【クラシック音楽家もテスト開発をしないと!】起業家的音楽家Vol.6〜ディアンナ・スワボーダ第三回〜

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ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。

オーケストラの団員になる、ソリストになる、学校の先生になる….音楽家として食っていく・生きていくうえで、標準的な音楽教育の場で前提になる将来イメージはごく限られています。

しかし、現実にはそのいずれにも分類されない音楽家や、いろいろな仕事を組み合わせて真の自己実現をしている音楽家でちゃんと食べていけている音楽家、さらには経済的にかなり成功している音楽家がたくさんいるのです。

こうして、音楽を中心にして起業をし、あるいは起業家的精神でキャリアを形成している人物たちにインタビューで迫るのが、アンドリュー・ヒッツ氏の同名のポッドキャスト『The Entrepreneurial Musician』なのです。

今回は、なんとチューバとラップミュージックを融合させた女性チューバ奏者でアリゾナ州立大教授のディアンナ・スワボーダさんのキャリアから学びます。アメリカ全土の学校で2年間にわたり休む暇もなく上演されることなった”金管ラップ”のプログラム誕生の背景、そしてチューバだけでなく音楽ビジネスと音楽商品開発の講義も大学で受け持つデアンナさんの勇気と挑戦の精神に溢れた生き方から大いに刺激をもらいましょう。

それでは、どうぞゆっくりお読みください。

前回【自分自身の「成功の定義」を具体化する】はこちら

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【クラシック音楽家もテスト開発をしないと!】

Andrew
『それでは、大成功した学校向けの全校集会上演用プログラムについて話を聞きたい。まず、どのような名称だったのかな?』

Deanna
『「Brass Rap = ブラス・ラップ」という名前だった。』

Andrew
『それはどういうものだったのかな?』

Deanna
『音楽の歴史、音楽のサイエンス、全部の金管楽器についてのお話をラップでパフォーマンスするというのが織り込まれた30分間のプログラムで、最初はスクールバンドディレクターや楽器店が生徒たちをスクールバンドに勧誘するために使ってもらおうという意図で作った。面白かったのは、商品のデザインや商品のアイデアをひねり出すという観点から見て、わたしはこのプログラムのテストを2年….いや、4年間テスト開発していたということね。最初に着想を得たのは、あるとき全校集会で金管四重奏を演奏したときのことだった。アンサンブルメンバーの他の3人とプログラムを考えている中で、それぞれが他の3人が演奏している間にちょっとラップを披露することをわたしたちは思いついた。実際やってみるとすごく盛り上がって、とっても楽しくて、家に帰ってから、「これならわたしにも、ワンマンショーでもっとできるぞ!」と確信を感じた。それから3年間、アイデアを思いついては小学校の教室で披露して試してみるということを繰り返していった。たった5分のパフォーマンスでもやってみて、たとえば3年生のクラスでやったときに小学生たちがどう反応するか実験した。スベるのかウケるのか、その都度確かめた(笑)』

Andrew
『たとえば新しい味の歯磨き粉を製造会社が発売するときもまさにそうやってテストを重ねる!会社のアイデアマンが思いついたことをいきなり100万個製造して、「あー売れなかったね」なんていうことはしないんだ。実際にテストするということを君はやったんだね。』

Deanna
『その通り。少なくとも週一回は勤めていたNPO組織の職場から出て学校に赴いてプログラムの部分部分をテストしていきながら、いくつものピースをつないでいった。』

Andrew
『成功してあたりまえだ。だって、それだけ積極的にフィードバックを求めながらテストして改良を重ねた末の完成品プログラムだったんだから。データも一種類だけじゃなかった。データ源が一箇所・一種類だと、テストのときに良い結果であっても悪い結果であっても、それが披露したプログラムの中身の反映なのか、その日の調子がたまたまそうだったのか、その学校独自の反応なのか、判断できない。でもいろんなところでいろんなときにテストしていれば、対象となる顧客像を明確にしていきながら中身を構築できるわけだ。』

Deanna
『まさにそうね。もう一つ付け加えるとしたら、「チャンスに気づく」ということも重要だった。あるいは、居るべき場所に居るべきタイミングで居ることの幸運を掴むことの大切さとでもいうか、そういう出来事もあった。それはわたしのメンターで世界的チューバ奏者であり起業家的音楽家の象徴ともいえるようなサム・ピラフィアンのおかげだった。あるとき、彼がウィスコンシン州にあるゲッツェンというチューバ・トロンボーンの工房に一緒に行こうと誘ってくれた。彼は工房主のゲルハルト・マイノルトに招かれて新しいチューバのテストをNYフィルのワーレン・デックと共にする為に行く予定だった。そこに同行しろという、信じられないような機会をもらった。その日が全校集会プログラムを本格的な興行にかけることにする重要なきっかけになった。ゲッツェンの工房に、多くの音楽事業関係者が居る場でサムが、わたしが教育現場向けの音楽プログラムを作っていることを紹介してくれた。そこに集まっている楽器製作や販売の関係者たちは全国のディーラーと取引しているわけで、学校現場にもちろん仕事があるわけだから、楽器だけでなくわたしのプログラムの売り込みに興味を持ちうる人たちだったわけね。サムはその場で、「さあ売り込め」と。そこでわたしは、楽器や音楽関係の社長たちの前でラップをすることにした(笑)』

