『頭の動きから始まる』&『使い方が機能・状態に影響する』F.M.アレクサンダー著 「自分の使い方」より第一章「テクニークの進化」?管楽器演奏で考えるとこうなる?その4

F.M.アレクサンダーはさらに観察を続けた結果、

1:頭を後ろに引っ張る
2:喉を押し下げる
3:口から音を立てて息を吸い込む

という前回の稿で紹介した3つの傾向が特に声に対しての要求が通常と異なるときに顕著であることに気がつきます。

管楽器をやっている私たちも、
緊張や癖が、慣れないフレーズや通常より高い/低い/大きい/小さい/速い/遅いフレーズに直面したときに顕著になることを体験的に知っていますが、同じ現象です。

これで、
声の枯れという不調が、朗唱時に「自分がやっていること」が原因なのではという推測と合致するように見えます。普段の話し方である分には平気なのだから、朗唱時にやっていることが原因で、そのやっていることこそがこの「3つの傾向」なのだ、という推測は当たっている。
そうアレクサンダーは考えました。

ならば、この3つの傾向が関係している身体の各部分の使い方がおかしいのだー。
よしこれで問題の根は突き止めたぞー。

そうアレクサンダーは考えました。
声の枯れが、これらの身体の部分の使い方が悪いから起きているのならば、
これらの部分の使い方を変える他ない、と。

管楽器の場合、
「唇の動きが悪い。ということは唇の使い方が間違っているのだ」
「指の動きがズレる。ということは指の使い方さえ直せばよい」
という考え方です。

しかし!

アレクサンダーはここで迷路に入ってしまいます。

いったいどこから手を付けたらいいのだろうー
息を吸い込むのが根本原因なのか?
それとも喉を押し下げることなのか?
あるいは頭を後ろに引っ張っているのが悪いのか?

管楽器を演奏する私たちも頻繁に経験する状況です。

音が震える。アンブシュアが不安定。姿勢が悪い。
「アンブシュアが安定しないから、力む」のか
「力むからアンブシュアが安定しない」のか
「姿勢が悪いから、音が震える」のか

(ちなみに、本当の原因はいずれでもない可能性があり、
 本当の原因はアレクサンダーテクニークのレッスンで発見&解決できるケースが非常に多い)

アレクサンダーは引き続き辛抱強く数ヶ月間(!)観察と実験を続けます。
そのうち、朗唱中に自分では

2:喉を押し下げる
3:口から音を立てて息を吸い込む

これらを止めることはできないが、

頭を後ろに引っ張るのをやめる事はできる

ことが分かってきました。

頭を引っ張ることをやめると、
喉を押し下げること&口から息を音を立てて吸い込むという他の癖は間接的に抑えられるのです。

アレクサンダー本人はこれこそが非常に重要な発見だと述べています。

管楽器奏者を演奏しているみなさん。
なかなか変わらない癖、いくら意識してもほとんど自動的に出てくる緊張や癖。
それらは「頭」の動きが変わって初めて間接的にコントロールできるという
ことを、ご存知ありませんね?

そう、この重要な仕組みが知られていないからこそ、
謎の不調やスランプが続くのですし、
またアレクサンダーテクニークのレッスンが画期的な効果を挙げるのです。

この
「頭の動きか身体の他の部分の動きと状態を調整している」
という仕組みは、あらゆる活動や行動に伴っていることをアレクサンダーは気がつきました。

この仕組みを「プライマリー・コントロール=初源的調整作用」と言います。

この方向でアレクサンダーは観察と実験を繰り返すうちに、
3つの傾向に関わる身体の各部分の使い方が改善すると、
実際に声の枯れが軽減してきました。

それ以上に、驚くべき事は、
こういった癖のコントロールと声の枯れの改善の体験を積み重ねたあと
改めて医者に喉の状態を診察してもらったところ、
目覚ましい健康状態の改善が咽頭と声帯に見受けられたのです。

これは
『使い方が機能・状態に影響する』という重要な事実を明らかにしています。

3つの傾向を伴う、悪い使い方を変えると、身体の声に関係する部分そして呼吸器官の健康状態も
働きもよくなったのです。

管楽器の場合では、
例えば「アンブシュアが悪い」という「状態・はたらき具合」があったとして、
これはある『全体的な使い方』が原因であり、その全体的な使い方を変えると
アンブシュアが良くなってうまく機能する、ということを意味します。

ほとんどの場合、私たちは
「アンブシュア直す」
という発想に固まっていますが、からだの仕組みとしては本当ならば
「アンブシュア結果として直る」
はずなのです。
そもそもアンブシュアの問題を引き起こしている、より全体的な動き方を改善すれば。

まとめます。

1:頭を後ろに引っ張る傾向が、喉の問題につながていた。
2:この問題は、ただ頭を後ろに引っ張ることをやめるだけでもある程度改善できた。頭の動きが変わると、間接的に喉のプレッシャーや息の無理な吸い込みをやめられたから。

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『頭の動きから始まる』&『使い方が機能・状態に影響する』F.M.アレクサンダー著 「自分の使い方」より第一章「テクニークの進化」?管楽器演奏で考えるとこうなる?その4」への3件のフィードバック

