あがりは味方。舞台で自分の全てを出す方法

昨日、私が所属するアレクサンダー・テクニークのレッスン・スタジオ「BODY CHANCE」にて、「アガリは味方。自分の全てを本番で出す方法」と題した特別セミナーを行いました。なんと50名近くの方にご参加頂き、大変盛り上がりました。その講座の要旨を今回はこのブログで紹介します。

アガリに苦しんだ10年間

私は中学二年生のときに初めて「アガリ」を経験しました。中学の吹奏楽部から金管5重奏で出場した京都府アンサンブルコンテストの舞台上でのことでした。手足は震え、口は乾き、まったく演奏がコントロールできなくなってしまい、大変ショッキングな出来事でした。それ以降その経験がトラウマになり、それから実に10年以上、アップダウンを繰り返しながら「アガリ」に苦しみました。

実はいまでも本番の舞台になるととても緊張します。本番の半分以上は必ずしも思い通りに吹けないのです。しかしそれでも、大学の卒業リサイタルをやり切れるましたし、二度の協奏曲ソリストとしての舞台においても実力を出し切るパフォーマンスができました。本当の大舞台ではむしろ好パフォーマンスができることが増えていきました。

今月末、久しぶりにちょっとしたソロの本番があります。そのことでやはり変わらず不安やネガティブな思考が浮かんできています。しかし、アガリに苦しんだ10年間から実体験を通して見出していった本番のための準備方法。そして本番で実力を発揮するための思考方法があります。それをいま毎日使いながら準備をしています。

それでは、以下よりその全体像の説明を試みます。読んでみて良さそうであれば、ぜひ実践してみて下さい。

アガリの二大原因

1:自分の能力以上のことをやろうとしている

これは本能的かつ正常な、起るべくして起る「アガリ」と言えるでしょう。自分にとって「難しい」と感じていること、あるいは正直手に負えないと感じるものを、本番でやろうとすると、必ずある種の「アガリ」が起きます。それは、心身システムにまだ不可能なことをあえてさせようとしているからです。不可能なことをやろうとすると、身体は必ず緊張します。

管楽器で言うと中学生や高校生、そして音大生の1?2年生が経験する「アガリ」の多くは、実はこれが原因になっています。吹奏楽部に入部すると、楽器を操る能力がまだまだ発展途上にも関らずかなり難しい曲に取り組むのはよくあることです。また、音大生の場合も、大学に入っていきなり取り組む曲のレベルや、求められる様々な能力が一気に高まりますから、技術がまだ追いつかず必然的に緊張が起きることはよくあります。

それを人前でやろうとすると、当然ながら緊張します。ですが、これ以降伸べるように、緊張しているなかでも今の自分の実力をできる限り発揮するためのアプローチは、こういったケースでも使える価値あるものですので、ぜひご参照下さい。

もう一点あります。それは、能力以上のことをやろうとして緊張して失敗したという経験が、「アガリの二大原因」のふたつめ、自己否定または自己過小評価につながることが非常に多い、ということです。人前で緊張し失敗する、という体験は非常にショッキングであり、またトラウマティックな体験です。心のケアを大きな優しさを持って行わないと、あっというまに自己否定や自己不信の種として根が張り出します。ですので、実は多くの人が原因1と2が混在していると言えます。

2:自分の能力を過小評価または否定している

本当の意味で辛いアガリ症の原因はこれです。手は震え、身体は力のコントロールが効かず、口も乾きます。本番の舞台が、自分にとって恥をさらしツライ思いをするだけのものとしか感じられなくなってきます。気分が落ち込み、一度の失敗が何ヶ月もあるいは何年も心に突き刺さっています。音楽活動がただひたすら苦しく感じられ、練習意欲が削がれ、自分には何の取り柄も価値もないように感じられてしまう….. 。本番のステージ上では、「ああ…. またか…. 」という諦めにも似た無力感に襲われ、場合によっては演奏が止まってしまいます。

