歌の指導をされている T さまより、指導に関する質問を頂きましたので、お答え致します。
質問1:歌いだしの呼吸と発声のタイミングを合わせるのが難しい。
私は、歌い出す時に「息を吸うつもりで声を出す」という方法をとっています。もちろん息は物理的に外へ出るわけですが、イメージとして「部屋の空気をいっぱい吸う」感覚で、と伝えます。それによって鼻腔や目が開き、軟口蓋が上がるからです。
しかしどうしても、自分自身もそうなのですが生徒さんも歌いだしは「声を出すもの」だとの意識が働き、押してしまう、前へ出す意識が強くなってしまう。そのためにひっかかりのある喉声になりがちです。
回答:イメージより、「実際」の方が効き目が高い
なるほど、つまり防ぎたいのは
「生徒さんが声や息を前に押し出そうとして頚や喉を固めてしまうこと」
ですね?
であれば、「イメージ」よりも、「実際に起きている事を想う」方が直接的に役に立つ可能性があります。
イメージだと、そこから指導者が伝えようとしている「実際」を生徒が読み取る能力やセンスが必要になります。こういった能力やセンスを、音楽や演奏(歌唱)技術
に上乗せして要求するのは酷ですから、なるべく「指導者の言った事をそのまま『想えば』うまくいく」そんなキーワードやアイデアを手渡してあげたいですね。
今回に関しては、
「息(声)は斜め前上へ出す」
というアイデアが、望んでおられることを効果的に伝え、かつ言われた側も効果を実感しモノにしやすいかと想います。
以下のようなプロセスを使って指導してみればきっと効果的でしょう。
①口の天井を、舐めてみます。
②奥の方が柔らかいですね。これが難口蓋。前の方は硬いですね。こちらは硬口蓋。頭蓋骨の底部でもあります。
③息は実は硬口蓋まで行ってから、天井に沿って前へ流れ出ていきます。ということは放っておいても息は必ず前にしか流れない形になっているわけです。であれば、「息(声)を前に出そう」としなくても大丈夫ですね!
④大切なのは、息を硬口蓋まで送り上げることです。
⑤自分の身体の中の、斜め前上方向に感じられると思います。
⑥「息を斜め前上方向に、硬口蓋まで出すつもりで歌いましょう」
ぜひ試してみてください。
質問2:途中の息継ぎの方法。
ワンフレーズ歌って次を吸う時、私自身が出来ていないのですが頭では「身体をゆるめて息は入ってくるだけ」と分かるので生徒さんにも伝えるのですが、そうすると身体の張りが無くなり弛緩しすぎてしまいます。そのバランスがなかなか分かりません。
そして、息が入った→次を発語する、が2段階に分かれてしまいます。本当なら息が入るのはさほど意識することではなく自然に行われ、その次の発語の方に意識がおかれるのが良いのだろうと思います。
回答:「身体をゆるめる」ことより、「何を能動的に行えばいいか」を考えた方がよい
実はですね、身体をゆるめるだけでは息は入ってきません。
息を吐いているとき、吐くための筋肉が働いています。
そのあと、息を吐くための筋肉は緩みますが、これは自らの力で緩むのではありません。息を吸うための筋肉が働くおかげで、息を吐く筋肉は緩みます。
仰る通り、歌(音)は「吐く息」で生み出されますので、意識のほとんどは「吐く」方に向いていてよいと思います。
しかしながら、スキルが上がるということは「吸い方」も色々調節できるようになるということです。
ですので、「吸い方」も身体の現実に沿って知る(意識する)と、意外と役立ち、「自然な奏法(歌唱)」に寄与すると思います。
以下は、「吸い方」に関して役立つであろうアイデアです。
①「息は、胸の上のほうに入って来る。だから、胸の上の方や肩が動いたり上がったりするのはとても喜ばしいこと。息を吸うときはぜひこのあたりを動けるようにしてあげよう」と想ってみる。
→胸の上の方や肩が動いてはいけない、上がってはいけないと思い込んでいて固めてしまい、うまく吸えなくなっているひとは非常に多いです。これに対しとても役立つ「想い方」です。
②「肋骨は、背骨につながっている。なので息を吸うとき、身体の真ん中や後ろ側にも動きがたくさん起きる」と想ってみる。
→「胸を開かねばならない」と頑張り過ぎて、胸を腰から持ち上げようとしていたり、背中を沿っていたりするひとも多いです。これは脊椎の動きであり、呼吸の動きとは関係ないです。すごく大変です。そういう人たちににとって、肋骨は身体の横にも後ろにもあり、真ん中のほうで背骨とつながっていると知る事が、それまでの思い込みからくる頑張りを手放してもっと自然な動きへと整理されるきっかけを生みます。
③「吸った息は、意外に前の方を通る」と想ってみる。
→多くのひとが、息を「後ろへ」吸い込もうとしすぎています。実際には息が通っていく気道は、かなり前の方にあります。背骨が耳たぶの真下にあります。横から見ると首の真ん中です。その前に食堂があります。そのさらに前に気道があります。吸い込みを頑張り過ぎのひとに対しては、「想っていたより5センチ(!)前を意識してもらうと有効でしょう。
以上、参考になれば幸いです。