【音大を出ていないからこそ、良い先生になれた!?】〜演奏家インタビュー/ナイジェル・ダウニング(Hr)第一回~

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先日、翻訳を完了し秋に出版予定のナイジェル・ダウニング著“Singing on the Wind〜Aspects of Horn Playing~”。直訳すると「息に乗せて歌う」

今回は、そのダウニングさんにインタビューをしました!

ダウニングさんはまさに、『考える・頭を使うホルン吹き』。奏法を理解しよう、生徒に必要なことを理解しよう、自分も他人も伸びれるところまで伸ばしていこう。そういう姿勢が明確な方です。

こういう奏者・指導者がもっともっと増えるといいですね。

【音大を出ていないからこそ、良い先生になれた!?】
〜演奏家インタビュー/ナイジェル・ダウニング(Hr)第一回~

バジル
『さて、ナイジェルさんの音楽、そしてホルンとの出会いを教えてください。』

ナイジェル
『小学校のとき、リコーダーを吹き始めた。8歳くらいかな。

日曜日には、教会に行っていたんけれど、礼拝の終わりにトランペットの演奏があったんだ。それを聴いていていつも、「こりゃすげえ!オレもやりてえ!」と思っていたものだ。

中学校に入ってから、放課後に楽器の紹介とレッスンをしてくれるプログラムがあったのだけれど、それに行ったときにぼくは「トランペットが演奏したい!」と言ったんだけれど、先生は「トランペットはもう残っていない。ホルンを演奏しなさい」と言ったんだ。付き添いで来てくれた父親の顔を見て、「なにそれ?」と尋ねたよ(笑)。父は「まあ似たようなものではあるかな」と。先生は「とりえずホルンから始めなさいな、あとでいつでも楽器は替われるから」と。そんなわけで、ホルンを吹き始めたのさ。

最初のホルンの先生はグラハム・ウォーレン。マンチェスターのハレ・オーケストラで演奏していたひとだった。彼から数年習ったあと、かれはロンドンのBBC交響楽団へ移籍していった。

そのあと習ったのが、ボブ・マッキントッシュ。彼も、ハレ・オーケストラの団員で、とても厳しかったなあ。まだそのときからの本を持っているのだけれど、彼がフリッツ・フットの教本でレッスンしてくれた。その本にはまだ、当時のアドバイスとか、日付とかが書いてあるよ。彼は、その中の一曲を変な調に移調して演奏させたりした。もしできなかったら、翌週のレッスンまで宿題。そうやってレッスンが続いていったものだから、なかなかしんどかったな‥。でも、良い先生だったよ。ホルン演奏の初期にそういう訓練をしてくれたから。』

バジル
『ホルンを始めた当初から、レッスンを受けるようになったのですね。』

ナイジェル
『そう、通っていた学校の制度でね。やりたい子は楽器をすることができて、その楽器の先生にレッスンを受けながら、楽器が気に入ったら自分でその楽器を買うという。』

バジル
『それは当時のイギリスの標準的な教育制度だったのですか?』

ナイジェル
『いや、通っていた学校は、音楽専門ではなかったけれど、そこそこ良い学校だったんだ。スポーツと音楽に熱心な学校で、オーケストラも二つ持っていた。室内楽もたくさんやれたね。当時同じ学校に通っていた子供たちに良い音楽家がけっこういて、もうひとりホルンの先生は後にロンドン交響楽団の団員になったし、ヴィオラの子はフィルハーモニア管弦楽団の団員になった。先生たちもいずれもハレ・オーケストラやBBC交響楽団の団員だったりしたんだ。なかなか良かったね。幸運だったよ。』

バジル
『すごく良いですね。』

ナイジェル
『イギリスには、グレードごとに試験をする制度があって、音階を演奏したりちょっと音楽理論の問題を解いたりする。グレード8まで進んで、優秀な成績を取れたら、将来プロになるつもりの子なら全国コンクールに出場できる。ぼくはそれに17歳で出場して、7人の入賞のうちのひとりに入ったんだ。人生で唯一の、受賞歴だよ(笑)』

バジル
『ホルンを始める前から、音楽教育は受けていましたか?』

ナイジェル
『5歳でピアノを始めた。でもぼくのピアノ演奏を楽しんでくれたのは外に放し飼いになってる牛たちだけだったから、記憶から抹消しているよ(笑)窓を開けてピアノを練習していると、覗きにきたんだよね、牛たちが。牛たち以外はみんな、ぼくのひどいピアノ演奏を嫌がったね(笑)。』

バジル
『そのピアノのレッスンで、楽譜の読み方などを教わったのですか?』

ナイジェル
『その通り。町の、優しいご老人のピアノの先生だった。』

バジル
『ホルンは、実質的には2番目に習った楽器ですね?』

ナイジェル
『そう、小学校でリコーダーを吹いていたとはいえ、みんな一緒に授業でやるようなものだから、ひどいものさ。ホルンの方が、「これこそ、自分のためのものだ」と感じる最初のものだった。ホルンで音を出してみたり、いろいろ試みたりするのを楽しんだよ。進歩はけっこう速かったね。』