これの原因の根っこには、自己不信があります。本当は難なくできることでも、頭のどこかで「できない」と思ってしまい、そればかり真実味とリアリティがあるように感じられ、どんどん身体が演奏できない状態になっていき、実際に失敗してしまいます。

この現象に関して一番理解したいポイントは、過小評価あるいは自己否定は非現実を現実と思い違えていて信じ込んでいるにあります。つまり、頭のなかで駆け巡っていること、現実がマッチしない。そのときに恐ろしい「アガリ症」が発生します。

これから紹介する体系的なアプローチの根幹は「現実を知る」ことにあります。後述しますが、本番のドキドキや恐ろしいほどの緊迫感それ自体は実は正常かつ望ましい物です。多くの人はこれを問題視していますが、実際の問題は思考と現実がずれているときに演奏を損ねるような「アガリ症」につながります。

ドキドキ・カラカラ・ソワソワの存在意義

アガリ症の解放を目指す前にひとつ、しっかり理解しておきたいことがあります。それは、ネガティブ要素としてとらえられがちな心臓のバクバク、口がカラカラに渇く現象、妙にソワソワしていろんなことに気持ちが散漫する傾向が実は全てポジティブで役立つ現象であるということです。これらは全て、意識そしてエネルギーの高まりに伴う本番特有の現象であり、本番に必要なエネルギーなのです。簡単に言ってしまうと、アドレナリンの放出なのです。

1:心臓のバクバクが血液を体中に届けている

本番は、大勢の人の前で自分の大切な音楽を露にする、とても特別な瞬間です。ですので、身体はその特別な状況に対してベストの準備を提供してくれます。そのひとつが心臓のバクバクです。心臓が普段よりたくさん働いてくれるおかげで、全身に新鮮な血液が送り届けられます。そのおかげで筋肉は素早く反応し、フルに力を出すことができます。また新鮮な血液により脳に酸素が送られて、意識の働きが高まります。急なテンポチェンジや共演者の表現にもすぐに対応できるようにしてくれているのです。

2:口が渇いても楽器はちゃんと吹ける

本番の緊張感は、口を渇かせます。これは交感神経の高まりに伴う現象のようです。交感神経は、いつでも動き出せる張りつめた状態を作るべく働きます。大勢の人の前に立つという行為は決して日常的なものではなく、リラックスはむしろそぐいません。つまり口は渇くべくして渇きます。管楽器奏者にとってはこれがいつもと全く異なる感触に感じるので戸惑いますが、演奏に必要な量の唾液はちゃんと供給されます。それがこれまで積み重ねてきたテクニックの一部として身体は覚えているからです。いつもよりははるかに渇いた感じがして恐ろしいでしょうが、大丈夫。演奏のために必要な音楽のことやテクニックのことに思考を向けていけば、渇いた感触とは裏腹にちゃんとテクニックは機能します。

3:頭の中も情報収集でフル稼働

こういった状態において、当然脳もフル稼働しています。いつもと異なる特別な状況だからこそ、脳はその状況に最も適切な反応や行動を選択できるように、非常に高いレベルの情報収集モードに入ります。眼球活動も活動になって、視野の端っこに映ったちょっとしたものや、ほんのちょっとの物音、ちょっとした服の着心地や肌触りも、鋭く意識に入ってきます。この活発な意識の動きは、「静けさ」や「集中」とは正反対に感じるものです。しかし、それで正常です。妙なソワソワ感は脳の情報収集活動の証であることを覚えておきましょう。脳は情報をたくさん集めてはじめて、落ち着くことができます。このソワソワモードをすっ飛ばさずに、しっかり味わいましょう。すると結果的にタイミング良く落ち着きが出てくるはずです。

本番前日までに継続的にできる取り組み

それでは、本番の前日でも一週間前からでも一年前からでも繰り返し継続的にできる取り組みの方法を紹介していきます。これから紹介する方法は、緊張や恐ろしさを感じるたびにこまめに使っていくとよいでしょう。本番1ヶ月前から毎日部分的にやってみると、想像以上に建設的に本番に臨めるようになってきます。

