合唱や合奏において、「タテを合わせる・揃える」ことを助ける方法が三つあります。
1:一緒に歌う・奏でる仲間を五感で感じる練習
2:ビートを感じる練習
3:歌う・奏でる音楽のイメージを共同作業で作り、共有し、豊かにする
もちろん、これで全てではありませんが、きょうは手っ取り早く試せることとしてこの三つを挙げます。
合う・揃うということにつながり得る具体的手段を取らずに、「合わせろ〜!」と怒鳴るのは、ダメですよ!
【合う・揃うってどういうこと?】
合う、揃うというのは結果です。
ですから、合わせよう揃えようといくらしたところで、その結果につながり得る具体的な方法を取らない限りは、そしてその方法が適切でない限りは、決して合う・揃うという結果は得られません。
結果を要求するのは、指導者や先輩の仕事ではありません!
仕事は、合う・揃うことにつながる可能性がある適切な方法を探求し、実験し、演奏者たちが合う・揃うという体験ができるようにお膳立てすることです。
合う・揃うという現象は
・演奏者全員の思い描いているテンポ/ビート/タイミングが一致し共有されている
・イメージした通りに音を出す技術が確立している
ときに起こしうるものになります。
これから紹介する三つの方法は、それを助けうる方法の一例です。
【1】一緒に歌う・奏でる仲間を五感で感じる
一緒に演奏する人の存在自体が、「合う・揃う」ことを助けてくれます。
「合わせよう、揃えよう」とする代わりに一緒に演奏する人々の存在を脳にインプットするようなイメージが役立ちます。
指導者や指揮者の先生のら演奏するみなさんにこんな提案をしてみましょう。
視覚
「自分の隣の人達が、視界の端で見えていることに、ただ気がついてみよう」
「色んな楽器や人が見えているのに気がついてみよう。」
「一緒に演奏するみんなはどんな色の服を着ているかな?」
聴覚
「みんなの息づかいが聴こえるかな?
「となりの人の音の、どんなことでもいいから気がついてみよう」
「うしろの人の音の、どんなことでもいいから気がついてみよう」
「まえの人の音の、どんなことでもいいから気がついてみよう」
「自分から一番遠くにいる人の音の、どんなことでもいいから気がついてみよう」
嗅覚・触覚・体温
「となりの人の楽器の匂いに気がつくかな?」
「合奏しているこの部屋の空気の感触を感じよう」
「湿度や温度はどんな感じ?」
こうやって、アンサンブルまたは合奏の構成員ひとりひとりが
・自分とともに演奏しているひとたち
・演奏を行う空間
・そこにそうやって存在し息をし動いている自分自身の感覚
にふと気がつくような時間を盛り込んでいくのです。
はじめは、上記のようにひととおり、ゆっくり、15分ほど時間をかけてやってみてください。
それだけで、音が変わります。
響きが増して、しかもお互いによくブレンドするでしょう。
合奏中・練習中も、ちょっと合わなくなったり集中力が途切れてきた感じがしたら、短時間でもやってみましょう。
本番前に舞台袖でやったり、演奏開始直前のステージ上で30秒ほどやるのもとても効果的です。
【2】ビートを感じる
合唱・合奏の演奏を揃えたい場合、その演奏しようとしている曲・フレーズの
・テンポ
・リズム
・曲想
に関する奏者ひとりひとりのイメージが、豊かで明確であり、それが共有されていればいるほど、自然と合わせやすく・揃いやすくなります。
「イメージの豊かさと明確さ」を生み出すひとつの方法が、曲の細部までイメージすることです。
細かく刻んだイメージを一緒に作ります。
例えば ♩=90 のテンポだったら、まず八分音符単位でみんなで一緒にイメー ジします。
恥ずかしがる子供たちに無理に歌わせる必要はありません。
指導者や指揮者のあなた自身が八分音符のビート「タッタッタッタ….」にメロディーを絡ませながら演奏者たちの前で彼らの顔を見ながら歌います(なるべく笑顔で)。
そのとき、指導者が自分のなかでイメージを明確にさせようという意図を持って取り組んでいれば、それが自然と伝わります。演奏者たちも八分音符のビートを感じ始めます。
「さあ、みんなもこころの中でこのビートを感じて、こころの中で歌って。」と促し、軽く指揮するとよいでしょう。
指導者も口ずさみながらやると、演奏者はさらに招待された気持ちになり、もっと自然と参加し始めるでしょう。
八分音符単位から十六分音符単位、さらには三十二分音符単位へと、どんどん細かく具体的になっていけばいくほど、イメージは豊かで明確なものになります。それが「揃う」という現象を結果として生み出すことにつながっていきます。
【3】歌う・奏でる音楽のイメージをみんなで作って共有する
ビートを感じる練習はタイミングを明確にする作用を持ちますが、それによってタテが結果として揃ってきます。
そうやって揃って奏でられた「音」がどんなものでしょうか?
その音楽的イメージを、みんあで作ること自体が、奏者それぞれのイメージに立体性を持たせ、揃うという現象を生み出しやすくなります。
たとえば、まず演奏者の誰かを指名して、
「この曲を聴くと、どんな気持ちなる?」
「あえて色で言うと、この音は何色?」
「どんなことが連想できそう?」
と問いかけ、答えてもらうといいでしょう。
こうすると、指名されたひと以外のみんなも同じ作業に参加し始めます。
そこで、「じゃああなたは?」と別の人にふれば、また異なるイメージを話してくれるでしょう。
構成員のそれぞれから、異なるイメージがいっぱい発言されればされるほど素敵です。
なぜなら、 みんな他の人のイメージの言葉を耳にしますから、それをきっかけに自分のイメージを育てていきます。色んな異なるインプットがあればあるほど、イメージは豊かに明確になってきます。
しかもその作業をこうして共有していくと、演奏する仲間同志のつながりができてきます。
演奏者それぞれの中で、
「こうやって演奏しよう、こういうタイミングで発音しよう」
というプランが明確になってきますので、自然と合いやすく・揃いやすくなっていきます。
【最後に】
ここまで、手軽に実践できる「合う・揃うことにつながる方法」の例を紹介しましたが、前提として見逃してはならないことがひとつあります。
それは、
思い通りのタイミングできれいに発音するということ自体、かなり高等な技術である
ということです。
それができるだけでも大きな達成です。
つまり、「揃えなさい」と言うのは簡単ですが、実はかなり高度な要求を出してい ることになります。
いわば、「ダーツ盤の真ん中にダーツを当てなさい」と要求しているのに近いのです。
「揃えろ」といくら言っても揃わない…。そうやって頭を悩ませている指導者の方 にとっては、実は揃えるということが非常に高度な要求であることを受け入れるのが第一歩かもしれません。
Basil Kritzer
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大阪フィルの橋爪と申します。バジル先生の記事いつも感心して読んでいます。昔シカゴで勉強した事を解りやすい日本語の表現にして頂きありがたいです。これからもよろしくお願いします。
橋爪先生
おはようございます。
まさか、橋爪先生からコメントを頂けるとは!
先月の定期(ブラームスピアノ協奏曲があった回)素晴らしかったです。
お言葉を励みに、これからも頑張ります。
本当は英語の文献で日本語にされる価値があるものがいーっぱいあるのですが、なかなか翻訳に着手できておらず…
でも長い目で見てブログを育て続けたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願い致します。
Basil Kritzer