アマチュアトロンボーン奏者の C さんから質問を頂きました。
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【質問者】
一般吹奏楽団で指揮をしています。
最近になってトロンボーンが上手くなりたいと思い、一から練習を始めました。
もともと中学からチューバを部活で吹いていたのですが、大学出てからはトロンボーンを拭き始めました。今は念願のsuperboneという楽器を手に入れ、本格的に練習しようと頑張っています。
あるメソッでで、唇から意識を舌に切り替えることで、バテにくくし5オクターブの音域を楽に吹けるようになろうというものがありますか、それにも取り組みました。この中でも、椎骨を中心に体をやわらかくし、それでいて会陰を上げ下げするトレーニングが含まれています。
骨盤底で支えるということとリンクして、やはり大事な部分なのだと思いました。
が、この骨盤底の意識と言うものがいまいちできないというかわからないのです。会陰の上げ下げも全くできません。よいイメージの仕方があれば教えてください。
また、口を閉じてからマウスピースをあてて吹くという方法をしてから、ずいぶんと音が鳴りやすくなりました。今まで力んでいたものはなんだったのかというくらいびっくりしています。
ただ、その方法にしてから上の前歯と唇の間に空気が入り込むようになってしまいました。プレスも今までしないようにしていたのですが、思い切ってプレスするようになってから高音も低音も響くようになってきたのですが、妙なことに(犬歯より中央側から)空気が入ってきてしまいます。
何かアドバイスをいただけたら幸いです。
【バジル】
〜骨盤底〜
わたしも、会陰を上げ下げするなどのコントロールをできている感覚はありません。そもそも骨盤底の感覚自体、はっきりとは分かりません。
骨盤底の感覚を知ったり、感じたり、骨盤底を鍛えることは有益だと思います。「フランクリンメソッド」もそのひとつのようです。
ですが、わたしはあまりそういう「肉体感覚派」でも「身体修行派」でもないので、ちゃんとそういうのができたことがありません。
しかし、骨盤底のことを知り、理解し、意識することですごくプラスなっています。意識するって、感じることと同じではないんです。
初めて骨盤底のことを知り、また演奏に取り入れ始めたころのブログがあります。キャシー・マデン先生という方に教わったことがきっかけです。
1回目のレッスン: https://basilkritzer.jp/archives/249.html
2回目のレッスン: https://basilkritzer.jp/archives/394.html
いまではわたしにとっては骨盤底は意識すること自体はかなり慣れて当たり前になっていますがこれらの記事はそれに取り組み始めたころなのでちょうど山村さんの関心に合っていると思います。
骨盤底に関しては、
それがキーワードとして登場するブログ記事一覧:http://goo.gl/fAYqEZ
呼吸の誤解を大掃除:https://basilkritzer.jp/archives/1470.html
がありますので、ぜひ読んでみてください。
つい先日、「フランクリンメソッド」の本で再度骨盤底の筋肉の位置や範囲を確認してみると、意識するのがやりやすくもなりました。骨盤底を感じられるかどうかはひとによるでしょうが(わたしは感じられません)、指標としてはだれでも指で触れて確認できる骨が便利です。
・恥骨
・尾骨(尻尾のほんとうにさきっぽ)
・坐骨
を結びカバーしているのが骨盤底のエリアです。
わたしの場合は、ですが、尾骨の方が恥骨より若干高いので、骨盤底の面に角度があるのがわかって新鮮でした。
〜唇と歯の間の空気〜
空気が入ってくるのは、左右ともに同じ度合いでしょうか?
度合いが違えば、より空気が入ってくる面とマウスピースの密着を濃くしてみてください。
度合いが同じならば、もっとさらに思い切ってしっかりマウスピースとアンブシュアを密着させ続けてみるとどうなるでしょう?
また、口を閉じつ順番を変えてみるとどうなるでしょうか?
・マウスピースと口をくっつける
・そのあと口を閉じ
・アンブシュアをかなりムギュッとしっかり作ってから
・発音し
・発音後のムギュッと感の維持を試みたり、あるいは意識したり
するとどうなるでしょうか?
お返事お待ちしています!
