きょうは主に金管楽器の話です。
つい最近わたしが自分の普段の練習のなかで気付き、試しているアイデアがあります。
それは
「マウスピースが唇に接触する前に、口を閉じておく」
というものです。
私の著書『吹奏楽指導者が心がけたい9つのこと』の第2章で少し、アンブシュアの形成における顎の働きと唇の働きを述べていますが、さらに整理されてきました。
金管楽器で音が鳴るのは、閉じてある上下の唇を口の中の圧力が押し開け、しかし唇はまだ閉じる動きを続けているのでまた閉じられ、しかしすぐにまた息が押し開け….の繰り返しで上下の唇がぶつかり合う(振動する)からです。
つまり力の種類としては
①上下の唇を閉じておく力
②唇を動かす(押し開ける)息の力
があります。
今回は、その①の方の「力を得る方法の整理」のようなものができました。とても新鮮だったのでぜひシェアしたいと思い、これを書いています。
いままで自分のなかでは、「上下の唇を閉じておく力」が
・どこの力なのか
・いつ必要なのか
が少し曖昧でした。
しかし考えているうちに、「力」という点では、「顎の力」つまり「口を閉じる力」が「唇の力」より当然だいぶ大きいであろうことに気付きました。
とすると、音を出すのに必要な「上下の唇を閉じておく力」は、できるかぎり顎の力に任せた方が効率的なはずなのでは、と考えたのです。
そこで実験を始めました。
「口を閉じる」をやってから「マウスピースを唇に付ける」
ということをやってみ始めました。
いままでは、あまりはっきり「口を閉じる」という意識を音を鳴らし演奏するプロセスの中で持つ事はありませんでした。
観察を始めると、自分が「マウスピースを唇につけてから口を閉じる」ということをやっているのが分かりました。
で、なんとなくそれで「マウスピースの接触感」を確認したり、「音がちゃんと出せそうな感じ」を得ようとしているのだなと気が付きました。
でもこれだと、「上下の唇を閉じておく力」のために顎の力と唇自体の力をあまり適切でない割合で使っている可能性があるのが分かりました。
そこで、
①まず口を閉じて(普通に、ただ閉じるだけです)
②そこにマウスピースを付けて
③息を吐いて発音する
という手順をなるべく厳密にやってみました。
すると、まず感じたのは「違和感」と「心もとなさ」でした。
いままで半分無意識的にやってた「感触の確認=安心感を求めてるだけ」ができなくなったので、なんだか「ほんまにこれで音が出せるのかいな」っていう気持ちになりました。何より、「発音するときのいつもの感触・感覚」が「無い」かのような感じなので、一体何をアテにすればいいのかが分からないような….。
しかし、もう何年もやっているアレクサンダー・テクニークの勉強で、こういう「違和感」や「なんかやり足りない感じ」はだいたいの場合「うまくいっている」証拠であるのを知っていたので、音をよく頭の中でイメージして、息を吐き発音しました。
するとですね、まず顕著だったのは
「アンブシュアの感覚があまり感じないくらい、アンブシュアのコントロールが必要のない感じ」
だったことです。
「上下の唇を閉じる」という仕事のなかの力仕事の部分を、「口を閉じる力」に任せてみたことで、唇自体の動きや力がより「音(振動)のコントロール」に専念できたからだと推測します。
その手順をさらに続けてみました。
すると、
・いわゆる「お手本」アンブシュア的に「顎がきれいに伸びて(張られた)」見た目がより顕著になった
・低音域にシフトして行く際、顎が勝手に、カクッと明確に動いた。でも自分で動かしている感じはそこまでない。
この2点、ホルンの演奏技法の中でも多分最もホルンの先生たちが口酸っぱく言ってくれることです。
私はこれまで、この2つのことを「やる」ように言われても、どうもうまくできずにいました。アンブシュアが硬くなったり、顎が痛くなったりしてしまっていたのです。
しかし今回、上下の唇を閉じるという仕事の中で、その力仕事を「口を閉じる」動きにより任せた(というか、「口を閉じる」ということをちゃんと意識化したのが今回はじめてかもしれない)ことで、これまで10年以上「教えてもらった通りにできなかった」ことが、それをやろうと意図せずともできたのです。
もちろん、私はホルンを16年近く吹いているし、専門教育も受けたし、また演奏活動の経験も持っているので、それらの蓄積があったからこそ、「お手本が自然発生」するということが起き得た面もあるのかもしれません。
しかし、きっかけは、
「上下の唇を閉じる(重ね合わせる)」仕事の力仕事の部分を「口を閉じる」という動きに任せた
ところにあります。
みなさまもぜひ、興味があれば試してみて下さい。
①演奏する音/フレーズを明確に決め、頭の中で歌う
②まず口を閉じて(普通に、ただ閉じるだけです)
③そこにマウスピースを付けて
④息を吐いて発音する
です!
