「呼吸の出入りの、ちょっとした話」 その5 ピップ・イーストップ著 バジル・クリッツァー訳

☆ロンドンのホルン奏者、ピップ・イーストップ氏の論文です。
原文→http://eastop.net/?p=476

肋骨・胸郭の柔軟性・伸縮性

 胸郭が休息しているときの大きさは、おおよそ、最も拡大したときと最も縮小したときの中間である。以降、この大きさを基準とする。

 肺(これもまた伸縮・柔軟性がある)が空気で満たされ、最大限の範囲まで拡大し伸ばされたとき、反動的に跳ね返ろうとする傾向を持つ。深く息を吸うための筋肉とともに、横隔膜がそのもとの位置に戻ろうとして、急に弛緩する。ため息を引き起こすのである。

 それと似たように、胸郭が最大限に収縮したとき、つまり肺が空になったとき、胸郭はもとの状態にもどろうとする傾向が出る。息を吐くための筋肉群が仕事を終えて弛緩するとともに、静かに深く息が入ってくる。

 この胸郭の柔軟なバネのような、もとに戻る柔軟・伸縮性は、管楽器奏者にとっては、それほど馴染みのあることではない。管楽器演奏で使う息はそれほど強くないし、頻繁に休止があるからである。

横隔膜と腹筋群の間の協調作用の発見する

 深く息を吸ってみよう。そうしたらいきなり、息を吸うのに使っていた筋肉を緩めてみよう。押し出すのではなく、息が出て行けるようにするためだ。ため息のように、胸郭の持ち前の伸縮性に任せて、もとの位置にもどらせてあげよう。

 この逆も試してみるといい。ふつうの状態から深く息を吐いて、もうこれ以上は出ないというぐらいまで肺を空にするまで息を吐き切ってみる。そしたら一気に、今使った筋肉に緊張を手放して、自然で素早い吸気が起こるのを許す。これでもとの状態にもどる。

 次に、さっきと同じように深く息を吸う。しかし今度はとてもゆっくりそれを吐いていってみよう。
すると自然に、横隔膜が働いて、胸郭の収縮にブレーキをかけ、息を吐く事に「中断」をかけるのである。先述の、一気に緩めてため息が起こるのとは対照的である。
(ここで注意:ブレーキかけているのが横隔膜であることによく注意してほしい。声門(ノド)ではない。口から流れ出る息は完全に無音であるように。声門を使って、息にブレーキをかけていれば、ささやくような「ハー」という音が聞こえる。)

 すべての管楽器奏者は、安定した音を演奏し続けるためには、このように横隔膜を使わねばならない。腹筋群にとっては、安定しよくコントロールされた息の出る流れを保つには、横隔膜からのサポートと絶え間ない拮抗作用が必要なのだ。

良い呼吸法の、目に見えて明らかな兆候

 演奏をするために深く息をとるとき、まず最初に起こるはずの主な事は、お腹が前面から側面にかけて外に膨らむ、ということだ。このとき、胸郭が少し広があるのは、必ず伴う事であり、それに抵抗すべきではない。お腹が膨らみの限度に近づくにつれて、胸郭は上向きそして外向きに拡がりはじめるはずである。この間、胸骨は前向きそして上向きに動くだろう。そして、同時に胸郭の幅(脇と脇のあいだ)は大きくなる。肩は、その下にある肋骨にすこしばかり持ち上げられる。持ち上げられるのであって、肩周辺の筋肉によって引っ張り上げられるわけではない。肩の慢性的な緊張を避けるためにも、肋骨の動きの必要以上に肩を持ち上げる必要はない。

 音の出だし、たとえば普通の音量の長いフレーズのはじまりにおいては、胸が膨らみを失って下がってくる間、お腹は前と外に膨らんで保たれている必要がある。胸郭の下降は、息がなくなるまで、次第にお腹の張りと締まりに変わってゆく。コツは、横隔膜の拮抗作用によって、気持ちよい範囲内でお腹の膨らみを保つことである。

その6へつづく

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