癖の「枠外」へ

楽器演奏において、演奏技術の「身体的感覚」は、技術がよく訓練されるほど安定し 日々のぶれが少なくなる。感覚は動きの報告システムであり、訓練された技術は即ち訓練された動きだからだ。報告が一定的になる。

しかし、技術と癖はどちらも、訓練された脳の特定のパターンである点で同じもの。ちがいは望みに叶うかそうでないか、にある。

すると、「一定の感覚」を求める気持ちや「感覚の再現」を求める気持ちは、癖=望まない方の技術を訓練することに向かっていきやすい。

技術の改善や向上は、即ち現状の技術に変化をもたらすことを意味するので、感覚の再現とは対極、感覚の「初体験」を生むことになる。

フレッシュな感覚は、いつもとちがう新しい情報である。それまでの「技術」または「癖」の枠外にあるので、まさにちょっとした新境地を体験していることになる。

私たちは「これはまずい」「これはおかしい」ことを「不快感」や「不安」の感覚で察知している。

そのため、「ヤバイ」と感じると「いつもの感覚」を思い出そうとしたり、掴みたくなる。

しかし、「いままでと同じ」でもある日不快感や不安を感じることはよくある。望みが明確になるにつれて「いま」の技術の限界に気づくこともある。

そんなときこそ「いつもと異なる」感覚を歓迎したい。「これはまずい」と分かるパターンを破れるからだ。

フレッシュでいつもと異なる感覚が知らせてくれる情報のおかげで見えることには「希望」がたくさんある。

そういうときは大概、「これは良いかも」「ラクだ」「通り?抜けが良い」といった感覚を体験している。「いつもと異なる」ことに目が行きがちにはなるが、快感がある。うまくいっていること、方向性として正しいのが直感あるいは内心の気持ちでは分かる。

フレッシュでいつもと異なる感覚を歓迎するには、楽器を練習するときに、普通はやらないことをやってみるといい。

楽器を逆に持つ。
五分だけ別のマウスピースや弓などでやってみる。
わざと10分間で四種類のマウスピースや弓を使ってみる。
片足立ちで。
屈伸しながら。
床に直に座って。
背もたれにもたれて。
あえて猫背で。
体をひねってみながら。

いずれも、意図的に「いつもの感覚」を遊び心を持って「邪魔してみる」わけだ。

癖は、直すとか消すとか打破するとかするものではない。「枠外」へ足を踏み出すものだ。これにより、新たな技術とフレッシュな感覚を体験できる。これかま「上達」である。

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