ステップA:思考のネガティブな力を毒ぬきする

アガリ症のひとは、本番まであと?日だ…. と考えただけで寒気がしたり、気持ちが動揺することがよくあるのではないでしょうか。アガリは本番の何日も、何ヶ月も前に本番のことを考えたときの反応からその種が育っています。

この恐怖や緊張というような反応を、本番の数日または数週間あるいは数ヶ月前から一回一回逃さず捉え、そのネガティブな力を消してストレスをその都度解消していくことは、地道ですが最も効果ある本番準備法・アガリ克服法と言えます。

その手順を紹介します。

1:ストレスや緊張、恐怖を感じたら、それに気付いておく。

誰かが迫っている本番について何かを口に出したりすると、とたんに怖くなってくることがありませんか?あるいは本番のことをちらっと思ったときに、どんどん悪い方に想像が膨らんできたり。そんなとき、たいてい私たちはストレス、恐怖、緊張を感じています。まずそういう反応をしている自分に気付いておきます。

2:そのときの「思考」を特定する。

自分が身体を緊張させていて、ストレスを感じているのに気付いたら、そのとき自分が何を考えているか特定しましょう。思考は、言葉のときもあればイメージのこともあります。その両者のときもあります。誰でもある例で言えば、

「もっと練習しなきゃいけない」
「失敗する光景」
「誰かにへたくそだと噂されている光景」

といったものです。

「オーディションで失敗し、職を得られず、困窮生活に陥る」

という連想イメージが働いていることもよくあります。

例えば「もっと練習しなきゃいけない」という言葉を思っただけでも、身体がギュッとなりませんか?緊張やストレスは「考えていること」が生んでいます。そのとき感じている緊張やストレスを生んでいる「考えていること」を特定しましょう。

3:その「思考」が絶対100%真実かどうか、自分に問いかけてみる。

緊張やストレスを生む思考。結論を先に言うと、そこには必ず「嘘」が含まれています。その嘘を本当と信じているために、緊張やストレスが生まれます。ということは、自分の思考をさも現実かのように信じることさえやめれば、実は緊張やストレスはスルッと消えたりパッと晴れたりします。

思考をやめる必要はありません。それは不可能です。思ってしまうものは思ってしまうからです。一週間後に久々のソロの本番が迫ってる私も、たびたびある思考が浮かびます。そしてその思考を信じている間は、緊張しておりストレスを感じています。

それは

「来週の本番で失敗したら、アレクサンダー・テクニークを信頼してもらえなくなる」

という思考です。

これは、信じていると恐ろしい思考です。そこで、自分に問いかけます。

「それは本当だろうか?」

? いちど問いかけるだけでは、まだ本当な気がします。
そこでさらに問います。

「絶対本当に真実と言い切れるだろうか?」

そこまで問いかけると、絶対100%真実とは言えないな、と気付かされます。思考への信じ込みがほぐれてくるまで(つまり絶対100%真実とは言い切れないと思うまで)繰り返し問い直しつづけます。

4:それが真実とは言えない証拠を、三つ探す。

自分の思考への信じ込みに揺さぶりをかける最も効果的な方法が、真実とは言えない証拠を探すことです。自分の思考が真実である、それへの反証を試みるのです。
私の場合。

「来週の本番で失敗したら、アレクサンダー・テクニークを信頼してもらえなくなる」

これが真実でないケースを3つ想定できるかどうか、試みます。想定できれば、その時点でこの思考が真実ではないことが決まります。

想定1:
たとえば私のレッスンですごく演奏がラクになった人がいたとします。その人は、私が演奏で失敗したからといって、私やアレクサンダー・テクニークに不信感を持つでしょうか? …. あまり現実的ではありません。