バジル
『そのときはどんな楽器だったかは憶えていますか?』

ナイジェル
『チェコの、リドル製のものだったよ。すごく良い楽器だった。16歳になって、プロになりたいと考えるようになってからは、もっと良い楽器が必要だということでロンドンのプレイヤーたち数人に手紙を書いた。それで、コヴェントガーデンオペラの当時の首席奏者が、「ロンドンまで来てくれるなら、パックスマンで会おう。いくつか楽器を試して選ぼう」と返事してくれた。

それで実際にパックスマンで会ったのだけれど、そのときクルスペのホルンを試したのを覚えている。とても音が良かった。

でも、「その楽器だと古すぎる」と言われて、最終的にはキング製のホルンを買うことにしたんだ。珍しいチョイスだけれど、良い楽器だったよ。ドイツで最初のオーケストラのオーディションで勝つまでその楽器を吹いていたよ。キングやホルトンは、いつも過少評価されているんじゃないかなと思う。』

バジル
『ぼくもホルトン好きです。』

ナイジェル
『そのキング製ホルンはニッケルシルバーで、要はスチールから作られていたんだけれど、良い楽器だった。でも、ドイツの音色のコンセプトにはどうしても合わないから、「なにがなんでもアレキサンダーである!」という方針でアレキサンダーに替えることになった。』

バジル
『ドイツに行ったのはいくつのときですか?』

ナイジェル
『21歳のとき。

さっき話した、17歳でイギリスのコンクールで入選したとき、好きな学校を選んで進学できる奨学金を授与されることになった。ぼくはロンドンの英国王立音楽大学に行きたかった。ジュリアン・ベーカーが当時そこで教えていたから。

ジュリアン・ベーカーは素晴らしい人物で、ぼくの言い方で言えば「考えるホルン吹き」だ。ぼくと同じく、彼はいろんなことを考えてできるようになる必要があった。だからぼくは彼に学びたかった。吹けているとはいえ、自分が何をしているか理解する必要があると思ったんだ。持って生まれた才能でかなりのことができてしまっていたから、どうやってやっているのか分かっていなかったんだ。

でも、彼に師事できないことが分かってしまった。

それは、奨学金の生徒を教えるのは特定の一人の先生に定められていたからなんだ。その先生は、いちばん師事したくないひとだった。ジュリアン・ベーカーとは真逆のタイプだったから。

結局ぼくはマンチェスターに戻り、欠員補充や代奏要員のリストに載るためのオーディションを受けさせてもらえないかといくつかのオーケストラに手紙を送った。一週間後、あるオーケストラから電話がきて、「来週うちで” 春の祭典”を演奏してくれないか」と言われた。それで実際に行って演奏した。

そのときの指揮者は、たぶん24歳のサイモン・ラトルで、いまと同じヘアスタイル。色がちがうだけさ(笑)。

それがぼくの本格的なプロオーケストラの初体験だったね。19歳のときだった。

その後、BBC交響楽団やバーミンガム交響楽団など、フリーランス奏者としてオーケストラと仕事をしてかなりうまくいっていた。

‥‥でもそんな頃、イギリスでは政策の変化があって、ぼくは国を去ることにした。政治的なことではなくて、サッチャー首相が芸術への支出をすっかり削減してしまったんだ。それで仕事がなくなってしまった。1979年〜1980年のことだよ。

そんなわけで1981年にぼくはドイツに行き、ダルムシュタットでオーディションを受けてポジションを得たというわけだ。』

バジル
『ということは、音楽大学で勉強したことは無かったわけですね?』

ナイジェル
『そう。おかげで良い教授になっているんだ(笑)

冗談は置いといて、実際、大学的なものの考え方に染まらずに済んでいる面はあると思う。

大学で教えている音楽家を見ていると、生徒に対して「ここで決まった年数勉強しろ。教えてやるから。それが済んだら後は知らん。自分でなんとかしろ」という考え方になっているひとが結構いる。

ぼくはそういう人生航路でなかったから、異なる考え方と関わり方を生徒にに対して持つ。以前、ポルトガル人の生徒が入学してきて、すぐ「よし、オーディションに向けて取り組むぞ」と話しあった。その子は最近、コペンハーゲンの交響楽団で3rd/1stホルンの席を勝ち取ったんだ。

そのように、ぼくは、一緒に学べる時間を使って、その生徒が行き着けるところまで行こう、という考え方なんだ。「勉学に集中しなさい」ではなくてね。』

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第二回『「やるべきでない」ことを教えるには、教師として最下策』へ続く
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