仕事で飛行機に乗っていたのですが、実はわたし、飛行機がとても苦手です。
まず、悪い連想をしてしまい、それで不安になりやすい傾向を、飛行機以外に関しても全般的に持っているのですが、そういう性質と飛行機との相性は悪い意味で抜群です(笑)
そのせいなのかどうかは分かりませんが、飛行機のちょっとした揺れや気圧の変化、上昇や降下にいちいち気が付き、意識が向かいます。エンジン音などもです。非常に敏感というか、知覚が鋭敏になります。
けっこうドキドキしっぱなしです。
長時間の飛行になると、やがて慣れ、途中で諦めがつきますが(笑)、それでも3時間くらいかかります
フライト中はかなり疲れます。
でも不思議なことに、降下体勢に入る最後の 30分からは平気になり、着陸したらなんだか誇らしい気分になります(笑)そして、あまり疲れは残りません。新幹線よりラクなくらいかもしれません。
今回のフライトも例に漏れず、こんな感じでした。
フライト中、そんな自分を眺めていて、
「あがり症の自分とよく似ているなあ」
と思いました。
ステージ上で起きる「あがり症」とそれに伴う恐怖、パニックの感覚。逃げたい、でも逃げられない、という気持ち。
一緒なんですよね….
【情報収集】
そこで、ステージ上のあがり症において役立つテクニックを、機内でもひとつ使い始めました。
それは
情報収集=安全確認
です。
(安全確認、という言い方は、アレクサンダーテクニーク教師仲間の山口USK先生から拝借!)
膨らむ妄想と、増大する緊張、パニックがある一方で
飛行機はいまこの瞬間、至って安全に飛行している現実
があります。
その現実の情報を意図的かつ能動的に収集することでパニック感が収まってくるときがあるのです。
・窓の外を見ると、海や島々が見え、飛行機が順調に飛行しているのが分かる。
・客室乗務員を見ていると、まったく何も怖がっていない。淡々と仕事している。
・機内を見渡すと、みんなグーグー寝ていて、怖がっているのがぼくひとり。
こんなことに気付きだすと、妄想の現実感が薄れてきます。そもそも、現実に根ざした根拠がないので、現実に意識的に触れれば触れるほど、妄想ができなくなってくるのです。
この作業を続けていると、わりとすぐに落ち着いてきました。ただし、妄想は妄想ですぐに盛り返しますから、継続的な情報収集(安全確認)が必要でした。
【信頼】
少し落ち着いたところで、ふと自分に問いかけました。
自分にできる最善のことは何だろう?
飛行機のケースでは、ほとんど何もありません。
しかし、飛行機の状態を安全に保とうと努力しているひとたちがいることに気付きました。
パイロット、管制官、コンピューター。
そうか、ぼくにできることは
「パイロットや管制官を信頼すると決めることだ」
と気付きました。
不安になってきたら、
「パイロットを信頼する」
と唱える。
それもかなり役立ちました。
そういえば、音楽の演奏も、この「信頼」が必要です。
自分が練習してきたことはちゃんと出てくると信頼する
(ちゃんとできるかな?と不信がっていると、余計にできなくなる)
指揮者や共演者が紡ぎ出す音楽が、自分を良い方向へと運び導いてくれると信頼する
(自分のことばかりだと視野が狭くなり、自分でばかりなんとかしなくちゃいけなくなり、余計にうまくいかなくなる)
聴衆は音楽や、演奏しているわたしを受け入れてくれると信頼する
(悪く思われると心配していると、聴衆と敵対関係になり心身は緊張する)
これらの「信頼」は、「決心する」ということであると思います。
疑いや否定という思考を「する」のではなく、自分に役立ち、音楽に役立ち、聴衆と良い関係を作ることにつながる思考を「する」ことを自分の責任で選択するということです。
【やりたいこと】
そもそも、なんで飛行機に乗っているのか?
