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ホルン演奏愛好家の方との、アンブシュアに関する質問のやり取りです。
【質問者】
「演奏家たちのアムブシュアタイプ分析」はものすごくためになりました。
今までの自分の誤った考え、認識の欠けていた部分をかなり補うことができました。
以下は自分自身に関する、自分自身での分析、反省などです。(合っているかはわかりませんが)書いているうちに長くなってしまいましたが、もし読まれて変なところがあれば、ご指摘いただければ幸いです。
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・自分は「息の流れが下流」タイプ
→上顎、下顎の相互関係、歯の大きさ、等から検討
結論:「低位置タイプ」は可能だろうが、下顎を極端に前に出さないとできず、また、マウスパイプの角度がありえないくらいに上向きにならないと成立しないだろう
・自分は超高位置なのか、中高位置なのか?
→検証:自分の口の筋肉の動きは、音が上がるにつれて上に行こうとしているしかし、上顎の前歯2枚が周辺に比べかなり大きいこと、歯の厚みの半分くらい前に出ていること、同前歯の下端が、周囲の歯よりも下に長い(1-1.5mmくらい)ことから、アパチュアが上にずれると気道が歯によって阻害される。すると、気道を確保しようとしてアパチュあを広げる方向に、上唇周辺の筋肉が動く。その結果として、高音を出すために「間違って広げたアパチュアを補正するために、マウスピースを押し付ける圧力が増す、ますますアパチュアを広げようとする」という悪循環になる。
結論2:中高位置の動きである音域の上行に伴ってアパチュアが、マウスピースに対して上に(上唇そのものが上に行こうとする)のは間違い
結論3:「音域の上行に伴ってアパチュアが、マウスピースに対して下に(より下向きに)なろうとする動きのほうが正しいはずだ」
・反省1:高音になるほど上唇周辺の筋肉が緊張して、MPに対してアパチュアを上に持って行こうとする動きを止めなければならない
・反省2:そのためには、高音に向かうにつれて上唇周辺の筋肉が緊張して笑顔になろうとするのではなく、むしろ口ひげの方向(斜め下方向)または真下に垂れ下がっていくような上唇の動きが必要なのではないか。この時、アムブシュアの緊張によってアパチュアを縮めようとするのでなく、気道がさらに下方に向くようにすれば自然とアパチュアは縮まり、筋肉の強い緊張とは無縁に高音域に迎えるのではないか、またこの時、下唇は大きく動いてはいけないが、上唇の動きに対しては相対的には行き違うように作用するはず、ただし対抗して押しつけ合うのではなく、ハサミのように、下唇の前側表面を上唇の裏側(内側)表面がごくわずかにスライドして下方に向かう傾向で良いのではないだろうか
<下唇>
・今後:下唇は巻き込んではならないが、アゴの先端から下唇に向う線の延長方向に向かいつつ(傾向として向かうだけ、大きい移動はない)、下前歯に乗り上げるのは不可(息が下唇と下前歯の間に入ってしまうから) この「上に向かう傾向」が強すぎると「下前歯への乗り上げ」と「アパチュアの上行」を招くので良くない、かと言ってアゴの先端に向かうと、「アパチュアを広げようとする動き」になって良くない、またフリーに弛緩させると、上唇の動きにつられて勝手に振動しようとしたり、アパチュアの形成を阻害するため、自らの位置と形状(姿勢)を保持するための最小限の緊張は必要
<下顎>
・下顎は、上下の前歯の位置関係を正しく保つため、及び下唇の適度な緊張(位置と形状の維持をもっぱらの役割として)のためにその位置をキープするべき
<マウスピースのリム・形状>
・今日わかったことだが、このスタイルで吹こうとすると、マウスピースはかなり下方を向くことになり、特に音域が上行するときにその傾向は顕著になる。一方、マウスピースを顔面に押し付ける圧力は、音域が上行するに伴い、徐々に増加する、この2つの理由から、幅の広いリムは、その最外側が下歯茎に当たることになり、音域の上行に連れてマウスピースが傾くと、アムブシュアとリムによる密閉がしにくくなる→従って、あまり幅広なリムは不向きである マウスピースのリム下端が下唇の下、下顎の歯茎に当たるあたりで、食いこまずにpivottingできることが望ましい
・推測・検討:あまり幅広でなく、ラウンドなリムが望ましいのではないだろうか
<マウスピースのリム・内径>
・推測・検討:今までどちらかというと広い内径(17.5mm)のMPを試してきたが、広すぎると左右の密閉に支障をきたすリスクが考えられるため、17.0mm程度のリムに戻した方が良いかもしれない
