さらに指摘を受けました。膝から楽器を持ち上げて構える時に、右腕の肘を締めていて、身体を固くするような傾向がある、とのことでした。これもまた意識していなかったことです。膝の上の楽器を、構えた状態に移動させるまでの間、身体の動きを最小限にして最短距離を取った方がよいのではないかという考えが私にあったのかもしれません。
あらためて楽器を膝の上に置いて、今度は右腕の肘を浮かせて、マウスピースをリップまで移動させることに注意して構えてみました。すると今度は、立位の時と同じく豊かな音を出すことができました。何度か繰り返しても再現できるようになり、腕の使い方を再認識した次第です。今後、左腕の肘にも同様の検証が必要になるでしょう。
また、在宅での練習時はミュートを使います。当然、通常の演奏時とは右手の位置が変わってくるのですが、ここまで教わった、段階を踏んでボディワークを行い、手っ取り早く音を出そうとするエンド・ゲイニング(結果主義)を抑制する意識を常に保つことで、同じ状態にできることをしっかりと学びました。

④結び

30分ずつ2回のレッスンで、自分でも驚くほど多くの要素を学ぶことができました。実際にレッスンを受けるまでの数年の間に、アレクサンダー・テクニークや他分野の多数の書籍を繰り返し読み、一方の解説をもう一方の解説と比較したり、双方の共通点を探ったりなどしていたことが、自分自身を、ご指導いただいた先生の的確な指摘とアドバイスに対して、拒否感なく、共感しやすい状況に置くことができたのだと思います。
このような機会を与えていただいたことに、深く感謝と御礼を申し上げます。

補記

以下は、2回のレッスンを通して、自分自身に実際に起きたことを記します。

●首関節のストレッチでほとんど音が立たなくなった。
以前は、ストレッチを行うと、特に首が大きな音を立てていましたが、1回目のレッスン後、常に頭骨と頸椎のバランスを考えながら生活していたところ、ほとんど音が立たなくなりました。頸椎の萎縮が解消されつつあるのだと思います。

●睡眠が深くなった
2回目のレッスンを終えてから1時間ほど経過したころ、帰宅する電車の中で不意に眠気を感じ、実時間で3分程度のうたたねをしましたが、それが非常に長い時間に感じました。覚醒した後はとても爽快でした。
帰宅後も、就寝時、眠るまでの間ボディワークをイメージしながら眠りにつくと、非常に深く落ち着いて、朝までぐっすり眠れるようになりました。

●ケースに入れた楽器を持つのが軽く感じた。
2回目のレッスンに向かう時と、レッスンから帰る時とで、ケースに入れた楽器の重量感が明らかに異なっていました。帰宅の間はずっとケースを軽く感じられていました。

●エンド・ゲイニングに気づく。
1回目のレッスンを終えて帰宅後、自分の抱えていた悩みに対して、一つの結論が出ました。
冒頭に記したホルンアンサンブルには、5年在籍していましたが、ここを辞去しました。
数年ホルンを吹かなくなり、再開してから参加したアンサンブルでしたが、その中で求められる音色・音量を出すことがなかなかかなわず、自身の技量不足を常に悔しく思っていました。

今回、レッスンの直前に、ホルンアンサンブルの年1回のコンサートを終えたばかりで、アレクサンダー・テクニークを直接学ぶにあたり、アレクサンダー・テクニークで自分の能力を向上させていけば、ホルンがもっとうまくなれると考えていました。
しかし、レッスンを通じて、自分自身をあらためて見つめ直すという意識を持ち得たときに、この、なんとかしてうまくなりたいと考えることは、結果だけを求めている、エンド・ゲイニングなのではないだろうか、と気づいたのです。
アンサンブルの中で周囲からの要求に合わせようとして、無理な背伸びや努力をしていた、そのことが自分自身を正しく見ることをを妨げている。この、欲望に基づく気持ちを抑制してみると、そこに答えが見つかりました。
今の自分にはアンサンブルの要求に合わせることができない。5年続けたアンサンブルを辞去することが、自分の本当の姿である、と、まさに腑に落ちるように、落ち着いて考えることができました。
辞去したことに一抹の寂しさは感じるものの、精神的にとてもすっきりしたことの方が大切に思えます。

今回アレクサンダー・テクニークを直接学んだという巡り合わせは、これから先も長くホルンの演奏を続けていくだろうという予想の中で、そのタイミングが早くても遅くても、今回ほどには多くのことを得られなかったと断言してもよいぐらい、私にとって価値あるものなりました。

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