【質問者】
お忙しい中、貴重な時間を頂きありがとうございます。迅速な回答に感動しております。
骨盤底の意識、すこし分かったような気がします。
おなかを中に内に絞るようにするという言葉で使い方が少し見えました。
ちなみにこの動作中、腰(へその高さで背中側)辺りがぎゅーっと締まっていくのですが問題ないでしょうか。息を吐いていくと背筋が固まっているようです。
でもとりあえずは息が上に流れていく感じがつかめました。ゆっくり練習していきたいと思います。
唇と歯の間の空気ですが、必ず右側から進入してきます。
先生のご提案のとおり右側のプレスをすこし強めにしたら入らなくなりました。どうやらチューニングB♭より下の音域を吹くときに入り込むようです。
下に行くと無意識のうちにプレスが弱くなっていたのだと思います。
ちなみに「アンブシュアをかなりムギュッとしっかり作ってから」というのは「唇は、前方向へ」のことでしょうか。あまりイメージがわかないのですが、パッカーと呼ばれるものに近いですか?(パッカーもあまりよく分かっていませんが・・)
あと呼吸のところでもう一つ尋ねたいことができました。
椅子に座ったときに、立って演奏しているときの間隔がつかめません。おなかを絞る力がかなり弱まる感じです。何かアドバイスがあればいただきたいです。
しかしほんの少しの意識で変わるものですね。びっくりしています。
今までかすりもしなかったHiFが出るようになりました(と言っても蚊の鳴くような音ですが)
バジル先生はどのように音域拡大をされたのでしょう?
少しずつできることが増えてきて、今最高に楽しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!
【バジル】
>おなかを中に内に絞るようにするという言葉で使い方が少し見えました。
>ちなみにこの動作中、腰(へその高さで背中側)辺りがぎゅーっと締まっていくのですが問題ないでしょうか。
はい、そこも腹壁であり機能として見た場合、息を吐くための腹筋の一部です。おそらくそれが働いたのをいつも以上に感じたのだと思います。
いつも以上に感じたのは、いつも以上に働いたからかもしれないし、吹き方のバランスの変化でそこの感覚がいつもより意識に入ってきたからかもしれません。
ただもし、「腰を入れる」感じ、骨盤をクイッと立てるようなことをやっているとしたら、それが原因で感じている「ぎゅー」かもしれません。その場合は、姿勢を正す過程をもっとゆっくり、無理せず、少ない力でやってみるとどうなるでしょう?
>息を吐いていくと背筋が固まっているようです。
骨盤底の意識により奏法が(良い)変化をしたことにより、体の各部の働き方や感じ方が変わったことにより感じている一時的なものの可能性が高いと思います。
しかし、先述の通り、骨盤底を意識するときに無理に姿勢を正していて固まっている可能性もありますし、もともとそういう傾向があるのが骨盤底の意識からくる奏法の変化により際立った(=これから変えていくとよいことがはっきりした)といえる可能性もあります。
ひとつ試して頂きたいのは、
「腹筋を働かせるのをなるべく最後まで取っておく」
というアイデアです。
まずは骨盤底(下)から吐く意識。
お腹が絞られてくる気配があれば、骨盤底から吐くことを少し努力したり、胸郭の収縮(肋骨が吸う前の位置やさらに絞られる方向に戻ってくる)ことを促したりする。(上)
それをやったあとで最後にお腹(=前、横、後ろ)を使う。
こうしてみると、吹き心地・響き・音質・身体感覚はどうなるでしょうか?
>唇と歯の間の空気ですが、必ず右側から進入してきます。
>先生のご提案のとおり右側のプレスをすこし強めにしたら入らなくなりました。
それはよかった!
