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『アンゼッツェンとアインゼッツェン』に関する記事を翻訳完了!
学生時代に散々悩まされたテーマだった。少し、粘膜奏法の話にもつながる。
めちゃスッキリ、納得。
もっともっと前に知っときたかったわ、ほんまに…
ぼくは正面から見ると上唇が薄く下唇が厚く見える。
でも下から見るとむしろ上唇の方が厚い。
そのため、正面から見ると一見、マウスピースの中で下唇の割合が多いような印象を持たせる。
だから、師事した5人のホルンの先生のうち2人が、
「下に当てすぎ。もっと高いポジションに当てろ」
と言ったんだということがつい先月気がついた。
しかし下から見ると実のところ、上唇の割合が明らかに多いのである。
つまり、すでに高いポジションにあったんだ。
これによる混乱と不安がわたしのホルン人生19年のうち16年を占める(笑)….笑いごとちゃうけどな!
そしてぼくは、「自分は下唇の割合が高い、珍しい、そして恵まれないタイプなねだ…」という悲劇的被害者意識を持つ。
そのタイプでも成功している奏者(デニス・ブレインやブルーノ・シュナイダーなど)の存在を心の命綱にしながら…。
しかし実はここには二重の誤りがあった。
ひとつは、下唇の割合が高いのは恵まれないてないのではない。
比較的少数派なのであり、自分に合わない吹き方をしたときの悪影響が他のタイプより大きいだけで、このタイプに適した奏法と練習法に即して取り組めばむしろもっとも穴のないテクニックと素敵な音色になるタイプだ。
もうひとつの誤りは、自分はそもそも下唇優位のタイプではないこと。
むしろ真逆で、明らかに上唇優位だったのだ。それを自分でも知らず、また師事した先生の見立ても間違っていた。そのため、自分の吹き方の将来に不安ばかり募ったし、練習のやり方や目指す方向性がぶれぶれになった。
ややこしいことに、「お前はこうなっている」の診断は誤診であった一方で、「こうしなさい」という処方は、すでにそうなっていた不要なものだったのだ。その結果起きたのは深刻な混乱と自信喪失であった。
それで冗談にならないほど遠回りし、間違いなく自分のホルン奏者人生は、演奏キャリアという面ではネガティブな影響を受けた。学生時代の大半はろくに吹けなかった。
しかし不幸中の幸いか、処方そのものは不要なだけで間違いやズレではなかったので、アンブシュアや奏法そのものを傷つけたわけではなかった。だから、自分なりに腹をくくり、自分の考えに基づき練習に取り組むようになってからは順調に上達し始めた。
これが、処方がその人のアンブシュアタイプからずれたもので、処方された通りにやり続けたひとのなかにはたくさん吹けなくなったひとが昔からどの国にもたくさんいるのだ…。
わたしはその点幸運だ。理解や方向性のぶれ、自信喪失からくる奏法の不安定や問題点はいくつもあったが、一歩一歩の上達や今回のような理解の進展により確実に改善し成長していけている。
この一年、Wilken 氏の研究の翻訳に取り組んでいくなかで、自分のホルン人生の苦労や混乱が一体なんだったのかがどんどん分かるようになった。受けた指導のうちどんな指導がどう間違っていたかも分かった。
それにつれむしろ先生たちへのわだかまりは消えていっている。その先生たちの愛や素晴らしい点こそがむしろ感じられるようになった。
これからも自分なりの最善の勉強と理解を尽くして指導活動に取り組む。その内容がある指導内容や理論を否定することになっても、それはその人を否定するものでも攻撃するものでもない。
なぜならやっていることは純粋に、『どうしたらもっと上手になれるかな?』ということの探求と実践でしかないからだ。
Basil Kritzer