想定2:
メジャーリーグのコーチや監督には、選手としてはメジャーリーグを経験せず若く引退したひともいます。そのコーチや監督が始球式でうまくボールが投げられなかったとする。その途端に選手は信用しなくなるか?そんなことはありません。

想定3
ニューヨークフィルの団員に、何人もアレクサンダー・テクニーク教師がいます。彼らは演奏は超一流です。それなら私の演奏が二流だからといって、アレクサンダー・テクニークを信頼しない、そんなことはちょっと考えても無意味なことです。

このように、自分がさも現実かのように信じ込んでいたことが、「そうでないかもしれない」ケースや可能性が三つも見えてくれば、脳は自らの思い込みにしがみつく力を弱めます。このとき、ストレスの解放が始まります。

5:思考の結果を見て、それが望むかどうか決める。

ストレスをもたらしていると特定された思考。その思考を現実かのように思い込み反応しているとき、どんなことが自分に起きているますか?その身体的影響、精神的影響、感情面での影響、人間関係での影響、自分の行動まで幅広くその思考がもたらしている影響を認識していきます。そして、その影響を認識したうえで尚、その思考をこれからも信じ続けたいかどうか自分に問います。

私の場合ですと

思考:
「来週の本番で失敗したら、アレクサンダー・テクニークを信頼してもらえなくなる

身体的影響
・息が詰まる。
・頭や顎を後ろに引いて首が硬くなる。
・胸を縮こめる。
・背中の中央が重くなり、痛くなってくる。
・太ももや股関節が疲れてくる。
・疲れてくる。

精神面
・思考がネガティブなものばかりになる。
・建設的に考えたいことも、そういう頭の余地がなくなる。

感情面
・誰も味方がいない、という気分になる。
・自分のキャリアは終わり寸前だという気がしてくる。
・切羽詰まった、暗い気分。
・不穏で不吉な感じ。

行動面
・人とのつながりを切ってしまいそうになる。
・本番の機会をなるべく避けようとする。
・人に会いたくなくなる。
・能率、効率が落ちる

というように、よくよく見ていくとあまりにも後半な影響力があります。

さあ、ではそんな影響のあること(=ストレスをもたらしていると特定された思考を真実かのように思い込むこと)を自分は本当にやり続けたいだろうか?もちろ、続けたくありません。

6:その思考が無かったとしたら….

ストレスをもたらす思考が、もし無かったとしたら、いったいどんな感じがするでしょうか。目を閉じて想像します。いつもはどうしても考えてしまうストレス源の思考がもし仮に、まったく無かったとしたら。いつもその思考を持ってしまう場面を想像します。

その同じ場面で、例のストレス思考がもし仮にいっさい浮かんでなかったとしたら。

どんな感じがしますか?
どんな気分になりますか?
自分はどんな在り方や振る舞いになっていますか?
相手がどのように見えてきますか?

この想像をしていると、急にラクになったりホッとすることがあります。それがストレス思考を信じるのをやめた場合に恒常的に体験することになる状態です。

7:逆もまた真なり

最後に、元々のストレス思考をひっくり返してみます。ひっくり返したとき、それもまた真実と言えるでしょうか?あるいは元々のストレス思考より現実的である可能性はあるでしょうか?ここはいろんなやりようや工夫がありますので、私の場合だと次のようなひっくり返し方があります。

「来週の本番で失敗したら、アレクサンダー・テクニークを信頼してもらえなくなる」

「来週の本番で失敗しても、アレクサンダー・テクニークへの信頼は揺るがない」

「来週の本番で失敗したら、アレクサンダー・テクニークを信頼してもらえなくなる」

「来週の本番で失敗はしないかもしれない。だから大丈夫かもしれない」

「来週の本番で失敗したら、アレクサンダー・テクニークを信頼してもらえなくなる」

「来週の本番で失敗しようがしまいが、アレクサンダー・テクニークを信頼するかどうかは自分でなくそのひと本人が決める」

これらいずれも真実であると言えますね。このような光景が見えてくると、元々のストレス思考はもうだいぶ力を失っています。何を怖れていたのか一瞬忘れてしまうこともあるかもしれません。

