趣味でトランペットを演奏されている方から、メールで質問を頂きました。
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【質問者】
自分の演奏の問題点について考え続けていたところ、ふと一つの疑問が湧き上がりました。
それは、楽器を吹く時、常に階名を思い浮かべていることが、成長あるいは音楽的な演奏の最大の邪魔になっているのではないか?ということです。
今回バジルさんにご相談したい内容は、階名を思い浮かべなくても楽器が吹けるようになるにはどんな練習が最適か、なのですが、その質問の前に、なぜこう思うに至ったのかを、まずご説明させていただきます。
長文になりお手数をおかけしてしまいますが、お読みいただけると嬉しいです。
私はカラオケに行くと、曲が高いなと感じればリモコンでキーを下げます。すると、原曲から下がったキーですぐに合わせて歌うことができます。その時、わざわざこの音はドで、ミで、ファで…などと思い浮かべることはなく、むしろ、歌っている曲のこの音がどの階名なのかは全く分かっていないまま歌えます。
しかしトランペットではどんな音を出す時も頭の中で(ドレミファ…)と思い浮かべています。階名を思い浮かべながら吹くという脳の使い方が、癖になっているのです。
それがドレミファソラシドという簡単な音階でも、わざわざ階名を思い浮かべなくても吹ける簡単な音階のはずなのに、吹く時には音を出しながら(ドレミファ…)と一緒に音名を浮かべているのです。
そんな状態だからか、歌のようにキーが変わったから即音をはめるなどの芸当はできません。こうした歌とトランペットで、音を出す行為の自由度が大きく違うことが、疑問の発端でした。
ピアノやギターと違ってトランペットのような吹奏楽器は、脳内の思考が、出す音へ、より直結する楽器だと思っています。そのトランペットで音楽的な演奏をするには、脳もそのような思考が必要なはずなのに、演奏中限りある脳の容量を音名を思い浮かべることに浪費している現状は、音楽的な演奏の実現に必要な脳の使い方から離れてしまっているのではないか、と思ったのです。
この、階名を思い浮かべながら吹くことが私だけの行動なのか、全人類の行動なのかを知りたくてSNSでアンケートを取ってみたところ、母数は大変少なかったですが、思い浮かべる・浮かべないの人数が半々となりました。
そこで私は、上級者ほど、階名を思い浮かべないのではないか?と仮説を立て、所属する市民吹奏楽団の上手な人三名にこの質問をしてみたところ、三名とも音名は思い浮かべない(一人は早いフレーズなどでは浮かべることもある)という回答でした。
うち一人からは、階名を浮かべているということは、自分の中で(音を出す行為が)モノになっていないからではないかと言われました。
私も、そう思ったのです。この音名を思い浮かべながら吹くという行為が、あまり上達しないとか音楽的な演奏にならない大きな原因ではないか……。
これが、私が疑問に思った一連の流れでした。仮にこの仮説がある程度当たっているとしたら、音名を思い浮かべなくても楽器が吹けるようになる練習とは、どんなことをすればよいのか…。
この疑問について、バジルさんの見解をお聞かせいただけたらと嬉しいです。
日々お忙しくされているであろう中で、メール相談を開放してくださってありがとうございます。
プロ奏者の方で、かつ論理的に説明してくださる人にこの問題を聞きたいと思ったときに、まっさきにバジルさんが思い浮かび、お力をお借りしたくて連絡させていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
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【バジル】
歌とトランペットのいちばんのちがいは、歌は声域の範囲内で音高を無限に出せることです。
対してトランペットの場合、自然倍音およびオクターブ内12音で構成されたところに出る音が決まっています。
すると、階名でピッチをソルフェージュするにしても、階名でなく音高だけでソルフェージュしていたとしても、楽器に出せる音と、その音を出すのに必要な作業(息の強さや運指など)を『指定』して呼び出すようなことをトランペット演奏時はしているわけです。
歌とのちがいは、たぶんそこじゃないでしょうか。
階名ソルフェージュの『せい』で歌より不自由なのではないと思いますよ。
ひとにより、階名ソルフェージュか音高ソルフェージュかは使い勝手の良さがちがうでしょうから、どちらのほうがうまくいくか、という選択になるものと思います。
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【質問者】
歌とトランペットの違い、なるほど!と思いました。そこが不自由に感じる原因だったんですね。
ただ、私は演奏時、階名でソルフェージュしているわけではないようです。階名を浮かべつつ、音高でソルフェージュしているような感じです。
指が難しいときは意識的なソルフェージュはなく、階名と指を合わせているだけのような感じです。指を合わせるために音名を浮かべているのが、どうにも不自由さに感じてしまいます。
音高ソルフェージュだけで指を意識しなくても音を出せるようになりたいので、そのように練習していますが、なかなかいい方法が思いつきません。
他の人にたずねても、音名を浮かべなくても吹けるようになる練習方法はわからないと言われます。
バジルさんが普段発信されているような、イメージして吹いてみるといったことをつづけていると、自然とできるようになるものなのでしょうか。
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【バジル】
そもそも特定の音高や、前の音との幅に意味があるから曲が成立しますから、音高や音程の明確な認識(イメージではなく)なく西洋音楽のレパートリーって学習しにくいのではないか?と。
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【質問者】
私が思い通りに演奏できないのは、音名を浮かべてしまうからではなく、別の部分にあるということなのでしょうか……。
もう少し視野を狭くせず、バジルさんがSNSなどで発信しているように、前向きな練習の仕方を心がけてみます。できないことをできるようにしようとするのが、良くなかったかもしれません。
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【バジル】
運指を階名を思い浮かべずに、譜面を見るだけで想起できるなら、階名を思い浮かべずに吹くことは普通にできますが、それはできますか?
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【質問者】
はい、譜面を見るだけで運指を思い浮かべられます。吹くときに階名まで思い浮かべてしまうような形です。
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【バジル】
すると、
運指しながら音高を正確にハミング
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運指しながら吹く
にすればハミングと吹くのちがいは声か楽器かだけになる理屈ですが、そういうのはやってみたことありますか?
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【質問者】
考えたこともありませんでした。
早速やってみると、中々いい感覚でした。
階名を意識しなくなるような気がしました。
これを続けると、もしかしたら音高だけで吹けるようになるかもしれない、と感じます。
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【バジル】
ひとつ良さげな手応えが得られたようで、良かったです!