ピンバック: タンギングの仕組みとタイミング | バジル・クリッツァーのブログ
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ピンバック: ブレスをするときにどうしても口を開けてしまう….どうしたらいいの? | バジル・クリッツァーのブログ
「マウスピースが唇に接触する前に、口を閉じておく」
最近、同じことを意識していました。
と言うより「結果的にそうなった」のほうが正しいかもしれません。
頭を動かせるようにしてあげて・・・
これだけを意識して楽器を口に当てるようにしたらそうなったのです!
確かに最初はとても心もとなく「これでちゃんと音がでるのか?」不安でした。
でも、おもいきって吹いてみると・・・
高い音も低い音も出やすいし長いフレーズもバテずに吹ける!
今まで40年近く、アンブシュアをきちんと作ってからマウスピースを当てていた。
そして、それは首や頬、おそらく全身を硬くしていた。
結果、ムダな力みだらけだった。
アンブシュアは作る・準備するものでなく
演奏することの結果として作られるものだとわかりました。
素晴らしいアドバイスありがとうございました!
土橋さま
意義深い気付きにつながったことを知れて、とても嬉しく思います。
ぜひ
・マウスピースくっつける
・そのあと口閉じる
・音を鳴らす
の順番も試してみてください。
そのほうがもっと良いかもしれません。
バジル先生! こんにちは! 現在高校でチューバを吹いている者です!
質問なのですが、口を閉じる時は口の中も閉じた方がいいでしょうか? つい癖で開いてしまいます。
黒川さん
口の中は、閉じることはできないですね。
Basil
バジル先生、こんにちは。
この記事で言う「口を閉じる」とは、「ただ単に唇を閉じる」とはまた違うものなのでしょうか。
今日この記事を見て、口を閉じる=ものを噛むときの動きと解釈して試してみたところうまくいきそうな気がしてきました。
あるレッスンの先生にも口を開けすぎているから閉じたほうがいいと言われたこともあります。
ゆういちさん
「ただ単に唇を閉じる」という軽い力から、「上下の唇をギュッと強く押し付け合う」くらい強い力まで、ひとや状況によりいろいろあり得ます。
そのなかで、ものを噛むときに使うような筋肉を、もっと使うことはあるでしょう。
しかし、実際にもの噛む=上下の歯を噛みしめるくらいになるとやりすぎまたは不適切になることの方が多いのではないかな、と思います。
ですので、もの噛むときの「ような」と考えているとうまくいっている、ということを大事にして、
それをいつの間にか「実際にものを噛む」動きをやろうとしてそれえうまくいかなくなってもずっと「ものを噛もう」とし続けてしまうという罠にはまらなければ、
それでよいと思います。
Basil
バジル先生こんにちは。
私はトロンボーンを吹いておりますが、このブログで紹介されていることと全く同じことを現在習っている先生から指導されました。
①自然に口を閉じる
②そのままマウスピースをつける
③吸った息をそのまま出す
余計なことを考えずに上記の3ステップを試してみたところ、何とも自然な音が出ました。今まで無理やり出していたハイB♭も以前よりずっと自然に出ました。低音から高音の以降もスムーズになりました。
アパチュアを作るとか、唇の固定とか、今まで余計なことを考えていたんですね。唇を真ん中に寄せなくては・・・みたいに考えていたのがバカみたいです。
自分の体験談が参考になればと思い、コメントさせて頂きました。
イオニアンさん
>>アパチュアを作るとか、唇の固定とか、今まで余計なことを考えていたんですね。唇を真ん中に寄せなくては・・・みたいに考えていたのがバカみたいです。