Andrew
『その瞬間、君はもう準備ができていたわけだね!』

Deanna
『その通り。準備ができていたのよ!実演テストを繰り返してつなぎ合わせたプログラムがあったわけだから。その場にいたひとたちは、俄然やる気になった。取引先の楽器ディーラーたちが楽器の購入やレンタルをする顧客をもっと得られるように、スクールバンドに生徒を勧誘するための魅力的なものがあるのは大切なことだったから。その人たちがわたしのプログラムのマーケティングをたくさんしてくれて、わたしのプログラムの上演にたくさんつながっていった。そういう意味で、ターニングポイントだった。』

Andrew
『素晴らしいね。以前、全米チューバ・カンファレンスで君が起業および起業家精神を学ぶためのパネルディスカッションを担当していたときに、君がブラス・ラップのことを質問されて話題にした。すると君はその場にいた僕の方を向いて、「アンドリュー、ビートをお願い!」とおもむろに言って、僕は慌ててチューバを構えてビートを吹きはじめて、君はそのままブラス・ラップを実演してみせたことがあったね。その場にいた聴衆の半分は爆笑、半分は唖然という様子だった(笑)。そうやって、その場で実物を見せることができる、というのが物事が大きく前進する鍵だ。サムが、「ここにいるディアンナが、こうこうこういうプログラムをやることを考えている」と言うだけだったら、ダメだっただろう。プログラムをもう作ってあって、そして君がそれをその場でできて、実際の対象となる顧客層と関係を育ててプログラムを開発してあったということがポイントだったんだ。「これなら、紹介できるぞ売り込めるぞ」とその場にいたひとたちに思わせることができた。それで交渉を速やかに締結することができた。そうだね?』

Deanna
『その通りね、正しい場所に正しいタイミングでいて、そして即座に動く準備がすでにできていること。』

Andrew
『こうしてゲッツェン社が関わってくれたことで、君のキャリアは飛躍を見せたということだね?』

Deanna
『そうね、ゲッツェン社は「ゲッツェン・ガゼッタ」というゲッツェンが発行する情報誌で取り上げてくれて、その情報誌は全国の何千人もの人に発送されていた。インターネットが普及する前の話だから、問い合わせは電話でくるものだったのだけれど、記事にしてもらって2週間後から電話がかかってくるようになった。自分でも郵送で冊子やチラシを方々に送っていた。….先日、当時のチラシを大学の音楽起業講座の学生に見せたら、「古臭い!!」とびっくりされたけれど(笑)。何はともあれ、そうやって何千通も郵送していた。でもゲッツェンからの紹介があってからは、頻繁に電話が来るようになって、いくつかの学校から上演してほしいという依頼が来るようになった。そこから広がっていった。でも、実はツアーはゲッツェンの紹介がある前の、テスト開発段階で最初に経験していた。それは自分が住んでいたワシントン州の街で行ったものだった。知っている人たちがいる環境でテストをしていくのはオススメね。試させてくれる場も多いし、お金にはならなくても記事や口コミになって「ソーシャルプルーフ」(訳注:直訳すると社会的証拠、意訳すると口コミに近い)が得られて次の機会につながっていく。全ての出会いが次の出会いにつながるもので、知り合った一人の人は、もしかしたら他に同じような機会を提供してくれたり興味を持ってくれたりするような知り合いを持っているかもしれない。知り合いの知り合いの一人一人が潜在的顧客である可能性がある。』

Andrew
『知り合いの知り合いの..とつながっていくと、加速度的に潜在的顧客が増えることになるね!サムに連れられて工房に行くまでは、ゲッツェンの誰ともつながりはなかったんだよね?』

Deanna
『その通り。でもサムはそもそも私を誘ってくれたときに、チューバの試奏だけじゃなくて君のブラスラップ上演のアイデアをプレゼンする良い機会だ、スポンサーになってくれるかもしれないよ、とあらかじめ言ってくれた。そして実際にそうなって、わたしはゲッツェン・アーティストとして活動することになり、スポンサー/パートナー関係になった。関係という言い方は現実を表していて、それはいつも全部「ビジネスだけ」ではなくて、人と人して信頼し合えるということも大事。』

Andrew
『もし君が関わりにくい人だったり人格に問題があったりしたらなら、サムはそもそも決して君をゲッツェンの工房に同行させなかっただろうね。君もぼくも、これだけ長く音楽活動をやっていると、一緒にいて楽しくない人もいれば長距離移動を一緒にしている間中楽しくおしゃべりできる人もいる。関係があまり良くならないのは双方の問題はあるだろうけれど、一緒にいて楽しくない人のことを他人に推薦する気にはならないよね。』

Deanna
『そうね。』

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次回【チャンスは突然やってくる。でも、準備は長年重ねる。】に続く
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