行きたい場所と、そこでやりたいことがあるからです。
つまり、飛行機は苦手だと分かっていて引き受けているのです。
これを自覚できると、根っこのところでは大して怖がっていないのだろうな、と思えてきます。だって、本当に危険を感じていて、怖いんだったら、嫌なんだったら、引き受けないもん。
楽しみや望みの方が上回っているのです。
音楽でも似ていますよね。
舞台は、自分で望んでそこに立っています。
演奏したいという欲求や気持ちは、あがり症の恐怖より常に上回っているのです。
ですから、あがり症に関しては、
自分のやりたい音楽をどのように実現するかというプラン
を持って舞台に臨むことが大切です。
それこそが、推進力であり、状況を切り抜ける原動力だからです。
これが曖昧だと、パニックになりやすいですし、ドキドキしていなくても演奏がおかしくなってしまうリスクが高くなります。
このプランは、
・音楽のストーリーをどう紡ぐか
・パフォーマンスを実践するか(聴衆や空間との関係作り)
・技術を意識できるようにするため、練習の段階から技術を意識化する
全てに亘ります。
【自分の中の闇】
ちょっとここで、音楽から離れた話になります。
そもそもなぜ、ぼくは飛行機やステージにここまで過剰に反応するんだろう?
なぜこんなにも恐がり、悪い連想や妄想に引きずられやすいのだろう?
それは、心の闇なんですよね。
遺伝的なものもあれば環境や文化との関わりのなかで身につけてきた習慣的なものもあることでしょう。
いずれにせよ、いろんな場面で顔を出す、自分の人生で慣れ親しんだ怖れや不安があるのです。
そして、その心の闇が、時々足を引っ張るのです。
この心の闇は、わたしの場合は怖れや不安が顕著ですが、ひとによっては怒り、無気力、暴力、依存など、別のタイプや形があるでしょう。
幸いなことに、この心の闇は、現在の状況や音楽をすることに実はあまり関係がありません。しかし、あまりにも「当たり前」な感じがあったり、深い根強い習慣であったりするので、やたらと「現実味」があるのです。
これを少しづつ客観化したり、切り離したり、ケアしたりする必要が、ひとによってはあるでしょう。
わたしは、三年前から、仕事や人間的な成長の面で自分の過度な不安傾向が障害になっているなあと自覚したので心理カウンセリングを定期的に受け始めました。
対話やその他様々な作業を使って、自分の心を少しづつ理解し、整理し、付き合い方を学んで行きます。
それが、ここにきてあがり症のことにもとてもつながっているなあ、と分かってきました。
このような心の面は、アレクサンダーテクニークやメンタルトレーニング、呼吸法、集中力鍛錬法などでも「気付き」や「変化」はもちろんあるでしょうが、それらで本当の意味でちゃんと「取り組む」ことができるとはわたしは思いません。
専門家の力を借りることが何より大切です。
個人的にカウンセラーと反りが合わなかった経験や、偏見から、心理カウンセリングを悪し様に罵るひとや、不要論を強硬に主張するひともいますが、そのひとたちがいちばん必要としている(怒り、不安、怖れ、妄想に支配されている)のが皮肉です。
ですので、心理カウンセラーの力を借りるといいかも、と思ったり感じたら、それは恥じることでも何でもないですから、ぜひカウンセリングに取り組みましょう。演奏や仕事とは本来関係がない心のブレーキを少しづつ外せます。人生の流れる力が、少しづつ回復してきますよ。
日本は心理カウンセリングに対し、わたしにはうまく理解できない偏見や差別が少しあるみたいですが、カウンセリングを敬遠したり、蔑む目線こそが本当は間違っています。
ですから、そういう気持ち、考え、目線に負けてしまうのはあまりにももったいないです。必要なひとにとっては、カウンセリングを受けることこそが「ベストを尽くす」ことであり「努力する」ことですから。
いまは多くの学校や企業にカウンセラーが勤務しています。無料で受けられるケースもかなりありますから、一歩踏み出しましょう。
楽器のレッスンや、アレクサンダーテクニークのレッスンだけでどうにかなる問題ではないこともあるのです。
【まとめ】
ステージに臨むにあたって….
そして、音楽生活を営むにあたって….
①自分のやりたい音楽をどのように実現するかというプランを持って臨む
②何を信頼するか決心し、疑いや否定に NO を告げる
③ いまこの瞬間の(安全でしかない)現実を情報収集=安全確認する
④ 自分の闇を理解し、ケアしておく