必ずしもそうではないかも。
唇の固定は、固定の意味・やり方によっては正しいし良いことです。
唇を真ん中に寄せる、というのも文脈によっては正しいし必要なことです。
なので、いままで考えていたことを丸ごと否定するよりは、今回やり始めて効果的だったことを、「やり続ける、深める、そして観察しながら必要な修正も施していく」というスタンスでよいのではないでしょうか。
Basil
バジル先生
お返事ありがとうございます。
なるほど。これまでトライしてきたことが全く無駄ということではないのかもしれません。
バジル先生が仰るように、「唇の固定」、「唇を真ん中に寄せる」といったアドバイスが、どういう文脈で言われていたのかによって、効果は全然違いますし。
とりあえず、今やっていて効果的なアプローチを継続してみたいと思います。ありがとうございました。
自分も実験を試みました。
出来る限り厳密に①~③のみ行い、アパチュアを狭くしたり唇をすぼめたりなどという小細工はやめてひたすら原則を守って吹いてみました。
40年以上ラッパを吹いて来て一番不安定で本当に心もとない感覚でしたが、しばらく練習していると、大変楽に演奏できるようになりました。
特に、下顎で唇を閉じるというアイデア(と言っていいのか?)は新鮮でした。
「楽器って、楽に吹けるようにできているんだよ。」という師匠の言葉を思い出しました。
ここ10年程不調でどうしようもなかったのですが、この数日で復調の兆しも見えてきました。楽器をやめなくて良かったです。さらに精進したいと思います。
喇叭吹きさま
こんにちは。
この記事が
そんなに役立てたと知れて、とても嬉しく思います。
「原則を守る」ということが、良い手応えやお師匠様の教えの理解につながっているということが、とても印象的です。
技術的な「原則」ということで言えば、この記事よりさらに具体的に書いたものがあります。
→https://basilkritzer.jp/archives/7477.html
そしてさらに包括的に「練習」の原則ということではこちらがあります。
→https://basilkritzer.jp/archives/7083.html
どうぞお役立て下さい。
BASIL
バジル先生
こんにちは。以前よりアンブシュアが安定せず、正しいアンブシュアについて考えていました。
バジル先生のブログを拝見させていただき、口を閉じるという事や、頭を動かしてあげるという事を意識して練習しているのですが中々アンブシュアが安定しません。
上手く吹ける時とそうでない時は何が違うのか、自分でアンブシュアの写真を撮りながら観察していると、アンブシュア形成時に下顎を右前に出している事に気づきました。(安定、不安定に関わらず)
顎を前に出す動きは自然であると思うのですが、下顎を左右にずらしてアンブシュア形成するケースはこれまでございましたでしょうか。
それで安定するのであれば問題ないと思うのですが、不安になったため質問させていただきました。
そういう奏者いっぱいいますよ。
厳密には多かれ少なかれみんなそうかも?
あとは、マウスピースを当てる角度の方を左右に調整するのもアリかもしれません。同じ出来上がりを作るにあたっての顎の割合を減らせるということですね。その方がラクでうまくいくなら、ですが。
早速のご返信ありがとうございました。
「マウスピースを当てる角度の方を左右に調整するのもアリかもしれません。同じ出来上がりを作るにあたっての顎の割合を減らせるということですね。」
この部分に注目して角度をずらしてみたところ、とても吹きやすくなりました!
顎をずらして吹いていたのは、振動しやすい唇の部分を無理やり楽器に合わせていたんだなと気づきでした。