【アンブシュアモーションから分かること】

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金管楽器を演奏するひとのなかには、とくに発音時においてアンブシュアや顎がガタつく・揺れる・不安定になることに悩んでいる方々が一定数います。

揺れるとか不安定になるという形容のされ方がする現象には全く異なるものが何種類かあると思われますので、ここで述べるのはそのなかの一種類のみについてです。

レッスンをしていて、この現象が解決または改善できることがあります。

それは、「アンブシュアモーション」を観察することで導き出されるアイデアによりもたらされるものです。

「アンブシュアモーション」とは、金管楽器を演奏するひとの演奏時の顔面を観察すると、音を上げるとき下げるときに、マウスピースの位置が上下していることが観察されることを指しています。

この着眼点はアメリカのトロンボーン奏者、故ドナルド・ラインハルトがおそらく一番最初に発見したもので、ラインハルトはこれを「ピボット」と呼びました。ピボット奏法という言い方で、ラインハルトの考えとはかなり異なる形で現在でも金管楽器をの世界では間接的に少し知られていますが、ラインハルトの考えているものを仮に正とすると、ピボット奏法の考え方は誤りがありますが、その詳細にはここでは立ち入りません。

その後、ラインハルトに師事したトロンボーン奏者のダグラス・エリオットと、そのエリオットに師事したデイヴィッド・ウィルケンらがラインハルトの観察と体系をより科学的な手法で整理したもののひとつがが「アンブシュアモーション」です。

今回の話に関連して大事なところだけを要約すると、

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①金管楽器の演奏時、音を上がるとき下がるときにマウスピースが顔に当たっている位置が動く

②その動きは、誰にでも共通して上下動(鼻方向⇔顎先方向)である。

③音を上がるときにマウスピースの位置が上るひと・下がるひとの二種類に分かれる。音を下がるときは反対方向に動く。

④この上下動の軌道は、ほぼ垂直のひとからほぼ水平に近いくらい角度がついているひとまで、個々人によってことなる。
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この動きが、アンブシュアモーションです。さらに詳しくは下部参照記事をご覧ください。

冒頭の、発音時にアンブシュアや顎がガタつく、揺れる、不安定になっているひとを観察していると、中には発音直後だけマウスピースの位置が発音の瞬間とは異なる場所へわずかに移動しているひとがいます。

これは、発音のときだけ見られるもので、ロングトーン中にはそれ以上マウスピースは動きません。

この、

・発音時の位置
・発音直後のロングトーン中の位置

のズレに着目し、ロングトーン中の位置が、想定している音が出る・出やすい位置であると仮定します。つまり、発音時にセットしているその位置がズレた位置であると解釈するのです。

その解釈に基づき、発音じのマウスピースの位置を修正します。実際の位置のちがいはごくわずかなのですが、多くの場合本人にとっては普段と大きく異なる位置に感じるようです。

しかし、面白いのは、普段と大きくちがうように感じて違和感や戸惑いがあり、音がちゃんと出る気がしないのに、そこで発音すると音もアンブシュアもピタッと安定することがままあるのです。

教える・観察する側の私の方から正しい位置などを想定するのではなく、アンブシュアが安定していないときと安定しているときとを見比べて、うまくいっているときの位置を観察するものなので、実はさほど難しいことではありません。

アンブシュアモーションという着眼点を発見したラインハルト、そしてそれをより科学的に整理したその教え子たちの研究を知ったからこそ引ける補助線なので、すごいのは彼らだということになります。

型にはめることと、パターンを認識することのちがいとでも言える気がしています。興味深いテーマです。

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《参照》
『ドナルド・S・ラインハルトの教育法〜9つのアンブシュアタイプ〜』
『金管楽器のアンブシュア動作』

Basil Kritzer

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