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高校生ホルン吹きからの質問・相談です。
~上唇のこと、プレスのこと、練習のやり方〜
【質問者】
わたしは高校でホルンを吹いています。
〜ひとつめの質問〜:
私は練習中吹いていると唇が固くなってしまいます。意図的にそうしているわけではありません。そのため、うまく唇が振動しなくて楽器で吹いた時に響かない音で吹いてしまいます。
また、上の音にいけばいくほど無理矢理吹いてしまっているので、楽器が響いていない状態で吹いてしまいます。
そして音程がぶらさがってしまいます。まずは上唇をしっかりと振動させていい音を吹けるようになりたいです。
〜ふたつめの質問〜:
音が近鳴りしてしまいます。もっと遠くまできこえて届くようにして吹くにはどうしたらいいですか?
響いてないのも原因の1つと考えています。
いい音でいい音色でいい音程感で楽器を響かせてしっかりと鳴らせるようになりたいです。
そのためには上唇の振動が必要なので、振動が増える練習方法や確認方法などありましたら是非教えていただきたいです。
そして楽器が響いて遠くまで聞こえるような音はどういうイメージで吹けばいいですか?またそのような吹き方はありますか?
また、唇のケア方法などありましたら教えていただきたいです。
長くなりましたがよろしくお願いします。
【バジル】
こんにちは。
文章を拝見していると、「上唇の振動」というものにこだわっておられるようですが、これはどなたかに言われたことなのでしょうか?それともご自身の実感なのでしょうか?
上唇の振動というものを重要視する教え方はたしかに多く存在していますが、言葉通りに「上唇の振動」ということであれば、上唇の振動が特別大切だという事実は、いまのところ確認されていません。(少なくとも、わたしはそれを証明または示唆する研究を見たことはありません)
また、上唇の方がなんだか下唇より偉いみたいなことが言われがちですが、調べたところたしか支配神経も同じですし、筋肉も唇に関してはいえば同じ「口輪筋」でありその筋肉には上下の区別は無いはずです。ですから、上唇の方が偉い、すごい、大事ということは本当は当てはまらないと思います。
なので、試しに頭の中から「上唇の振動」について考えることを一度全部取っ払ってみて、代わりに、
・どんなストーリーやメッセージを(「お母さん、いつもありがとう!」でもいいし、お気に入りの漫画のワンシーンの表現でもいい)
・どの音でどんな風に吹きたいかな?
ということを考えることに使い、思い浮かんだら素直にそのまま吹いてみる、ということをやってみませんか?
上唇の話にちょっと戻すと、アンブシュアは3つのタイプに分かれ、金管楽器奏者全体のうちおそらくおよそ4割くらいのひとはマウスピースの中で上唇が占める割合が高いです(わたしもそのタイプです)。
おそらくそのタイプのひとたちが主に「上唇の重要性」という捉え方をするのだと思いますが、実際にはそのタイプのひとでも上唇が下唇より重要だとか偉いということにはならず、単純に「マウスピースの中の割合が高い」だけだと思います。
反対に、金管楽器奏者のうちおそらくおよそ2割弱くらいのひとはマウスピースの中での下唇の割合が高いです。
このひとたちに、上唇の方が大切だという話は、さらに当てはまりません。
のこりのおよそ4割くらいのひとは、上唇が多めか、およそ半々かくらいです。
あなたは、どのタイプでしょうか?
この動画:『金管楽器アンブシュア・レクチャー動画』を観るか、ブログ内を検索して関連の記事(たとえばこれ)を読んで、試しにタイプを見つけてみてください。
【質問者】
お忙しい中お返事を書いてくださりありがとうございました!
