歌や管楽器をされている方は、練習するときに息の吸い方や吸う量のことを強く意識することが多いですね。
「たくさん吸う」こと
「深く吸う」こと
「目一杯吸うこと」
を心がけでいることが多いです。
そういうふうに意識しながらも、息がうまく吸えないと悩んでいる人の中でよく見受けられることがひとつあります。
【息を吸う音に惑わされている】
それは、「息を吸う音」を大きく立てていることがある、ということです。
「スー」「ハー」「ホー」というような音を大きく、人によっては2~3秒続けて立てていることもあります。
そして人によっては声が混じっていることがあります。
さて、この「息を吸う音」ですが、口の中や喉のあたりに不要で邪魔な抵抗を作っていることが原因であるケースがあります。
つまり、たくさん吸っているつもりで大きな「吸う音」を立てているのですが、逆に息を吸いづらくしてしまっているのです。
そして、「吸う音」を大きくすることに使う力の感触を、「吸えている実感」として解釈してしまっているケースもとても多いです。
【悪循環を解く】
管楽器の場合はとくに、演奏しながらわずかな秒間でたくさんの息を吸う必要がある場面がありますから、たくさんの空気がマウスピースや唇や歯、にぶつかって摩擦音を立てるケースも十分にあります。
これは演奏の実際上、避けられないこともありますから、問題視しなくてもよいでしょう。
しかし、このときの摩擦音と、わざわざ口の中に抵抗を作って自分で生み出している摩擦音はよく聴くと音程や質がまったくちがいます。
重要なのは、
・息を深く・たくさん・目一杯吸おうという意識が強迫的になっていて、わざわざ吸いにくい状態を作ってしまっている。
・しかも、吸えているつもりになれる「吸うときの摩擦音」こそが、実は吸いにくくしている証拠である。
ということです。
この困った状態はどうやったら解くことができるでしょうか?
有効かもしれないアプローチが三つつあります。
アプローチA:息を吸うとき、「歌う・吹く・吐く」はお休み
フレーズの途中で息を吸うそのとき、「歌う(吹く)作業はお休み!」と思ってみましょう。
音を出すことをお休みできるのが、息継ぎということだ、と解釈してみるのです。
その瞬間は、音を出すための息の仕事も、アンブシュアの仕事も、歌の場合は音節や響きを作るための顔面や口腔内の仕事も全部お休みして、解放していいのです。
そうすると、息は一瞬のうちにたくさん、しかも静かにひとりでに入ってくるでしょう。
これは息を吐く仕事の息の面においても、顔面や口腔内の仕事の面においてもこまめな回復をもたらし、健康的なテクニックと気持ちのよい持久力につながるポテンシャルを持ちます。
アプローチB:「歌う・吹くこと」だけを考える
息を吸うことは、生命維持上でも必要不可欠であり、足りない分は必ず身体が反射的に補ってくれます。
これに任せきってみよう、という発想です。
音を出しフレーズを歌うことは、必ずしも自然あるいは本能的な身体の動きではありません。高度に意図的で技術的なものです。
そしてそれを成り立たせているのは、もっぱら「吐いている方の息」です。ですから、息を吐くことだけを考えようではないか、ということです。
吐くことを考えることで、「息を吸おう」と意識しすぎる悪癖による無駄や邪魔を解消できるかもしれません。
これからにどんなフレーズをどんな長さでどんな音量でどのように演奏するかを考えていれば、身体はそのために必要な息の量をひとりでに計算して取り入れてくれるような体験ができるかもしれません。
アプローチC:吸い方を、落ち着いて見直す
いちばん大事なのがこれかもしれません。息の吸い方を、落ち着いて、常識的に考え直すのです。
大事なのは音・音楽なのに、吸い方ばかり意識していませんか?
音や音楽のことを忘れて「吸えている感じ」ばかり得ようとしていませんか?
自分の音や演奏で評価するのを忘れて、息の吸い方の良し悪しばかり気にしていませんか?
まず大切なのは、息を吸うことの目的が音や声を出すことであるという点です。
せっかく良い音や声や音楽ができていても、吸い方の感触ばかりを気にして、評価してしまっているという方が、レッスンしてきたなかでたくさんいらっしゃいました。
なぜか、息を吸うということになると、音(声)を出す、音楽をするということからずいぶん自分自身を切り離してしまうのです。
吸い方や吸い方の感触を気にする必要はかならずしもありません。吸い方をコントロールことすら、必ずしも必要ではありません。
もちろん、吸い方も立派な技術です。
ですが、技術の評価は、結果や手応えでするもの。音のフィードバック抜きにそれ自体を評価したりコントロールしようとしても、うまくいかないのは無理もありません。
また、技術だからこそ、その中身は大切です。
どう吸えたか、ということの観察や判断を「とにかく深く・たくさん・目一杯吸えたかどうか」でばかり行うのは、あまり中身がありません。
息はどこに入っていくのか?
(→お腹じゃない!)
息はどこを通っていくのか?
(→気管は多くのひとが思っているよりかなり前にある!)
肺はどうやったら膨らむのか?
(→肋骨が動く)
肋骨ってどんな感じで動くのか?
(→肩を動かさないようにしてしまうと、全然吸えない!)
お腹はなぜ膨らむのか?
(→お腹に力を入れると余計に膨らまなくなってしまい吸えない!)
etc….
見直していく余地や理解を身体の現実に沿って変えていきたいことがたくさんあるはずです。(参照:呼吸の誤解を大掃除)
なにはともあれ、一歩立ち止まって、落ち着いて取り組んでみましょう。この記事があなたの役に立てば嬉しく思います。
Basil Kritzer
お世話になっております(^^)
本番になると『特に重要な箇所の前では』息が吸いにくくなるのですが、その理由が分かったように思います。
つまり、
吹く(吐く)ことの意識が強すぎて、吸うことを邪魔している
のではないかと。
アプローチAを試してみます。
ありがとうございます。
massy さん
あ、こちらにコメント頂いていたのですね!いまメールのほう返信しました。
アプローチAはおすすめです。スタミナにも大きく寄与すると思います。