中高生を中心に、部活や楽しみで楽器演奏をする若い方々に対し、楽器演奏の指導やアドバイスをすることがある方々にとって、
◎有効・有益なアドバイスをする
◎指導対象の子どもたちが幸せに充実して音楽活動をする助けになる
ために役立つかもしれない、「指導の場面における発想の原則」のようなものを3つ、書き表してみたいと思います。
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①試す・比べる、の”実験方式”
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ひとつめは、指導の流れを「試す」→「比べる」→「選ぶ」という、ものにすることです。
この流れでやるこだけでも、生徒にとって合わないことや生徒が望まないことを押し付けてしまうようなことが構造的に減らせます。
ただし、「試す」→「比べる」→「選ぶ」という行為の主体はもちろん生徒本人でなければ、生徒はただの駒になってしまいます。
指導者が担うのは、「試す」→「比べる」→「選ぶ」という流れを促しサポートする役目です。
《試す》
指導するということを、ここでは『生徒の演奏能力の向上と、生徒の望む音楽演奏の実現に資すること』と定義します。
そうしますと、「試す」というのは、
◎まず演奏してもらって
↓
◎その様子を指導者が見て・聴いて
↓
◎現状の分析して(ここは相手に伝える必要は必ずしもない)
↓
◎もしかしたらこうすると改善・解決するかもということを提案して
↓
◎提案内容をとりあえず実行してみてもらう
ということになります。
《比べる》
「試す」前の演奏と、試した後の演奏を比較します。
◎本人は、どう感じたか
◎指導者は、どう感じたか
◎その場にいる周りのひとは、どう感じたか
が比較結果の情報源です。
いちばん大事なのは、演奏している本人が手応えや喜びを得られることです。なので指導者の役割は、ここのフェーズでは
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☑改善の兆候を、明らかなものから表面的ではない本質的なものまで察知する
☑演奏した本人がどう感じているのかを把握する
☑客観的には確かに改善しているが本人は分からない場合、改善しているという事実を伝える・理解してもらえるよう必要な説明やフォローをする
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というところにあります。
《選ぶ》
試して、比べた結果、新たに「よし、今後はこうしていこう、こうしてみよう」というものが抽出されたら、
それを演奏している本人が継続して採用してくれるように、必要なフォローを行うのが指導者の役割です。
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☑どうやって、改善がもたらされたのか。その経過や手法を明示的に演奏者といっしょに再確認
☑その有効性・有益性を再検証、再確認
☑ 演奏者の不安・疑問を聞いてあげる
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「選ぶ」のが最も演奏者本人の意志と権利のみによってできるフェーズですから、指導者にできることは本当に、寄り添ってサポートしてあげるだけ、と言えるかもしれません。
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②リソース
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これは、上記の「試す」のフェーズで、提案をするときのその提案の中身の性質に関わることです。
リソースという言葉は、日本語に訳すと、資源・資材・資産あるいは内に秘めた力、というような語が該当します。
奏法を教えたり、「こうしてみたら」という提案をする際、生徒の身体や着想の可能性を制限・否定するような意味合いの中身にしない工夫をしよう、という着眼点です。
ここではあえて、具体例は述べません。
しかしまず、取りかかるにあたって具体的で簡単なポイントは、教える・提案をする中身をすべて
「~する」
「~してみる」
という具体的なアクションとして構成するということです。
裏返すと、「~しないように」という言葉をまずは使わないようにするということでもあります。
何かやめてほしい・止めてほしいことがあって「~しないように」と言いたくなったときに、
『何をどう具体的に実行すれば、結果的にやめたほうがいいこと・止まったほうがいいことが起きなくなるだろう?』
という角度から考えて教える・提案するということを試みるのです。
これができるようになってくると、あなたに教わった生徒さんはいつも、「あれしよう、これしてみよう」と具体的かつ能動的に楽器演奏にアプローチすることになり、「ああならないように、こうならないように」という窮屈で緊張しやすい発想から解放されていく方向に進んでいくことになるのです。
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③対話・オーダーメイド設計
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これは、上記「試す→比べる→選ぶ」という流れの中で一貫して通底する指導者側のスタンスです。
《対話》
対話というのは、
◎生徒がどう感じているのか、何に悩んでいるのか、どうしていきたいのかを知ろうとし、傾聴する
◎指導者のあなたが、生徒をサポートするうえで必要な情報を、生徒に質問し教えてもらう
ということです。
対話していると、相手の考えていること感じていることを知ることが増えてきます。
そうすると、自分の指導法や、これまで有効性や有益性しか感じてこなかったものの潜在的な問題点や限界が分かってきます。その結果、もっと配慮の行き届いた言葉や提案を紡ぎ出しやすくなってきますし、適用範囲が明確になったり、もっと普遍的に有効・有益な指導法や発想法を模索できるようになります。
反対に、これまで良くない、避けたほうがいいと思っていたことが実は有効・有益である例や条件に気付かされることもあります。
つまりは、対話を通して指導者自身の見識や器が広がっていくのです。生徒から教わることができるということでもありますね。
《オーダーメイド設計》
個々の生徒や、その時々の状況に合わせて指導・提案内容を変化させていきましょう。
試す→比べる→選ぶ、という流れ、
および、
指導とは有効・有益なアドバイスをすることであり、指導対象の子どもたちが幸せに充実して音楽活動をする助けになることであると定義。
これに沿っていれば、指導内容は絶対普遍かつ不変、無謬のもので権威的でなければいけないというプレッシャーが無くなります。
ですから、相手と状況に合わせて、相手の役に立つように自由自在に提案内容を変えていけるのです。
逆説的ですが、毎度毎度オーダーメイドで作り出していく中で、自然と効果的なものが抽出され、ある程度の普遍性を帯びるようになってくるでしょう。
Basil Kritzer