あれ?なんだか今日は息がうまく吸えないな…. と思って頑張って吸おうとしているうちに
あれ?なんだかアタックで音がかすれるな…. となって発音に注意していると
あれ?肩が凝ってきたな…. となって脱力を心がけているうちに
あれ?きょうは妙に唇がバテるな….
となってしまい、なんとなくモヤモヤと不調なまま一日が終わってしまう。
読者のみなさんにもきっと、そんなときがあるのではないでしょうか?
【もぐら叩きスパイラル】
これはいったい、どうなっているのでしょう?
わたしはこれを「もぐら叩きスパイラル」と呼んでいます。
「もぐら叩きスパイラル」は、問題や不調が目立つ箇所や部分を「やっつけて直してしまいすれば、演奏がまともに機能するはず」という哲学によって支えられています。
この哲学でもし実際に演奏が良くなって行くのなら、それで構わないのですが、残念ながら多くのひとにとってはむしろ逆効果で、どんどん調子が悪くなっていきがちです。
ある程度の習熟段階に達したプレイヤーならば、「うまくいっていないところを直す」というアプローチがもはや有効ではありません。それは、「本当ならばもっとうまくいく実力」を備えているからです。
本当はもっとうまくいく実力を備えているのに、表面的な不調や機能不全を「直す」「つぶす」ことをやったとしても、ではなぜ本当はもっとうまくいくはずなのに現実はうまくいっていないか、という根本的な原因に対処していませんから、あるひとつの「うまくいっていないこと」を一生懸命直したとしても、また全然別の「うまくいかないこと」が出てきてしまうのです。
【ふたつの指標】
本当はもっとうまくいく実力を備えているかどうか、その習熟段階に達しているかどうかを判断する指標としては、
「演奏に真剣に取り組んできた期間」
「休むと調子が良くなるかどうか」
が分かりやすいです。
①習熟段階
習熟段階に達しているかどうかは、プロかアマかといったことは一切関係ありません。
金管楽器の場合、演奏に自発的に真剣に取り組んできた期間が5〜6年ほどあれば、基本的な演奏技術は一通りちゃんと獲得できているでしょう。
もし、何年もやっているけれど高音がからっきし鳴らないとか、低音がものすごく苦手で不自由、といったようなことがあれば、それは技術が身に付いていないのではなく、実はちゃんと身に付いている技術が正しく機能し発揮されることが何らかの理由で阻害されている可能性が高いのです。
例えば中学校の吹奏楽部で楽器を始めたとして、その後ずっとある程度真剣な活動をしている部活で続けており、自分なりに個人練習にも励んでいたとすれば、大学の中程にはかなりの「習熟段階」にあると考えて差し支えありません。
事実、多くの音大生は大学後半から卒業後の数年の間に一気にプレイヤーとして明確な習熟ぶりを見せはじめていきます。
②休むこと
習熟段階にあるひとの特徴として、たとえば2日ほど楽器を吹かなかったあと、意外にも休む前より調子が良く、悩んでいたことが解決されていたり、問題の正体に気付けたりすることがあります。
もちろんスタミナや筋力は落ちている場合があり、それを取り戻すのには数日かかることもありますが、演奏技術の質は向上しているのです。
反対に、習熟段階にまだないひとは、休んだら休んだ分だけ、演奏能力が落ちたように感じます。そして、取り戻すのに休んだのと同じもしくはそれ以上の日数がかかるように感じていることでしょう。
【頭の動きと身体全体の関係】
さて、あなたは自分が習熟段階もしくはそれに近いところにあるでしょうか?
もしあるならば、「もぐら叩きスパイラル」はあなたには適していません。
悪いところ、うまくいかないところを「直す」ことがそのまま上達につながることがあるのは、まだ習熟段階にない、初心者に近いひとだけなのです。
それなりの習熟段階に達しているあなたには、別の方法が必要になります。
その方法とは、「本来ならばもっとうまくできる」という前提に立つものです。
人間は幸いにも、「意識する」という能力を持っています。
そのおかげで、望んでいることを実現したり、身につけたりすることができます。
身につけたいこと、実現したいことを的確に意識すればよいのです。
では、調子が良くて、本来持っている能力がちゃんと発揮され機能しているとき、わたしたちに身体にはどんなことが起きているのでしょうか?
