音楽と技術の分離が生み出した「あがり症」

世界ナンバーワンのアレクサンダーテクニーク教師キャシー・マデン先生。毎年来日して私が所属するスタジオ BODYCHANCEでレッスンやセミナーをしてくれるのですが、今年はパフォーマンスやあがり症に関してたくさん話してくれています。

私はずいぶん長い間、楽器を演奏するときの『あがり』に悩んでいますが、手足が震えはじめると焦りますよね。キャシー先生はそれを『アドレナリンを使っていないから』と説明しています。人前に出て演奏をするのは、大仕事であると。そのエネルギー供給のためアドレナリン(興奮物資)が出るのだと。

手足の震えは、そのアドレナリンの作用であると。必要なのはそのアドレナリンを「使う」こと。アドレナリンは普段の練習より本番の演奏をもっと高め深めるためにある。落ち着こうとして興奮を鎮めようとするのは逆効果でありむしろ有害であり、しかもアドレナリンは45分は消えないので無駄であると!

確かに私も、本番の後や、ソロフレーズの後に手足が震えることがある。あれは演奏中はアドレナリンを使っていたけど、まだ余って震えになっているんだな。だから本番前に震えてきたら、走ったり動いたりしてアドレナリンを使い、自分全体をウォームアップしたらいいんだ。

そして何より大切なのは、アドレナリンを使って行う『演奏』の目的・意味。聴いてくれているひとをどんな旅に誘いたいのか。どんなテーマを瞑想してもらう招待を出したいのか。そして、音楽が自分の人生のどんな意義に奉仕するものなのか。そういった「ビッグピクチャー」につなげること。

音大に入ったときに、私が感じたのは、自分の技術の低さだった。そのショックが強くて、いつの間にか私は「技術が無いならいくら音楽のことを考えても無意味だ。まずは正確に全部できるようにならねば」と思い込んでしまった。自己懲罰的に。そして技術と音楽を切り離してしまった。

この分離が、あがり症を生じさせた。だがそこに気付かず、もしくは目を背け、あがり症を悪化させ、失敗を繰り返し、ダメージを深めるという悪循環。分離を強めてしまった。大舞台では統合を自然に回復するのだが、意識的な理解は無かった。意識的統合の方法がいまやっと分かってきた。

いまになって、あがり症とは、本来の自分や、本来の芸術から乖離していることの警報装置なんだと思う。とても感謝できる気持ちだ。非常に多くを、あがり症から学んでいる。

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