「Yesプラン」で指導しよう

歌の指導をされている M さんからご質問を頂きましたので、お答え致します。

【質問】

歌は長く歌っています。指導は始めて間もないです。まったく歌ったことのない方が多い母親コーラスを1年少し指導しています。

歌うことに対して昔のよくない記憶が残っていらっしゃる方もいらっしゃいます。ピアノの勉強をされていたり、保育士だったかたなどもいらっしゃいます。どちらもこれまでに接した知識や記憶にしばられています。

そこへ「歌うとは?」「共鳴」「息と身体の動きとは」をメインにおもしろおかしく例えたり小道具や身振りをいれながら進めています。音階練習は、重きを置いているアプローチに弊害があるためしていません。

悩みは時間が足りないこと。ひとりひとりが違う解決策をもっています。が、ひとりひとりと接する時間がないこと。全体に有効に、となると大まかな内容にとどまってしまうこと。もちろん、大まかな内容=基本、なのでどなたにも有効なのですが。

フレーズを聴いて止めて、伝えたいことが山ほどあるとき、私は今このとき、なにから伝えたいか?一瞬悩むときがあります。悩む空間は皆さんを不安にさせます。「私たちが悪かったのかしら?」と。

その沈黙を各自が考える時間にするのは、もうしばらく歌の楽しみを重ねたあとです。ときとして、その一瞬に私の焦燥や落胆がにじみでているかもしれません。悩む沈黙はどう扱えばよいか?と考えます。

昨年の発表会では皆さん希望通りまずは元気良く歌ってくださいました。今年は和音が空間へ共鳴してゆくのを感じていただきたいです。

【回答】

メールをお読みして、まず思ったことは「Yesプランを探すとよい」ということです。

「Yesプラン」とは、「〜したい」「〜していいんだ」 という思考です。

Mさまの指導を受けている方々は、「歌いに来たくて歌いに来ている」のですよね?

仰っている「記憶」や「過去の経験」が「障害」になるのは、「歌いたいから」なのです。別に歌いたくなければ、歌に関しての過去の経験や「思い込み」は特に何の障害ともなりません。つまり、「歌いたい」という現在進行形の望み・情熱があればこそ、過去の「しばり」に光が当たっているともいえます。情熱があるおかげで、歌うということやそれに伴う過去の意味付けが変わり得る段階に来ているわけです。

また指導者が理解しておくべきことは、あらゆる「癖」や「パターン」は、ある時点では何らかの「必要」があって行われていたということです。従って、癖は「克服」したり「解消」したりする類いのものではなく、「過去(癖)に感謝をして、現在から未来への自分の望みを助けてくれる新しいもの(技術)を探し使い身に付けることで、変化をする」ものなのです。

ですので、「Yesプラン」に目を向けていきましょう。歌いに来られている方々も自身の「Yesプラン」を再発見し実感できるようなエクササイズを盛り込めるとよいかもしれません。

「Yesプラン」を浮かび上がらせる「問いかけ」があります。

・自分はきょう、何がしたいだろうか?
・自分は歌う事のどんなところが好きだろうか?
・歌う事は、自分にどんなことを感じさせてくれているのだろうか?
・歌う事が自分に与えてくれている価値は何だろう?
・歌う事で、自分は自分のどんな必要性を満たせているんだろう?

こうした作業を通じて、指導者も歌い手たちも自分の「望み」「情熱」にあらためて光が当たり、くっきり見えたり、仄かに感じられるようになると、全ての練習が楽しいものになってきます。

>フレーズを聴いて止めて、伝えたいことが山ほどあるとき、私は今このとき、なにから伝えたいか?一瞬悩むときがあります。悩む空間は皆さんを不安にさせます。「私たちが悪かったのかしら?」と。

これはもしかしたら、Mさんが伝えようとしていることが、「Yesプラン」ではないからかもしれません。どれだけ丁寧かつ優しくても、伝えている/伝えようとしている内容が「Noプラン」=「〜してはいけない」「〜がダメ」だと、その指導を受けた側は必ず緊張や不安を抱きます。

ひとは、ほんの少しでも「NO」(否定)を考えると、必ず緊張するのです。

これは歌でも楽器でも演劇でもダンスでもスポーツでも、あらゆるパフォーマンスに対し、根本的には阻害をします。

まずはおひとりで、「伝えたい事」を録音してみて下さい。
次に、自分が生徒だと想像して、それを聴いてみて下さい。

聴いていて、「なるほど、こうすればいいんだ!」「それは良いな!ぜひやってみたい」と感じるでしょうか?それとも何だか不安や恐怖を感じるでしょうか?

