「癖」との向き合い方
楽器演奏に真剣に取り組むようになると、自分の演奏のやり方を客観視し始めます。
そうすると、自分が望んでいないミスや失敗により敏感に気付き始め、また演奏時の身体的な動きや状態に関してもいろいろと気になり始めます。
たとえば中学から楽器演奏を始めたとして、早い場合は2〜3年のうちに自分の「癖」を認識するようになります。
・高い音を演奏しようとすると、身体が力んで痛みや不快感を感じる
・楽器の構えがだんだんと下がってきてしまう
・音が後押しになっている
などなど。
「癖」は実感したものだけが「癖」
ここで注意しておきたいのは、「他人に指摘された」ことは、自分が実感を持って認識するまでは、「癖」ではないということです。とくに身体のことに関しては、「他人の指摘」というものは、非常にいい加減であまり参考にならないケースが9割。
自分が実感できないことに関する指摘を受けた場合は、あまり気にしないでおきましょう。もし的確な指摘ならば、きっと今後も同じ指摘を別のところからもらう機会があるはずです。繰り返しフィードバックをもらっているうちに、自分自身でも気が付き始めるでしょう。
そもそも存在しない「癖」を気にし始めてしまうと、あなたの奏法は大混乱になってしまいます。ですので、他人からの指摘は、ピンとくるもの、自分の実感として納得できるもの以外は聞き流すようにすることは、実際的には賢い対処法です。
癖を消そうとしない
さて、自分自身が認識して気になり始めた「癖」に話を戻しましょう。
非常に重要なのは
「癖は消せるものではない」
ということです。
癖とは、いつかある時点で何らかの役に立った動きであり、獲得技術なのです。そして、獲得された技術は脳と身体の歴史の中に保存されます。
癖から解放されるのは、癖とは「別の」やり方を「新たに獲得した」ときです。
「癖」に気が付き始めたときに、わたしたちはどうしてもその癖を排除して、抑え付けて、消し去ろうと頑張ってしまいます。しかし大抵は、その頑張りはむしろ癖の強化や、別の癖に結ぶつきがちですね。
繰り返しになりますが、癖は、いつか何らかの場面で何らかの役に立っていたものなのです。
ですので、癖の存在に気付いたり、ある癖が以前から気になっていたとしたら、わたしは「その癖に身を任せてみる」ことをおすすめします。
「癖との新しい付き合い方」実験
癖に抗おうとすることは、自分自身の中に葛藤を引き起こします。
その代わりに、癖が一体どのような方向に自分の身体を動かしていくか、興味を持って眺めてみましょう。
多くのひとの中で
1:(ある音を)演奏しようとする
2:(癖として認識している)何らかの動きが起きる
3:(癖を消そうとして)その動きを止めにかかる/反対方向に引っ張る
4:演奏する
ということが起きています。
2と3の間で、葛藤が起き、緊張しています。
それをまずは
1:(ある音を)演奏しようとする
2:(癖として認識している)何らかの動きが起きる
3:その動きに抗う事無く、癖に身体を任せきってみて、演奏してみる
ようにしてみてください。
さて、どんなことが起きますか?
・癖は起きているが、意外とラクに演奏できた
・たしかに演奏の邪魔にはなっているが、いつもほどの力みや緊張は感じない
・意外にも音に悪い影響がなく、癖に抗っていたときより安全に演奏できる
そういったことを体験をするかもしれません。
このように、癖が出るものの、概して安全で快適な経験ができると、そのときこそ癖ではない「自分が望んでいること」が起きやすくなります。
癖に抗いながら吹こうとすると、感じられるのは癖と、それに対抗する頑張りばかりになりがちです。
そこで抗うのをやめると、頑張るが減るので、癖の代わりに起きてほしいことをより感じやすくなるのです。
例:息を吸うときに肩が上がって力んでしまうように感じてるクラリネット奏者
Before
・息をたくさん吸おうとすると
・肩が上がって力むような感じがするので
・肩を下げようと頑張って
・そうするとあまり息が吸えない感じがして
・背中や首がしんどくて
・音が安定しない
という状況でした。
このなかで
「肩を下げようと頑張る」
というステップを無くして
After
・息をたくさん吸うときに
・肩が上がる感じがしても
・とりあえず上がるがままにしておいて
・(肩を下げようとはせず)そのまま吹いてみる
ようにしました。
その結果
・息を吸うのが少しラクになって
・少し猫背な感じはするものの、首や背中はラクで
・息を吸うとき背中側や身体の側面に動きがあるのが分かって
・お腹がちょっと大変に感じるくらい働いて
・音はより太く安定してよく響くものになった
ということが起きました。
これによりこのクラリネット奏者は
・首/背中/肩を力ませる癖の全体像
・その代わりに使いたい力はお腹の力であること
の両方を実感とともにすっきり理解できたのです。
それ以降この奏者は元々の癖に悩まされることが減り、数ヶ月後には全く問題がなくなりました。
癖に抗うことをやめて、代わりにやりたいことを理解してそれを実践するうちに、そちらが定着してきたからです。
癖を消そうとしたり、抗ったりする事を手始めにやめてみる。それだけでもまずはかなりラクになり力が抜けてくれでしょう。
ぜひ試してみてください。
粘膜奏法も上記のようにした方がいいのでしょうか?
レッスンの先生には将来つまづくと言われてしまったのですが、この癖は消さずに付き合って行けるようにしてもいいんでしょうか?
Tashima さま
いまごろコメントに気が付きました。すみません。
粘膜奏法と言っても、その定義ははっきりしておらず、またある奏法が将来つまづくと断言できるほどはっきりした因果関係は照明されていないでしょうし、何より「ダメ」と奏法で「成功」している「例外」が多すぎるので、「ダメ」の根拠の弱さがわたしは気になります。
まずはなぜつまづくかの納得いく合理的な理由を先生から聞き出してください。
つぎに、安心してついていkる修正法や修正プランを提示してもらってください。