【どんな癖にも、味わい深い歴史がある】

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きのうは、ホルン愛好家青年とのレッスン。

この一年の間に5回ほどレッスンしていて、もうすでにみちがえるようなんだけど、

その過程はいくつもの誤情報あるいは不完全情報を『前提』として自身で作り上げたが、前提の問題故に機能しない結果になる奏法から、機能するやり方を確実に見つけていくことで実現されてきた変化だ。

そうすることで、事後的に『前提』が何であったかが明らかになってゆくという過程でもあった。

そんな中での今回は、現象としては

◎息圧を抜いてしまう
◎息の量を吐きすぎてしまう
◎音の芯・ツボから逸脱して鳴らしすぎる
◎マウスピースの位置がわずかに上にズレる

という、これまでもあった改善したい様相がレッスンの題材に。

結論としては、『唇の振動のさせ方』に行き着いた。
そこまで行き着いた流れが非常に面白いものだった。

まず、息圧。

『お腹に力を入れっぱなしで吹いてみる』と提案すると、即座に音が安定し丸みを帯びた。

本人談
「吹きやすい!」

しかし、なかなか継続できない様子。ついつい力を抜きたくなる。それは、昔から自分は力み過ぎだから脱力しなきゃ、という意識があったことと関係が深いようだ。

でも、音に明らかな差が。この音の差にあまり意識が行かないことを不思議に思ったので、これまでのホルンレッスン経験を尋ねた。

良い音をあまり知らない?と思ったからだが、回数は少ないけれど東フィル古野先生のレッスンを何度か受けていて、古野先生の音を覚えているとのこと。

その音や吹き方の印象を尋ねると、明確に『息圧』の要素がある。
記憶にちゃんと、良い音と息圧がセットで存在している。

そこで、息圧やお腹を意識するというのは『古野式』と名付けることにした。『古野式』で発音しよう、フレーズ中ずっと『古野式』しよう。

すると、すごく維持しやすくなって音も芯がはっきりし安定した!

しかし、息圧ができるようになると、こんどは音がデカすぎ鳴りすぎに。

鳴らしすぎのクセは、息圧の問題とは別のものであることがはっきりした。息圧問題が解決したらむしろ誇張されたからだ。

これはこの青年の元々の体格の良さや息がキャパの大きさの現るでもあるが、問題はなぜかコントロールされないこと。

その理由を探ると、ホルンを始めた高校時代に、自分に合わないマウスピースの当て方に、誤情報を背景にした論理で変えたことに起因する唇の振動しづらさ体験が根にあった。

振動しにくい唇を大量の強い息で無理やり振動させるテクニックがずっと発動していたわけだ。

そこで、『唇は勝手に振動する体験』の生成を試みた。

①思いっきりフグみたいにほっぺをふくらます
②おならのマネをする

すると、いとも簡単に唇がブッと振動する。
その後で改めてホルン吹くと・・・

さっきの『古野式』と組み合わせるとオーバーブローがピタッと止み、
芯のある、響きがまろやかで均質な音でワンフレーズ吹ききれた!

劇的変化だ。

マウスピースの位置のズレはおそらくこれで半ばひとりでに修正されるだろう。

不思議な癖には、意味ある背景があるのだ。

Basil Kritzer

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