ひっくり返し方は何通りもあります。例えば

「Aさんのせいで自分は弾きづらい」

「自分のせいでAさんが弾きづらい」

「Aさんのせいで自分は弾きづらい」

「自分のせいで自分を弾きにくくさせている」

という逆もまた真なり、を見つけられるときもあります。

この1?7の手順を、繰り返し使いましょう。面倒ですが、毎回確実にストレスからの解放が起ります。ある意味、マインドの清掃作業と言えます。同じストレス思考は何度も戻ってくることがあります。ですがその度にこの地道な手順をやっておくと、だんだんと同じ思考が浮かんでも真剣に取り合わずに笑って済ませることができるようになります。そうやってマインドが安定してきます。そうすると、舞台上でも意識を向けたいことにちゃんとスムーズに向けられるようになってくるのです。

ステップB:舞台上で考えたいことの事前プログラミング

本番当日までに一日、一週間、一ヶ月、一年単位など与えられた時間の中でやっておくとよい事前準備があります。それは舞台上で考えたいことの事前プログラミングです。どれだけ身体が震えても、どれだけ口が渇いても、練習のときから繰り返し練習してきた中で培ってきた「意識」あるいは「思考の流れ」を舞台上でも実行すれば、不思議と身体はちゃんと音楽を思い通りに奏でます。普段とは全く感触や弾き心地・吹き心地・歌い心地がちがっているでしょうが、それでも音だけはちゃんと並んでいくのです。

ということは、肝心なのは「舞台上でも意識したいことを意識する・考えたいことを考える」ということです。これはちゃんと準備できます。

・音楽で語りたいこと伝えたいこと。そのメッセージ。
・聴衆の存在を感じようとすること。聴衆を見ること、聴くこと、つながること。
・技術的に意識していきたい様々なポイント。

そういったものを、舞台上のいつどのようなタイミングで考えるか、曲の流れの中でいつ何を意識したいか。それをどんどん見出していきましょう。譜面の中に、たとえば「ホールの向こうまで音を届ける」とか「ここは十分に息を吐いて」とか、そういう細かな「意識すること」を書き込んでいくのもとても役に立ちますし、意識すると役立つこと一覧表をこっそりメモしておいて、それを譜面の横に置いておくのもよいでしょう。

ある有名なクラリネット奏者が、譜面のように見えるものを譜面台に置いていたけれど、実は完全に暗譜してあって紙に大きく「ENJOY MUSIC !」と書いてあった、という話を聞いたことがあります。それもとても示唆に富む話です。

演奏に際して意識するとよい身体やマインドのことは、このブログにたくさん書いています。気に入ったものだけでもいくつかピックアップして、「考えたいリスト」に入れておくとよいでしょう。

ステップAによりマインドの清掃作業をしておくと、このステップBで事前にプログラミングしておいた「考えたいこと」がよりすんなり実際に舞台上でも考えやすくなります。

本番当日にできること

さあ、ここまでは本番前日までに長い時間をかけてできることでした。ここからは本番当日にできることを紹介します。これはBODYCHANCEの参与ディレクターであり世界的に最も優れたアレクサンダーテクニーク教師の一人であるワシントン大学演劇学部教授のキャシー・マデン氏が考案した、「本番にエネルギーを花開かせるためのエクササイズ」です。

