あるとき、アマチュア・ユーフォニアム演奏家の方とのレッスンの中でのこと。
この方は吹奏楽団に所属されていて、他の団員から
「きみは音が響いていない。のどのあたりが詰まっているからダメなんだ」
と言われたとのこと。
「こうしてみると、もっと良くなるのでは?」という解決策や改善案の伴わない無いただの指摘は多くの場合、指摘そのものに誤りがあるのでわたしはその時点でその内容に疑問を感じました。
そこで、演奏を聴かせていただくと、他の団員の方が言いたかったことはまあ分かりますが、実際には響いていないわけでものどのあたりが詰まっているわけでもありませんでした。
そこで、
「その団員さんが仰っていることは実際には間違っています。ですから、ひとからそういう指摘を受けたときは、そのまま鵜呑みにせずに必要なフィルターを通しましょう」
と提案しました。
「この場合、『ぼくは本当はもっとが響く可能性を持っているんだな』という解釈をするのが適切だと思います。団員さんが感じたのは、あなたに音がもっと響く余地があるということ。でもその原因の分析はおそらく間違いで、効果的な提案も欠けています」
「おそらく正しいのはもっと音が響くだろう、ということだけ。したがって、『自分はもっと音が響かせることができるだろう』とだけ受け取っておいて、『さて、じゃあどうやったらそれができるかな?』と考え始めることです。この時点で団員さんからの指摘や分析の悪い影響はもう受けてなくて、可能性に目が向いていることになりますね」
具体的には、演奏を観察して分析したことに基づいて
・上行音型は必ずずっとクレッシェンドをし
・各音型の最高音の音価を確保して
・各音型の最高音の音量は次の音まで積極的に保つ
ことを提案して試してみてもらったところ、、みちがえるように響いたし息の流れや音楽の流れもとてもアクティブになりました。
どんな感じでしたか?と尋ねると、
「工夫次第では自分も音が響いて演奏できるんだな、と思いながら吹くことができました」
との返答が。
その返答がとても興味深く思いました。
その日のレッスンの他の受講生や聴講者の方々もすぐに、うんうんとうなづいていましたから、音の変化は明白だったわけです。
しかし、演奏した本人がまず最初に答えたのは、音や吹き心地のことではなく、どんなことを思ったのかということでした。
念のため吹き心地は何か変わったかと尋ねると、ラクだったとのこと。本人もそれを認識してはいます。
ふつうなら、奏法の変化や、音質の改善、自由度の増大などが目的であり関心事でありそれがレッスンの主題になるのですが、「指摘の翻訳」についての話から始まったのでもしかしたらそれがこのレッスンでは大事なのかもしれないと思い、もうちょっと探求してみることにしました。
「試しに、最初から『工夫次第では自分の音はもっと響くようになれるのかもしれない!』と思いながら吹いてみるとどうなるでしょう?」
と提案しました。
実際にそうしてみていただいたところ……
……なんと……!!
さっきよりさらに段違いに演奏がダイナミックになり、音はよっぽど太く響き、強く鳴っていました。
正直わたしもびっくりしました。
他にも仲間から指摘されることはありませんか?と尋ねると、
「低音がバリバリ鳴りすぎでユーフォニアムらしくない。もっと柔らかい音にすべきだと言われます」
とのこと。
そこで同じ発想を適用して、
「では、『工夫次第では、自分の低音の個性のままでもいい感じに吹けるのかもしれない』と思いながら吹いてみるとどうなるでしょう?」
と提案してやってみてもらったところ……
……やっぱり……!!
こんどは低音が見事パリっと鳴って非常にかっこよい演奏になりました。
実はもうひとつ、他に指摘されることの翻訳をやってみて、実行してみるとすばらしい結果につながったことがあったのですが残念ながら何だったかは忘れてしまいました。
ですが、後から振り返ってみると、
・ネガティブで
・不正確な
・改善案のない
・ただの指摘
をされたケースを、
「自分の演奏の次の可能性に思いを馳せる」
という形に翻訳して置き換えると一気に演奏が良くなったということが共通していました。
この方はとっても素直で純粋な方だからこそ、こんなに効果が分かりやすく出たという面はまちがいなくあります。
しかし、このレッスン内容からは読者のみなさまには
【1】効果的な改善案を示さないネガティブな指摘や評価はたいてい不正確であるから鵜呑みにしたら損かもしれないこと
【2】自分の潜在的可能性に着目できるような形に翻訳すること
【3】そうすることでいつの間にか他人の意見ではなく自分自身の前向きな取り組みに変換できること
を受け取っていただければいいな、と思います。
もしピンときたり、興味を感じたりしたなら、ぜひあなたなりに試してみてください。
Basil Kritzer
こんばんは!先日「原因が分からず唇が腫れてしまう」、と相談させて頂いた高1のチューバ吹きです。
練習メニューを見直し、自分のアンブシュアも変えてみたところ、音が安定するようになり、唇が腫れることも少なくなりました!今は楽しく吹けるようになりました(^^)アドバイスをありがとうございました。
今回のテーマも今全く同じ状況で悩んでいたので、とても参考になりました。
これからもこのブログで演奏への考え方や練習方法を勉強していきたいと思います!
ブラボー!
Thank you !
そうだ、以前のやり取りをブログに紹介してもいいですか?
本当にタメになりました!!はい、大丈夫です(^^)
Thank you !!
Basil