  1. こちらでははじめまして。

    先日のワークショップの時、椅子に座っている時の姿勢を見ていただきました。
    テューバの場合、立奏することはあまりありませんので。
    先生に「これが真っ直ぐ」と言っていただいた姿勢は、自分の感覚としては
    かなーーーーり前傾しているように感じるものでした。でも、他の参加者の方に
    「これが真っ直ぐ?」と聞いてもみなさんコクコク頷きます。
    またまた「感覚はあてにならない」ことを痛感しました。
    自分一人ではなかなか確認しづらいのですが、後ろに反り過ぎないようには
    注意をしています。

    また、別項にありました「姿勢」ですが、テューバの場合は楽器が大きく重いため、
    「しっかり持たねば」という意識から、より「「固定」になってしまいやすい」傾向が
    あるかも?と感じました。
    少なくとも自分の場合は、そういう意識が強過ぎるようです。
    口を楽器の方に持っていかない、ということは前から注意はしていましたが、これも
    テューバの場合は楽器の大きさ(マウスパイプまでの高さ等)に左右される
    部分が出てくるので、場合によってはスタンドを使うなどした方がいいかもしれない、
    と考えています。スタンドがあると楽器を持つ腕の脱力にもプラスになるかも
    しれませんし。

    と、的外れな部分もあるかもしれませんが、自分なりに色々示唆を受けています。ありがとうございます。

  2. yimamuraさん

    こんにちは。
    それは素晴らしい「感覚が当てにならない」実感をされましたね!

    実はいったん「前に動く」=「後ろに反るのをやめる」経験と実感ができれば、もうチェック確認しなくて大丈夫ですよ!

    今後は、同じ分量かそれ以上後ろに反れば、必ず自動的に気がつきます。
    チェックしなくても。

    気がついたら、あとは前に動けばいいのです。

    テュ―バの特質に関してですが、

    楽器は脚にある程度固定されるので、腕で動かすよりは、
    自分の胴体の股関節からの動きと一緒に楽器が動く

    というほかの楽器と別な面がありますね。

    でもそれは実はあまり腕で楽器を操作しなくて良いということでもあり、
    うまくいけば胴体全体をうまく使いやすい楽器、ということにもなります。

    テューバ奏者はアンブシュアや姿勢や呼吸の使い方が他の金管楽器より自然になっていつケースが多いなと思いますね。だから私たちは金管奏者はテューバ奏者から多くを学べます。

    マウスピースとのコンタクトの仕方がですが、
    チューバの場合高さや左右が固定されるので、
    なおさら楽器との姿勢・位置的に良好な関係をつくためには、
    股関節の動き、そしてその前提条件でもある頭~脊椎の
    「押し下げなさ」が重要になりますね。

  3. 『意識的なカラダの使い方』F.M.アレクサンダー著 「自分の使い方」より第一章「テクニークの進化」?管楽器演奏で考えるとこうなる?その5

    3ヶ月以上、中断していたこのシリーズ。久しぶりに再開させようと思います。前回までは、F.M.アレクサンダーの原著を使っていました。 しかし今回からは、R.ブラウンが編集した、アレクサンダーの4冊の著作要約版を使う事にします。よっぽど分かりやすくなっているからです。アレクサンダー自身が、全てのページにOKの署名をしているほど、見事な要約です。 (残念ながら要約は英語のみ。和訳はまだありません。) 自己の使い方:第1章『テクニークの深化』の管楽器演奏のための応用解釈をシリーズで書いていましたが、前回終ったところから最後までを要約版で読み咀嚼して管楽器演奏に関連づけて考えたことを今回記して第1章は終わりとします。 さて今回のテーマですが、ズバリ「意識的なカラダの使い方とは」です。 F.M.アレクサンダーは声が出なくなるという症状の原因を、自分が頭を押し下げており、それに伴って胸や背中、足などカラダのいろんな部分それぞれに特有の無駄な緊張をさせていたことに見出しました。 色々見えた癖や緊張でしたが、その端緒は「頭を押し下げる」ことにあることが分かり、これをある程度やめられると、カラダのほかのいろんな緊張も起らなくて済むことが分かりました。 キーポイントは「頭を押し下げずに物事をやっていく」にあるのです。 管楽器演奏を上達させたいとき、アンブシュアや呼吸などいろいろ意識しますが、カラダ全体の効率の良さのカギを握るのは、「頭を不要に押し下げないでいること」なのです。 まあまずどんな教則本にも奏法論にも出て来ない話です。 「天井から吊るされるように」という表現はよく見かけますが、これもイマイチかもしれません。なぜならこれでは首をやたら伸ばして結局緊張させてしまいますから。 頭を下に引っ張る筋肉はあっても「頭を吊るす」筋肉はないですからね。 意識したいのは、「頭を押し下げないこと」そして「押し下げまいとして、結局筋肉で余計がんばってもいけない」ことです。 F.M.アレクサンダーは、頭を押し下げず、特有の他の部分の無駄な緊張をせずに声を出すことを試みます。しかしそこで気付かされました。どれだけ押し下げていないつもりでも、「声を出そう」と決めた瞬間に、元の押し下げとカラダの他のいろんな癖に戻ってしまうのです。 これは無理もないことでした。ずっと何年も「声を出す」ときには本能的にこういう出し方を繰り返し、身に付…

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