お返事を読みましたところ、わかりやすい解説に丁寧な受け答えをしていただいたので、とても理解がしやすくイメージがしやすいです。ありがとうございます。
上唇の振動が少ないために楽器が響いていないと思ったのは、わたしが同じ部活の他のパートの人からの指摘で楽器が響いていないと言われたことがきっかけです。それを機に何故楽器が響いていないのかと自分なりに考えたところ、わたしは演奏していて10分15分ぐらいしてくるとマウスピースで音を始めから出せなくなってしまいます。
そのため力んで吹いてしまっていると思いました。力んで吹いているということは、マウスピースと唇のプレスが強すぎるためだと思いました。強くプレスしているから振動しなくなってしまうと思いました。なので、唇を振動させなければならないと自分なりに考えました。
しかしよく冷静になり考えてみると、響いていないといわれた相手は同じ部員であり、正しいとは限りません。他の部員に聞いたら響いていると答えるかもしれません。なのにわたしは響いていないと言われたことにショックを受けて思考の視野が狭くなっていました。
そういう点でもどんどんマイナス思考にならないようにするべきだと気づくことができました。
また、バジル先生が書いてくださった、唇の振動よりも、どう吹きたいか、どう吹くかをどう相手に伝えようとするかなど、そういった観点に視野を向けることが大切だと思いました。
部員が多く自分がメンバーになれるかなどがある環境にいると、つい根本的なところを忘れてしまいます。しかしわたしはホルンが大好きで音楽をしたくて楽器を吹いているので、そういう考えを常に頭に置きながら生活していかないといけないと思いました。
今回バジル先生に相談したことにより、わたしが気づくことのできなかった見方をしていただいたので、解決ができそうです。これから楽器を吹く時には、どうやって吹きたいか、どう伝えたいかなどを考えながら取り組んでいきます。
本当にありがとうございました。とても相談してよかったと思えたので、また相談したいと思っています。そのときはよろしくお願いします。
【バジル】
さっそくのお返事をありがとうございます。
前回のメールが、とても役立ったようで何よりです。
ご自身でもう、理解・解決されていますが、今後の長い音楽人生のためにも一応解説だけしておくと、
「プレスのし過ぎ」が原因でうまくいかなくなるということは、ほとんど無いのではないかと思います。
むしろ、「プレスしては(orし過ぎては)いけない」という否定形思考によって動きが悪くなることや、マウスピースを口からは引き離そうとしてしまって悪影響が起きているケースの方がわたしはたくさん接してきています。
つまり、プレスのせいで悪いことが起きている場面より、プレスしてはいけないという考えによって悪いことが起きている場面の方がわたしはたくさん接してきている、ということです。
プレスのし過ぎが起きている場面として、わたしが接してきたケースは今のところ
・焦って無理して、適切でまっとうな練習・トレーニングをせずして音を出そうとしているとき
・なんらかの理由で、自身のアンブシュアタイプとアンブシュア動作に即さない吹き方をしているとき
・楽器の構えがなんらかの理由でうまくいっていないとき
のいずれかのときになっていることが多かったように思います。
この3つが関わりあっているケースも多いと思います。
とくに、アンブシュアタイプ「中高位置タイプ」のひとが、音を上がるときも下がるときもアンブシュア動作を十分に行わないと、結果的に音を上がるときに中高位置タイプのひとが本来使うべき動きの方向とは逆転した動き(この場合、マウスピースとアンブシュアを押し上げてしまっている)を使ってしまい、そのときに上唇に対して「プレスし過ぎ」が起きている場面に何度か接してきました。
わたしにとってはこのケースが唯一、メカニカルに「プレスし過ぎ」の発生経緯と改善方法を理解できるケースであり、別の言い方をすればそれ以外のケースではプレスし過ぎになっていることは極々稀に思えます。
プレスしてはいけない、という考え方や教え方がすごく多いのに対して、しっかり現実を観察すると実際はそうでもないように思えるので、今後誰かにそういうことを言われて気になってしまったときのことを見越してわたしの意見を伝えておこうと思いました(^^)
【質問者】
今までプレスのし過ぎで、音が出なくなる、もしくは、唇が振動しなくなってしまうと考えていましたが、バジル先生がプレスはし過ぎても、それが直接音への影響がないと言っていた意味がわかりました。
実際考えながら試してみたところ、プレスをあまりしないように意識してみると、違うところに力が入ってしまいました。次はあまり考えずに普通に密着させることを考えて吹いてみると、音がでなくなることや、でずらくなることはなかったです。バジル先生のいう通り、プレスのし過ぎで、音がでなくなる原因ではないということがわかりました。
また前回、どういう風な音を出したいか、どうやって自分の表現を伝えたいかを考えて吹くことを第1に考えるべきとおっしゃられていたので、最近はそのことを重点的に考えて練習しています。そうすると、ホルンを吹くことが以前より楽しくなってきたし、楽観的に物事をとらえられるようになって、音への課題点も少し減りました。何よりホルンがもっともっと好きになりました。そしてもっともっと練習したいと思いました。ありがとうございます。
バジル先生とこうしてメールを通して質問できることは、本当に光栄ですし貴重なことなので、心の底から感謝しています。
本当にありがとうございます!!
了