【バジル】
さっそくフィードバックを試みます。
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>>自分は「息の流れが下流」タイプ。上顎、下顎の相互関係、歯の大きさ、等から検討
このアンブシュアの3タイプが存在し、動きに法則性が存在すること。
そこまでは科学的に確かめられています。
タイプを見分けることも、慣れれば簡単です。外から見てわかる動きと息の向きでわかるからです。
しかし、「どうしてそうなるのか」という決定要因に関しては、明らかになっていません。
個々人の解剖学的諸条件による部分が非常に大きいでしょうが、でもどのような条件が具体的にどのようにアンブシュアの動きとタイプの決定に関与しているかは、まったく分かっていません。
ですから、顎の位置関係や歯の大きさを見てタイプを判断することは、不可能です。
もっぱら、
①息の向き(透明マウスピースを使用)
②マウスピースの動き
でのみ判断ができます。
この記事ドナルド・S・ラインハルトの教育法〜9つのアンブシュアタイプ〜は、3タイプ分類の前身として存在した9タイプ分類です。これは、
①もともとの歯並びや顎の形状
②演奏時の顎の動き
③息の方向
④アンブシュア動作
により分類していくものです。
ここでは顎や歯の状況を踏まえてはいますが、それによりタイプが分類されているわけではなく、前述の通り「もともとそうなっているひと」が「演奏するときにどうするか」まで見て分類されていきます。つまり、もともとの条件を同じものとして分類しても演奏時の動きが異なると最終的な分類が異なってくる、ということです。
>>結論1「低位置タイプ」は可能だろうが、下顎を極端に前に出さないとできず、また、マウスパイプの角度がありえないくらいに上向きにならないと成立しないだろう
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質問者さまはこのタイプではないのでしょうが、下顎をかなり前に出すこと、マウスパイプの角度がすごく上向きであることは、なんら問題や異常ではなく、それが合っているひとが相対的少数ではあっても絶対数としてはたくさんいらっしゃいます。
>>自分は超高位置なのか、中高位置なのか?
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音を上がるときにマウスピースが上に動いていれば超高位置、下に動いていれば中高位置です。そこはかなりシンプルです。
>>自分の口の筋肉の動きは、音が上がるにつれて上に行こうとしている
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そのときに、マウスピースがどちらに動いているか、です。
筋肉の動きとして「上」に感じても、それがアンブシュアとマウスピースをワンセットで捉えたときに上方向の動きになっているのか下方向の動きになっているか、です。
マウスピースの動き(角度ではなく)見ると分かります。
>>しかし、上顎の前歯2枚が周辺に比べかなり大きいこと、歯の厚みの半分くらい前に出ていること、同前歯の下端が、周囲の歯よりも下に長い(1-1.5mmくらい)ことから、アパチュアが上にずれると気道が歯によって阻害される→気道を確保しようとしてアパチュあを広げる方向に、上唇周辺の筋肉が動く→結果として、高音を出すために「間違って広げたアパチュアを補正するために、マウスピースを押し付ける圧力が増す、ますますアパチュアを広げようとする」という悪循環になる
>>中高位置の動きである「音域の上行に伴ってアパチュアが、マウスピースに対して上に上唇そのものが上に行こうとする」のは間違い
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もっとシンプルに言えば、「アパチュアが意図せず開いてしまって、高音域に必要な圧縮が作れないでいる」ということのように読めます。
>>結論3:「音域の上行に伴ってアパチュアが、マウスピースに対して下に(より下向きに)なろうとする動きのほうが正しいはずだ」反省1:高音になるほど上唇周辺の筋肉が緊張して、MPに対してアパチュアを上に持って行こうとする動きを止めなければならない
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アパチュアの位置、動きというのは透明マウスピースで見ないと分かりませんが、ご覧になりましたか?
