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音大生の方から相談をいただきました。
【質問者】
突然のコメントで失礼致します。
どうにも吐き出す場所がないのでここで相談させて下さい。
現在就職活動中の音大生です。
中高生のときから本当に楽器が好きで、とにかく上手くなりたい一心で音大へ進みました。
音大での生活は、とにかく楽器を演奏するのが好きで、音楽をするのが楽しくて、うまくなることだけを考えて過ごした4年間でした。
最終的に何になりたい、というのはあまり考えたことがなかったのですが、進路を考えたとき、もっと勉強したい、楽器抜きの人生は考えられない、という2つのことを感じました。
ですので今日まで大学院や音楽隊などのオーディションを受けてきたのですが、未だひとつも受かっているものはありません。
一つ試験やオーディションに落ちても、落ち込まず次があるさとがんばってきたのですが、この前第一希望としていた団体の不合格通知を受け取って以来、何かがプツリと切れたようにやる気が出なくなってしまいました。
同期の学生は次々と就職や進学を決めていっています。
なかには、「一般就職するから楽器はもう続けないんだ、記念受験だよ」と言って楽団を受験し、合格した子たちも居ます。
汚い感情ではありますが、そういった子たちを見ていると、私だって必死に頑張っているのにどうして…という感情が拭い切れません。
本気でやっているのに、ひとつも結果を残せないなんて、私は才能がないんでしょうか。
それとも努力が足りないのでしょうか、もっと努力しなければいけないのでしょうか。
もしそうなのであれば、正直もう限界です。
努力して挑めば挑むほど、不合格通知を受け取ったときのショックが大きく、この前第一希望が不合格だったときなどは、脳みそが痺れるような感覚に陥ってこのまま死んでしまうのではと思いました。
こんなことでへこたれているなら、きっと演奏家としての適性もないのだろうなと思います。
もう、音楽なんか辞めてしまった方が良いのかと悩む日々です。
もっとも、私は楽器が吹けることぐらいしか取り柄がないので、辞めてしまえば本当に使えない人間になってしまうのですが。
【バジル】
こんにちは。
文面を読んで、あなたが
・音楽活動を続けたいこと
・そのために、大学院受験やオーディション受験など「形」あるもにチャレンジしたいと思っていること
は確かで、揺るぎないのがよくわかります。
今回はたまたま、いずれも結果が出なかった。
結果というものは、基本的には最後は運です。
だから、望み通りの結果が出なかったからといって、そして他の人が結果を出したからといって、
自分自身の資質を疑ったり、自分自身のやりたいことを諦めなければいけないと考えるのは早計すぎます。
実際、そういう暗い、落ち込んだ気分というのは目が曇っているのでそういうときに重要な決断をすると
後悔する危険があると思います。
おそらく必要なことは、そして今回あなたがやり忘れたことは次のようなことだと思います。
1:進路や生き方に関し、なぜその道を行きたいのか、肯定的/能動的な理由を深く探る。
(それしか取り柄がないから、というのは否定的/消極的であり、困難に際してパワーになりません)
2:進学または楽団への入団以外の、第3の道を考えておく。ただし、自分の生き方の哲学/好みにマッチするようなものであること。
3:進学または楽団への入団という夢の「形」を、いつまで(何歳まで)追求することを自分に許すか決める。その歳までは、絶対あきらめてはならない。逆に言えば、その歳までは結果が出なくても気にする必要がない。自分で決めた「許容年数」なのだから。
4:決めた許容年数の間、どのような生活パターンや生計の立て方をするかを具体的に検討する。(勉強に専念するために実家にとどまるのも立派な選択肢)
以上のようなことをしておいてあれば、結果によるショックはさほど尾を引かずに前を向けるはずです。
私だって必死に頑張っているのにどうして…という気持ちのことを「汚い感情」と仰ってますが、たぶん根っこは美しいものです。おそらく羨望だと思います。
そして、羨望は、実は素晴らしいものなのです。羨望は、自分にも手に入るものや得る資格があるものやできることを、自分はその方向に向かっていないのだけれどその方向に向かっている他人に接したときに感じるものらしいのです。
A:他人の具体的にどんな性質や行動にその感情を感じているか特定します。(こうすることで、「人」への感情ではなくなります)
B:そのものごとや、相似することで自分も望んでいること、性質、行動に一歩近づくために「いまできる一歩」は何かを考えます。
C:それを実行します。おそらく、実行した時点ではすでにその感情は何かすっきりした気持ちに昇華されます。
ですので、感じておられる感情は、貴重な動力であり、かつ素晴らしい指針であると思われます。
参考になれば、と願っております。
– – -1年3ヶ月後- – –
【質問者】
以前、オーディションに落ち続けて音楽を辞めたいと相談した者です。あの時は丁寧なお返事ありがとうございました。
それにも関わらず、こちらからお返事を返すことがなかったことを、お詫び申し上げます。
バジルさんのお返事は大変参考になりましたが、あれからしばらくはやはり自分のなかで気持ちを整理することができず、私からお返事せぬままになってしまいました。
大変申し訳ございませんでした。
今日は、嬉しい報告も兼ねてご連絡させて頂きました。
一年就職浪人した結果、この春から自衛隊の音楽隊へ採用が決まりました。
一年前は就職が決まらず自暴自棄になり、本当に音楽なんてやめてしまおうかと思っていたのですが、そんな時期にバジルさんが的確にアドバイスを下さったこと、本当に感謝しています。
前述のとおり、アドバイスを自分のなかで受け入れ、消化するには時間を要してしまいましたが、浪人期間の後半は、バジルさんのアドバイスを胸に、練習に励むことができました。
音楽隊合格はその結果だと思います。
本当にありがとうございました。
【バジル】
音楽隊へのご入隊おめでとうございます。
楽器演奏をずっと人生のメインの活動として続けることができる道を歩むことができた、よかったですね!
こうして自分自身と向き合いながら努力を長期間続けて、ひとつ達成が得られたことはあなた自身にとっても、またこれからあなたが接することになる後輩や生徒さんたちにとっても非常に大切な経験になることでしょう。
これからの活躍に期待しています。
Basil Kritzer