言葉で表現すると、
「頭が動いて、身体全体がついていく(反応する)」
ということが起きています。
これが、本来あなたが持っていて身につけている技術や能力が発揮できているときに、身体全体において起きていることです。
ですので、たとえばアンブシュアに関しては「顎を張る」といったように、「こうなってほしい」と思っていることを「意識」するのと同じ要領で、「奏でたい音を奏でるために、頭が動いて身体全体がついていきながら、音を出す」と意識しながら音を出し、演奏することをどんどん試し、取り入れてみてください。
それをせずに身体全体がうまくいっていない状態で、次々に出てくる「悪いところ」を必死になって「もぐら叩き」していく悪循環をこれで脱却しましょう。
まずは、
「奏でたい音を奏でるために、頭が動いて身体全体がついていきながら、音を出す」
そこから始めていきましょう。
(日本トロンボーン協会会報7月号掲載予定)
先生、お久しぶりです。海です。
最近の練習で、急に高音域(F以上)が出にくくなってしまいました。
コンクールで1stを吹くので焦って練習するのですが、練習すればするほどでなくなります。朝、一番に吹くと綺麗に吹けるのですが、時間がたつにつれて、だんだん吹けなくなります。
それと、中音域の音が急にでなくなってしまいました。
二回吹かないと音が出ないこともありますし、出ても息だけ出て、あとから音がでることもあります。
リップスラーをやるとその時は元に戻るのですが、すぐに出なくなります。
曲中も、音が最初から出なくて、かすれた感じで困っています。
中音域も、高音域も練習すればするほど出来なくなってしまいます。
でも、このまえ、一回だけ、きれいな音が出ました。
そのときは、楽器がすごく持ちやすくて、自然な感じで、マウスピースを当てるときも自然とその場所にあたる感じで、とても楽に吹けたんです。
いつもそういう風に吹きたいし、急にでなくなる原因、それをどうすればなおせるか分かりません。
吹けば吹くほど吹けなくなるのはなぜでしょうか。
きれいな音をいつもだすにはどうすればいいのでしょうか。
海さん
これは
・第1にプレッシャー、精神的に息が詰まりそうになっている
・第2に練習の疲労蓄積
・第3に上記二点の複合
がありそうですね。
「きれいな音をいつもだすにはどうすればいいのでしょうか。」
という結びの質問が、実はすごく自分に対してプレッシャーになるような発想です。
いつもきれいな音を出すなんて、無理です。
調子の波はあります。
調子が良くても、ちょっとしたことで音が外れたり変になることは、いくらでもあります。
ですからまずいちばん大事なのは
「ミスしたり、すこし失敗した自分にもOKを出すこと」
です。
そのうえで、自分が自分にかけているいろいろなプレッシャーを取りのぞきましょう。
また、ひとからプレッシャーをかけられたら、自分が自分のクッションとなって、優しくしてあげましょう。
少し個人練習の量を減らしたり、合奏での気合いの入れ方を弱めるなどして、体力の回復を図りましょう。
そうするうちに、きれいな音が出やすくなる自分本来の調子が戻ってくると思います。
自分で自分にプレッシャーをかけていたなんて、おどろきです。
今日の合奏でもチューニングと独り吹きでぼろぼろでした。
急に体が震えちゃって音が揺れてしまいます。
大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせているのですが、
精神が弱いのかもしれませんね……。
それだけ突如崩れてしまうのは、プレッシャーが原因の可能性がありますね。
では、そのプレッシャーは誰が誰にかけているか?