感覚はなかなか当てになりません…。
>>反省2:そのためには、高音に向かうにつれて上唇周辺の筋肉が緊張して笑顔になろうとするのではなく、むしろ口ひげの方向(斜め下方向)または真下に垂れ下がっていくような上唇の動きが必要なのではないか。この時、アムブシュアの緊張によってアパチュアを縮めようとするのでなく、
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アンブシュアを積極的に動かす、力を入れることは、マウスピースとちゃんと連動し自分自身のアンブシュア動作に沿っていれば悪いことにはならず、むしろアンブシュアの技術として必要なのではないかと思います。
>>気道がさらに下方に向くようにすれば自然とアパチュアは縮まり、
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高音にいくにつれて息の流れが「さらに下向きになる」のが超高位置、中高位置タイプです。
ポイントは、奏者は息の方向を操作しているのではなく、唇の圧縮を作り出すためのアンブシュアとマウスピースの動作を主体的能動的に行っているなかで、息の流れの向きが「自然と変わる」というところです。
文章を拝見していると、主体的能動的操作の対象が、逆になっています。
アンブシュアを意識するとうまくいかなかった経験からきているものでしょうから、うまくいく限りはある種の方便として息の向きの操作だと捉えるのは有益だと思います。
しかし、アンブシュアとマウスピースの動きを理解し良好な関係を作れていれば、アンブシュアの圧縮を意識することは本来は悪いことにはなりません。
>>またこの時、下唇は大きく動いてはいけないが、上唇の動きに対しては相対的には行き違うように作用するはず、ただし対抗して押しつけ合うのではなく、ハサミのように、下唇の前側表面を上唇の裏側(内側)表面がごくわずかにスライドして下方に向かう傾向で良いのではないだろうか
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この描写は、中高位置タイプの動きに思えます。
アパチュアを「挟む」感覚が、中高位置タイプのひとには合うことが多いみたいです。
思いっきり、力いっぱい「挟んで」みてはどうですか?
>>(下唇)・今後:下唇は巻き込んではならないが、
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いえ、むしろ「巻き込んでしまってもいい」と思ってみましょう。
中高位置タイプは巻き込み、もしくは巻き込みに見えるような動きが合っている場合にたくさん接してきています。
「挟む」ために、「巻き込んでもいいから思いっきり挟んでみよう!」という感じで実験してみてはいかがでしょう。
>>アゴの先端から下唇に向う線の延長方向に向かいつつ(傾向として向かうだけ、大きい移動はない)、下前歯に乗り上げるのは不可(息が下唇と下前歯の間に入ってしまうから) この「上に向かう傾向」が強すぎると「下前歯への乗り上げ」と「アパチュアの上行」を招くので良くない、かと言ってアゴの先端に向かうと、「アパチュアを広げようとする動き」になって良くない、またフリーに弛緩させると、上唇の動きにつられて勝手に振動しようとしたり、アパチュアの形成を阻害するため、自らの位置と形状(姿勢)を保持するための最小限の緊張は必要
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いずれも「挟む」ことを思い切ってやってみるとうまくいく可能性を感じます。
その動作は最初から最小限にしようとするより、雑でもいいから思いっきりやってみることをお勧めします。
>>・今日わかったことだが、このスタイルで吹こうとすると、マウスピースはかなり下方を向くことになり、特に音域が上行するときにその傾向は顕著になる
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やはり中高位置タイプのひとつの典型です。(3つのタイプについてはこちら)
おそらく良い傾向です。
【質問者】
>>もっとシンプルに言えば、「アパチュアが意図せず開いてしまって、高音域に必要な圧縮が作れないでいる」ということのように読めます。
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まさにその通りです。
いただいたメールを読み、今日早速「挟む」ことを思い切ってやって」みたら、他のことをいろいろやるよりもはるかに簡単に、というか体もわかりやすく、すっと音が上行しました。
迷い迷いながらですが、やっとトンネルから抜ける出口があることが実感できてきました。
今までずっと「挟むのは悪」と信じてきたのですが、こんなに良いものだとは!?
とりあえず、ご報告とお礼まで