推測が当たりました。
どうやらチューニングB♭より下の音域を吹くときに入り込むようです。
下に行くと無意識のうちにプレスが弱くなっていたのだと思います。
プレスだけでなく、もしかしたら音域を下がるにつれて、必要以上にアンブシュアを緩めている可能性もかなりあると思います。
よーく音を聴きながら演奏すると、アンブシュアを緩めすぎると、低音域になるにつれて音の明るさが失われます。太く、柔らかい音ではあるのですが、明るさ・張り・輝きが失われるのです。
中高音域〜高音域(チューニングBbの上のFくらい)の音を思い切ってタンギングしてしっかり「タッー!」発音して2〜3拍保ちます。そのときに音は明るめで良い意味での硬さがあるでしょう。その質をよく聞いておきます。
そしたら、おなじ音から、やはりしっかりタンギングをして発音し、音の明るさ・張り・輝きを聴きながらそれを保持することを意識しながら半音づつスラーで下がってきます。一息で3〜4半音くらい。
そうすると、いつもより低音域の演奏をしているときのアンブシュアが、中高音域に似たアンブシュアになるでしょうか?そうなっていると、空気の入り込みは減り、中高音域からの連続性・一貫性という点でコントロールがしやすくなっていると思います。
>>ちなみに「アンブシュアをかなりムギュッとしっかり作ってから」というのは「唇は、前方向へ」のことでしょうか。
最初にメールでおしゃっていた、「口を閉じる」と同じでよいと思います。
>>あまりイメージがわかないのですが、パッカーと呼ばれるものに近いですか?(パッカーもあまりよく分かっていませんが・・)
おそらく近いと思います。
>あと呼吸のところでもう一つ聴きたいことができました。
>椅子に座ったときに、立って演奏しているときの間隔がつかめません。
>おなかを絞る力がかなり弱まる感じです。何かアドバイスがあればいただきたいです。
座奏は、立奏に比べると息の出入りの最大キャパシティー・可動性を使いにくくなります。身体と地面・椅子の接触面が増えて摩擦が高まり、安定度・固定度が高まるからだと思います。
大きな呼吸運動に対してバランスを取りにくくなるのです。安定度・固定度が仇となって。
ですので、立奏に近づけるには、慣れている感覚よりは座奏時に積極的に動くことが助けになるでしょう。
足の裏に体重をかけてはまた後ろに戻り、を繰り返したり、片方の足や太ももの裏から反対へと体重を移していったりします。そういう動きは脚の動きなので(地面に対し固定されているので目立ちませんが)立奏に近い感覚になるわけです。
>しかしほんの少しの意識で変わるものですね。びっくりしています。
>今までかすりもしなかったHiFが出るようになりました(と言っても蚊の鳴くような音ですが)
それはいいですね!
>バジル先生はどのように音域拡大をされたのでしょう?
>少しずつできることが増えてきて、今最高に楽しいです。
やはり、少しづつですね。
ときどき何か発見や気づきがあって飛躍もありますけれど、じゃあその発見は何からもたらされているかといえば、自分の観察・分析・直感・練習方法を信頼することだと思います。
自分の練習の仕方にも自分の奏法にも自分が責任を負えば、他人の意見に振り回されることが減ります。自分のやり方や考え方に間違いがあれば、それ自体が結果の観察や直感からいずれ分かり、自分で責任を持って修正できるわけですから。
自分の吹き方、練習、進歩を、それぞれの変化も含めて信頼するということが
ポイントだったように思います、振り返ると。
あとは、プロの優れた奏者たちの練習ぶりを生で聴き、観察するのも言葉では説明できない次元で得るものがあります。そのまま持って帰れる感じといいますか。
しっかりしたプロの先生と一緒に基礎練習をしてもらう。これもオススメです。
【質問者】
「腰を入れる感じ」これでした。股関節のロックがかかっていたようです。
膝の上の辺りの筋肉が張っていました。いわゆる見た目上の「いい姿勢」になっていたようです。
背中の緊張がなくなりました。感動です。
アンブシュアもご指摘の通りでした。気づかないうちにアンブシュアを大きく切り替えていたようです。上から下がっていくと、空気が入らなくなりました。と、同時に少し音が豊かになったような気がします。
座奏についても、座ることにより体が固まっているのがわかりました。
動きを意識すると、ずいぶんと立奏の間隔に近づいた感じがします。
まさか、メールのやりとりでここまで効果があるとは夢にも思いませんでした。
今度、小学校への訪問演奏の時に自衛隊のトロンボーンの方が参加してくださるので、
よく観察してみようと思います。
今後もまた相談させてください。
指揮者の立場としての悩みも出てくると思います。
バジル先生のブログやメルマガを中心に、私も勉強を続けていきたいと思います!
本当にありがとうございました!
【バジル】
役立ってなによりです。