いちばん精神を疲弊させるのは、自分が自分にかけるプレッシャーです。
たぶん、自分でかけているのだと思います。
「ああ吹かなきゃ、こう吹かなきゃ、でもできない」
みたいなことをずっと考えてしまうんです。
「ああ吹きたい」
という希望ももちろんありますが、プレッシャーに消されてしまうのかもしれません。
投げ出す勇気、いいですよ〜(^^)
たしかに、何日間か吹かないと吹く体力はなくなりますが、音はやわらかくなります!
ただ、夏にコンクールがあるんで投げ出せないですね・・・
投げ出すっていうのは、自分が結果に対して責任を負うことをやめるということです。
部活をやめるってことでなく。
まあでも二三日休ませてもらう勇気は出す価値あると思いますよ(^^)
ちょうど、あとすこしでテスト期間に入り、部活がなくなるんで
いいお休みになるかもしれません。
バジル先生は、自分でかけてしまうプレッシャーや周りからかけられてしまうプレッシャーと、どのように向き合いましたか?
周りからのプレッシャーって、結局それを真に受けるかどうかですから、実はすべて自分が自分にかけるプレッシャーなんですよね。
で、自分が自分にかけるプレッシャーはことごとく、中長期的には自分をダメにしていくもの。
結果が悪くなる。改善が行き詰まる。
その現実を見据えることが、ポイントです、わたしにとっては。
バジル先生の言葉を聞いて、やっぱりそうなのかと思いました。
一週間ほどテスト期間だったので部活がなく、ほとんど吹かない状態が続いていました。
それで、久しぶりに吹いたんです。
そしたら、最初は不安定で上手くいかなかったんですが、ロングトーンなどの基礎練習を少ししたら、前より綺麗な音が出て、びっくりしました。
でも、その次の日からはもう出ませんでした。
たぶん、そのとき、プレッシャーや疲れがなかったからきれいな音が出たのかなとおもいます。
でも、部活を休むことはできなくて、ましてや練習中に吹かないこともできないので
いままでどおり吹いていますが、高音の吹きすぎには注意してます。
自分に甘くしてもいいのでしょうか?
海さん
自分に甘くしなきゃいけないです、甘くした方がうまくいくひとは。
根性論、頑張る、耐える、の方が怠惰なのです。
去年の先輩と比べられたり、できないと馬鹿にされたりして、つらいです。
がんばってもいい音で吹けなくて、どうすれば良いか分かりません。
何かいい解決策はありますか?
海さん
海さんの悩みはいつも属してる環境の問題に行き着きますね。
・身を置く環境を、自分の音楽生活をもっと前向きにさせてくれるような、別のところにする。
・いま身を置いている環境に働きかけて、音楽をするひとにとってもっと幸せなものへと変えていく。
・自分自身の受け取り方を変えていく。
そのどれかになるんじゃないでしょう。
・いま身を置いている環境に働きかけて、音楽をするひとにとってもっと幸せなものへと変えていく。
というのはどういったことをしていけばいいのでしょうか?
緊張させられたり、けなされたり、比較されたりするなど、個々の成長に寄与しない指導にははっきり異議を唱え、異なるやり方を提案することです。
緊張させられたり比較されたりすることは間違った事なんですよね!
そうやって働きかければ、自分自身の思いも伝えられるし、何かが変わるかもしれなません!
先生の記事の「感情に気づいてあげる」のように、自分自身の感情に気づいて、それを認めることで、感情が自由になって、音も解放的になります。
そして、意地悪を言う人たちが「間違っている」ということに気づくことができます。
自分自身の感情を認めることは悪いことじゃないんですね!
意地悪は、この国の最高規範である憲法にも明確に違反します。
倫理的にも教育的にも、実際の効果においても(つまり現実的にも)、法的にも、意地悪をいうひとが間違ってるのは確かです。
なんでそのことに気が付かなかったんでしょう!
いままで感じていた感情は間違っていなかったんですね。
気持ちが軽くなりました!
本当にありがとうございます。