楽器演奏の指導において、学習者の身体運動を「禁止」する言葉遣いがよく使われる。
「肩が上がってはいけない」
「アンブシュアが動いてはいけない」
など。
しかし、他人の身体運動を禁止する権利がそもそも誰にもない。なのに、気軽に禁止の言葉が用いられる。
他者に対する侵害・越権行為なのだが、さてそうだと分かって禁止する言葉を用いているかというと、そうじゃないことの方が当然多いとは思う。
しかし侵害・越権であることは変わらないので、着目にあたるポイントではあると思う。
特定の身体の動きが演奏の機能や習熟のためにはなされない方が良いと考える場合は、
たとえば、
「肩が上がらないほうがうまくいく」
「アンブシュアが動くのは損だ」
というように述べるのがよいだろう。
そうすることで、身体の動きをどうするかは指導を受ける側の選択という本来の場所に戻るし、身体の動きについての指導者の主張が、指導者側からも指導を受ける側からも、『実際に演奏が改善するかどうか、演奏がしやすくなるかどうか』というそもそもの本題に照らして検証できるようになる。
– – –
《覚えておきたい原則》
◎他者に身体の動きを禁ずる権利も命ずる権利もない
◎身体運動はそれを行う本人の権利であり本人にしかできない
◎身体運動の目的は演奏である
◎どのような身体運動を行うかはどのような演奏をしたいかにより選択される
– – –
この原則をふまえた指導の構造、言葉の運用を考え始めれば意図せぬ侵害はなくなり、かつ相手の為になるような関わり方が自ずと見いだせるのではないか、と思う。
Basil Kritzer