1:感じていることを全て口に出す
本番の日、朝起きたらきっと色んな気持ちや感覚が沸き上がるでしょう。身体が重く感じたり、不安を覚えたり、あるいは楽しみでどうしようもないくらいかもしれません。身体で感じることも、心で感じることも、全て声に出して言い続けます。こうすることで、自分の現在地・現在状況とより接点を持てます。これは家でも楽屋でもリハーサル室でも、本番舞台袖や本番中の休みの小節の間でもやってみるといいでしょう。
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2:空間を感じ、感覚を活性化する
本番の演奏会場に着いたら、ホールの舞台や客席などを歩き回ってみてください。天井や舞台の後ろなど、あらゆる方向や場所を眺めます。そうやって、まず視覚的に空間感覚的に、演奏する空間全体を自分の内側に取り込んでいきます。次に、その会場のを音で感じて行きましょう。ゲネプロ開始前だと、何人かの共演者がウォームアップしているかもしれません。話し声が聴こえたりするでしょう。それらの様々な音が、演奏空間にどのように響いているか、感じとっていきます。そういったことをしながら、演奏空間を触覚的にも感じましょう。まず、会場の温度はどうなっていますか?場所によって温度や空気の感じが異なっているかもしれません。また空気が流れているのが肌で感じられることもあります。床の堅さや材質を手や足で触れたりコツコツ叩いて感じることもできます。そうやって自分の内側と外側への感覚的な気付きに意識を向けて行きます。
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3:「?が好きだ」と声に出す
1や2をやってだんだん落ち着いて来たら、こんどは本番に向けてエネルギーを高める番です。そこで、「?が好き」と声に出します。「?」は何でも構いません。好きな食べ物、動物、趣味、場所、季節など思いつくままに「?が好き」と声に出してみましょう。その好きなものや好きなものと一緒にいるところを想像しながら。好きなことを考えることで、そもそも演奏をやっている根源的なモチベーションを思い出しやすくなります。義務感や恐怖感というのは、確かに強いエネルギーで使い勝手がいいですが、嫌になって疲れるという良くない副作用があり長続きしません。言うなれば石炭を燃やして燃料にしているようなものです。対して、「好き」「やりたい」という意欲・望みはとてもクリーンで実は巨大なエネルギーなのです。言うなれば太陽エネルギーです。ただし、手っ取り早くはありません。このエクササイズは太陽エネルギーを使えるようにしていくものだとも言って良いでしょう。
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以上、1?3をそれぞれ2分程だけでもできますし、1時間づつかけることもできます。何回でも好きなだけ繰り返すといいでしょう。また、「怖いな」と感じる本番が決まったら、毎日ちょっとづつでもこのエクササイズを繰り返すと、さらに効果的です。
?
いざ、本番のステージに立ったら、あとはやることはただ一つ。音楽です。

まずは試してみよう

さあ、いかがだったでしょうか?

今回はいままで一番長い記事になりました。

来週末の本番、私はやっぱりドキドキソワソワしています。アレクサンダー・テクニーク教師としての活動が本格化して忙しく、楽器に触れる時間・余裕もあまりありません。そういう中で本番を迎えるのはほとんど初めての経験です。

ですが、この記事に書いた「方法」だけは知っています。あとはこれを使って、本番に立つのみ。頑張ります。

これを読んでいるあなたもぜひ、試してみてください。

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あがりは味方。舞台で自分の全てを出す方法」への9件のフィードバック

  1. あがって声が震える
    私も、そう感じていることが良くあります。
    今回のこのバジルさんの記事にある思考のあり方は、とても勉強になりました。
    自分で自分を緊張に追い込んでいるということと、それをやめる選択肢があることがよくわかりました。

    楽器の演奏者だけでなく、広い範囲で活用できますね。

  2. Just Make Music!

    読み応えありました。そして太陽エネルギーで記事が書かれたことも感じられます。

    すべての人が活用できる内容だと思います。プリントアウトさせていただきました。

    ATの効用を示すために頑張ろうとするのもやめてしまおう!