もし伝えてようとしていることに「NOプラン」が入っているのに気付いたら、それを「YESプラン」に置き換えてみましょう。この練習は日常的にできます。

そういう発想を備えて指導に向かえば、その置き換えがまだスムーズにできなくても、指導を受ける側はきっと今までとまったく異なる気持ちがするでしょう。

わたしはホルンを演奏しています。ホルンは、世界で一番音が外れやすい楽器です。なので、ホルンを演奏するひとのほとんどが「外さないように演奏しよう」と考えるようになります。そしてまさにそのときから、変な緊張や技術的問題を抱え込み始めます。わたしも例に漏れずそうでした。

1年半ほど前にやっと、わたしは自分が音ひとつひとつに対して「外してはいけない」といちいち考えているの気付きました。そして、考えた瞬間に身体に緊張が走るのにも気付きました。

それ以来わたしは、毎日その置き換えを練習しています。ホルンを始めて1年後から実に13年間使い続け身につけて来た「NOプラン」ですから、まだまだ残っています。

しかし、音を出す直前に毎回「音を外しても、ほんとうにほんとうに大丈夫なんだ。音を外しても、自分には大切な人生があるんだ。生きている価値があるんだ」と心の中で自分に声をかけています。それが緊張をほぐし、次に「だから、この音をこういう風に奏でたい」と「YESプラン」で心の中でつぶやきます。そうすると、とても自然に無理なく音が出せることが多いのです。

こういう経験の積み重ねは、指導にものすごく活かされています。ひとが使っている「NOプラン」を見抜き、そのひとのための「YESプラン」に置き換えていく作業の「先輩」としてとても効果的にサポートができるのです。

以上、参考になれば幸いです。

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「Yesプラン」で指導しよう」への2件のフィードバック

  1. 質問があります。

    私は今中学3年生で、ホルンを吹いています。
    1stを担当しているのですが、どうしても音が真ん中に当たっていないような音がするのです。オーケストラなどのホルンはとても鳴っていて
    かっこいいと思いますし、そんな音を出したいです。
    どうすれば音が鳴りますか?

    また、グリッサンドで上がった音を外す確率が高いので、
    どうすれば当たるようになるかも教えていただきたいです。

    • よっpさま

      【「音の真ん中」に関して】

      息と口の「幸せな関係作り」エクササイズを紹介します。

      ① まず1音出しやすい音をロングトーンします(6拍くらい)。

      ② 同じ音を、同じ音量でロングトーンしますが、途中で口を少し閉じます。

      →音程が上がって、音量は小さくなりますね?

      ③ 同じ音を、同じ音量でロングトーンしますが、途中で口を少し緩めます。

      →音程が下がって、音量は大きくなりますね?

      ④ 同じ音を、同じ口でロングトーンしますが、途中で息を増やします。

      →音程が上がって、音量は大きくなりますね?

      ⑤ 同じ音を、同じ口でロングトーンしますが、途中で息を減らします。

      →音程が下がって、音量が小さくなりますね?

      ⑥ 最後に、ただロングトーンします。

      →たぶん音がスッと発音できて真ん中に入った感じがすると思います。

      【音を鳴らすには】

      上記のエクササイズで分かる事は、

      ・音を大きく鳴らすには

      →① 発音後、少し口を緩めて息をたくさん吐く。

      ・音をバリバリ鳴らすには

      →② ①のときよりすこしだけ、口を閉じ目にする。息はたくさん吐く。

      【グリッサンドで音を外さないようにするには】

      ① グリッサンドで上がっていっているその間、終着点の音をはっきりと心の中で歌えている(イメージできている/ソルフェージュできている/聴こえている)必要があります。

      ② 意外と、グリッサンドの下の音を Bb管で、上の音をF管で演奏すると、当たりやすいかもしれません。

      ③ 普段使わないような指を Bb管、 F管、ともにいろいろ実験してください。当たりやし組み合わせが見つかります。

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