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著しく奏法の調子を崩してレッスンにいらっしゃるようになった若いアマチュアホルン吹きとのレッスン。
始めの2回のレッスンは、音が出やすいマウスピースの当て位置と動かし方(アンブシュアーション)を見出し実践するものだった。
これでまず、出なくなってた音が出るようになったり、揺れて大変だった顔の筋肉が落ち着いたりしていた。
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《いきみ》
そんな改善傾向のなかでの3回目のレッスン。はじめてお会いしたときからも気になっていた、『いきみ』にアプローチした。
いきみとは、音を出す前に喉がウッと止まるような締まるかのような感じで力むもののことを指す。
管楽器演奏では
吸って→吐いて→音が出る
もしくは
吸って→溜めて/支えて→吐いて→音が出る
とやって音を奏でるのだが、【溜め/支え】のところで『いきむ』と、不思議と発音のタイミングが合わず音も苦しいものになる。
そして、『いきむ』とタンギングが伴うことが多い。
いきみに陥っているひととは頻繁にお会いし、レッスンで解決を図ることも何度もしてきているが、これまでは『いきみ』の正体をまだ把握しきれていなかったので、『いきみ』を取ることを図るか、『いきみ』が起きないような奏法の物理を実行してもらうか、どちらかのアプローチになっていた。
しかし今回、ついにいきみの正体が見えてきた!
いきむと強いタンギングが伴う。そのことを考えていると、ひらめいた。
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《一次元奏法》
いきみは、喉元で肺からの空気の流れを止めている。それなのに唇を振動させられるのはなぜか?おそらく、口の中や喉の空気を、タンギングを利用して動かして唇に流し発音を成立させているのではないか。
そう考えると、いきみは実際ちょっと発音しやすい面があることとも符号する。一方で、大きい音は鳴らせないし、音は苦しく、また他の音への移り変わりも難しく、吹き続けるのも難しい。これはそもそも喉元で息の流れを断ち切っているのだから当然だ。
つまり、いきみとは発音に特化した奏法ではないだろうか?ということが見えてきた。
ある特定の音が、鳴ったか鳴ってないか。当たったか外れたか。それだけに関心と判断が向けられる。
大きさ、
長さ、
次の音、
などに関心は向けられない。
当たったか外れたかだけな、いわば「点」で判断するものであり、そういう意味で一次元奏法なのだ。
そして「点」で判断する限りにおいては、息の流れを止めておいてタンギングを利用して振動をおこす『いきみ奏法』はかなり合理的に思える。
従って『いきみ』は癖では無かったのだ!『いきみ』は、点で判断する一次元奏法の選択の体現なのである。
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《多次元奏法》
次に、こう進めた。
とりあえずホルンの3オクターブ半ほど、40個ほどの音
×
とりあえずpp,p,mp,mf,f,ffの6種類に区切った音量
×
とりあえず短い、2秒、4秒、8秒の4種類の長さ
=単音でも三次元560種類の選択肢がある!
各次元から自分で選び、選んだものに見合った
✓息の吸い方
✓吐き方
✓マウスピースの当て位置
を『こうかな?』と仮定して実行してみよう、と。
すると実に鮮やかに『いきみ』が消え去った!
音も格段に良くなり、
アンブシュアも活き活きとしかつ安定した。
音楽、アルペジオ、フレーズはこれに音の羅列というつぎの次元が加わりいわば四次元となる。
この理解で難しい曲の一節を無茶振りしたら、なんとかなり良い感じに吹けてしまったではないか!
たった一ヶ月前の、深刻な不調はその瞬間に霧散していた。不調の根幹は、一次元奏法を選択していたことだったのだ。
この方と似た様子の不調を抱えているひとも、いきみがあるひとも、それぞれ多い。
今後、この奏法の次元選択という考え方からの問題解決については、テストを重ねてその再現性や適用範囲を見い出していきたい。