    楽しく音楽に向かえることが、一番の証ですよね。

  3. 荒川千恵子さん

    お久しぶりです!そうなんです、緊張は非常にフィジカルなものですが、そのフィジカルを動かしているのは自分なんですよね。この7つの問いかけは、バイロン・ケイティのワークを参考にしています。

  4. kaorin さん

    ATの効力を証明しよう、が原動力になるとこれはツライですね(笑)エンドゲイニングそのもので、緊張してしまいますね。

  5. あがってしまいそうな時に自分がどうすれば良いかが分かった

    過4月21日、「あがりは味方。本番で自分のすべてを出す方法」と題したセミナーを BODY CHANCE 目黒スタジオにて行いました(内容はこちら)。参加者は実に50名近くを数えました。参加者の声をご紹介します。 オケの本番や実技試験などで活かせる機会があるので楽しみ。話が面白くて、最後までずっと内容が聞けました。本番の時に自分がどうすれば良いのかわかったので、とても気持ちが楽になりました。次の本番で早く実践したいです! 熊谷枝美さん(ホルン・音大生) 思考の問題を解決する手順が分かった。良い状態・悪い状態と決めつけなくてよい!本番前あるいは本番中にやりたくないことが分かって良かった。本番までのそして本番直前のアガリをどう解消したらいいか 分かって活かせる。問題となる思考を特定しどうすれば解消できるかが分かった。 竹内慶貴さん(ホルン・音大生) 実際の本番や人前に出る仕事のときなどにさっそく使ってみたい。アガリとその対処法について理論的に具体例を示しながらお話をしてくださり、とても分かりやすかったです。なんとなくぼんやり気がついていたり、やっていたりしたことが、「あーこういうことだったのか!」と分かってスッキリしました。まずは実践してみたいです。 高島由紀子さん(歌) アガリを生む2つの要因、舞台で起きる3つのこと、ネガティブ思考をどく抜きする7つのステップ。数で示してから各項の話に入っていてくれたので分かりやすくて良かったです。結局ストレスを生むのは自分の思考だと言うことを再認識しました。物事の捉え方をもっと明確にして正体不明の大きな不安にとらわれずに済みそうです。 鈴木千代さん(フルート奏者) 本番にまつわる特有のネガティブ思考をポジティブに日ひっくり返すきっかけになりそう座学が苦にならずあっという間に時間となった。ステージに上がる直前の何かに打ち勝たなければいけない嫌な感じを、順序だててクリアできそう。 M.T.さん(ホルン奏者) 普段の練習に、そして普段の生活にも活かせそう。行き詰まったときに役立ちそう。今まであがり症にはネガティブなイメージを持っていて、なんとかしなければと不安でいっぱいだったが、同じように悩む人がたくさんいることを知れて安心できました。アガル理由については分からないことが多くても、対処はできそうです。普段から練習に活かしてみたいと思います。練習の内容をよりよく、より楽しくでき…

  6. こんにちは。
    発表会本番を控えたピアノの生徒さん(大人の人)と、バジルさんのこのブログの内容をテキストにして、アガリ対策をしてみました。
    生徒さんより、自分の問題点がボロボロ。「生徒の前で失敗したら、信用なくす」という考えに振り回されてたいへんでした。でもそれに対応しようとする私の様子を見て、生徒さんも学習してくれたみたいです。
    いい勉強になりました!ありがとうございました。

  7. たづこさん

    こんにちは!このブログがいつの間にかテキストに♪♪ それは嬉しいなあ。そして実際に役立ってなにより嬉しいです。どうぞこれからもよろしくお願いします (^-^)/

  8. 自分だけの悩みじゃないということが知れて嬉しかったです!

    私は高校二年生で、先日定期演奏会があったのですが、一曲目でソロがあって、記事にあった通り自己否定の感情に襲われて息が詰まってボソボソした後になってしまいました。3部まで行けばとても楽しく吹けたんです。今はとても悔しいと同時に、次に待ち構えるコンクールは一曲しかないから自分は最初から実力が出せないのではないかという不安があります。

    自分が好きな金管五重奏のCDを聞いていても、最近は体が苦しい感じになり、つらいです。

    まずは自分を肯定していくことから始めたいと思います!ありがとうございました。

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