学校吹奏楽の現場や、(残念ながら)専門的な音楽教育の場でも、よく言われるのが、「息を吸うときに肩が上がってはならない」ということです。
ですが、これは全く逆です。
肩は上がります。上げないように、動かさないようにするのは、マイナスになってしまいがちです。
肩は呼吸とともに上がったり下がったり動いたりして当然なのです。
なぜなら、息を吸うときは、肋骨が拡がり鳥の羽が広がるようにして上方にも動きます。むしろ、この動きこそが、呼吸の「吸」を実現してくれることですし、「吸」そのものなのです。
写真を観て頂けると分かりますが、肋骨は左右両側にたくさんありますね。
それぞれが独立して脊椎の椎骨に関節でつながっています。また、体前側の胸骨や軟骨部分にもつながっています。肋骨一本一本が、体の前側と後ろ側で関節につながっています。関節とは、うごきの起こる場所です。たくさんある一本一本が、どこにも固定されずに関節で動けるのです。
椎骨一個一個も、上下で別の椎骨と関節をつくります。これは、椎骨一個一個が動ける、ということなのです。24個の椎骨で成る脊椎全体が、動きその内部に持っているし、全体としても自由に動けるのです。
この時点で、呼吸がたくさんの部分がお互いに協調した、大きな動きであるのが分かってもらえると思います。
すると、呼吸のときに「動かさないようにする」という発想自体ががまず、呼吸の構造・設計に馴染みません。
肩の話に戻ります。
肩が上がるのは、当然で、健康な事です。
なぜなら、腕構造全体(手、下腕、上腕、肩甲骨、鎖骨)が胴体とつながっているのが、鎖骨と胸の関節でだけだからです。腕構造は、胸骨でゆるく胴体につなぎ止められているだけで、あとは体に優しく乗っかっているだけです。そして、鎖骨や肩甲骨の真下に、大きな肺ー肋骨の呼吸部位があります。
呼吸がたくさんの動きから成ることは、前述しましたね。そして、「吸」が肋骨の拡がりと上方への動きであることも説明しました。
すると、その上にある腕構造は、呼吸部位の力強い上に向かう動きに乗って、一緒に「上へ上がる」のです。
これを、無理に止めようとすると、呼吸の動きに対して筋肉の緊張で無理にブレーキをかけています。管楽器の音楽の源である呼吸にプレッシャーを加え、さらには体に大きな緊張を作り出します。
おそらく、「肩が上がっている」ことを悪い事だと受け止められているのは、元々は腕構造を頭の方へ引き上げ緊張させるパターンに対して注意を促したかったのでしょう。「肩が上がっている」というより「首がすくんでいる」という表現の方が正しいでしょう。これらは非常に大きな筋肉群で、管楽器演奏にとくに関係ないですし、緊張させるとやはり呼吸にも悪影響があるでしょう。
ですが、現在の現場では、「肩が上がっている」ことへの注意のほとんどは、自然な動きを理解してない、誤解によるものです。ですので、もし「肩が動かないように」と気にしておられる方がいたら、もう気にしなくて大丈夫です。気持ちよく、好きなように動きに任せて呼吸しましょう。
また、そもそも、腕を引き上げる筋肉群の緊張で「肩が上がって」見える人がいたとして、その人に対し「肩を上げるな」「肩を下げろ」「肩を動かすな」という指示は問題をさらに悪化させかねません。必要なのは、腕を引き上げる筋肉の緊張を手放すことであるのに、その緊張にプラスして「肩を下げよう」と別の筋肉群を緊張させたり、「動かないようにしよう」と筋肉を緊張させて動きを殺したりするのは、緊張を増していることになります。
似たような話は、アンブシュアや姿勢にも多くあります。
原則として、「余分なことをやめれば、正しいことは自然に起こる」 ということがいえます。
通説や定説を気にせず、自分自身で観察を深め、自分自身の理由付けを信頼していきましょう。
それが大きな変化をもたらしてくれるかもしれません。