息は増やすのではなく、減らす〜低音域での安定性の培い方について〜

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この記事は、アメリカのトロンボーン奏者の David Wilken 氏のウェブサイトより記事『Building Embouchure Stability In Low Range – 1Less Air, Not More!』を翻訳したものです。
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〜鳴らすことより、機能が維持されたアンブシュアの形成を〜

【アンブシュアを崩して低音を吹いているケース】

最近、「Facebookトロンボーン教育法グループ」のスレッドを読んでいて、低音域でのアンブシュアの安定性を培うことについて色々と考えた。

このスレッドではある特定の、アンブシュアが全体的に非常に不安定で、特にローBbがコントロール不可能な音の揺れがある生徒について話し合われていた。

Facebookのグループで投稿されていた動画は公開する許可を取っていないので別のものになるが、ここに、同じような状況を示す写真がいくつかある。

下の写真は、ペダルBbを演奏しているトロンボーン奏者のものである。この写真を選んだのは、この写真のトロンボーンの生徒も、FacebookのローBbを演奏していた演奏の例とと似た見た目のアンブシュアの作られ方になっているからだ。アンブシュアの形成が崩れ、非常に緩んでいるように見えることに留意してみてほしい。

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【もっと息を!は問題を悪化させる可能性】

まだ経験の浅い奏者たちの場合は、極端な低音域の音を鳴らすためにどうしてもこのようなやり方でやるしかない面もあるかもしれないが、このような吹き方でたくさん吹きすぎて、その奏者が何らかの時期に修正を図らずに年月を過ごすと、いくつかの問題を引き起こしてしまう可能性が現実的に考えられる。

あらゆる習慣と同じように、こういった習慣的な演奏の仕方を修正するうえで困難を経験するかもしれないし、低音域を演奏するためにアンブシュアをこのように緩めて崩して演奏することを長く続けているほど、その困難は増すかもしれない。

残念なことに、Facebookのグループで提案されていたアドバイスのいくつかは、必要なアンブシュアの修正をより難しくしてしまうような練習の仕方を推奨していた。

このような問題に対して、生徒に「もっとたくさん息を吹くように」と求めることや、「息で音を『支える』ように」と言うことすら、低音域以外で備わっているものと同じ水準のアンブシュア形成の確固さ・安定度で以って低音域を演奏できるようになっていくことをより難しくさせてしまうだけなのだが、一部の指導者はそれを推奨している。

【高音からつなげてデクレッシェンド】

わたし個人としては、生徒とこの問題の取り組む際には比較的高音域から始まって、デクレッシェンドしながら問題の音域に降りてくるようなエクササイズを作ったり、そういうフレーズを題材に取り組むことをより好む。問題になっているような低音域は、静かな音で演奏したほうが、口角をしっかり安定させて保ち、アンブシュア全体の形成の仕方を維持し、補助的にアンブシュアの安定性を得るためにもう少しだけマウスピースからの圧力をかけることをより容易に実行しやすい。

下に、比較対象として先に示した写真とは別の奏者の写真を示す。

一つ目の写真は、ハイBbを演奏している写真だ。

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次の写真は、同じ奏者がその2オクターブ下のローBbを演奏している写真である。

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マウスピースの外側が、とても似た見た目のままになっていることに留意して頂きたい。

たまたま、ローBbの写真は振動している唇が閉じ合わさった瞬間が撮られているが、振動の波のピークにおいてはアパチュアはもっと開いている。しかし、マウスピースの外側の見た目はほとんど同じなのだ。

まずは静かめに演奏して、音が薄くてもそれを受け入れて、やってもらえれば、生徒に安定して形成され維持されたアンブシュアで低音域を演奏する感覚をうまく体験してもらうことできる。

このような吹き方で演奏することに馴染んできたら、ここではじめてもっと息を使って音の鳴りを増やしていってもよいだろうが、ここでもしまたアンブシュアの形成が緩んで崩れるようであれば、息を使って鳴らす練習はここで止め、休んで、また少ない息で静かに鳴らす取り組みに戻ることを勧める。

【時間をかけて、習慣の置き換えを】

時間とともに、状態は改善していくし、息を増やしていくのもより容易になってくる。しかしながら、Facebookのグループで議題に上っていた生徒さんのようなケースに関しては、なるべくすぐに、そしてなるべく完全に、アンブシュアを緩めて崩してまで低音を鳴らそうとするのを続けるのを止めることが重要だ。

緩みすぎて不安定になりすぎたアンブシュアに向かってもっと息を投げつけても、アンブシュアの崩れを防止して立て直していくような筋力とコントロールを培っていくことの助けにはならない。

とは言うものの、実際の演奏会では(そして、大半のリハーサル)ではここまで述べた限りではない。

わたしが述べてきたことは、練習やレッスンの中においての話だ。

本番の演奏においては、よい演奏に仕上げるために必要なことはなんだってやることが大切だ。もしそれが、いまは低音域を鳴らすためにアンブシュアを崩すことであるとするなら、それはそれで構わない。

大事なのは、この生徒が時間をかけて正しい奏法で快適に、十分な音量で低音域を演奏できるようになって、アンブシュアを崩すことを考えもしなくなるくらいになっていくことである。それは、習慣が古いものから新しいものに置き換わってはじめて起きることである。

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