アマチュア・トロンボーン奏者の I さんよりメールでご質問を頂きました。
【質問】
バジルさんのアレキサンダーに関するHPを見させていただき「まさしく
これだ!!」思い沢山の記事を読ませていただきました。
ほんとに感激しております。
さっそく頭とお腹に注意して楽器を吹いてみると信じられない位太く良い
音になったのでビックリしました。
また音の出だしのタイミングがジャストでない問題もありましてお腹を意識
するようになったら良い感じになってきました。
まだ連続してお腹を使いこなしているような感じではないのですがこれから
練習していきたいと思っています。
そこで少し質問なんですが今まで私はお腹を使うという概念はありませんでした。
と言うのはお腹を使うとお腹が硬くなって奏法上よくない、とよく言われていたから
です。昔のドイツの奏法だと。なので全然意識していませんでした。
ただ今回はお腹を意識したら素晴らしい音になったので意識したいと思いますが
どうしても力が入り硬くなってしまいます。また、先ほども書きましたが連続する
タンギングでもうまくいきません。
どのように意識すれば良いのでしょうか?
【回答】
〜ドイツ奏法〜
「昔のドイツの奏法」で「お腹を使うのが否定」されていたとは知りませんでした。
私の知る、古いタイプのドイツ奏法は「吸うときにお腹を下に押しつつ外に張り、吐くときはそれを保つ」というものです。
これは、完全に「誤り」とは言いきれないのですが、ドイツでもそれが教えられる現場においてほとんどの場合、混乱を生んだり生徒が腰を痛めたりすることが多い表現で、解剖学的な呼吸の仕組みから考えてもあまり役立つ教え方ではないな、というのがいまの私の理解です。
私自身は、「息を吸うときにお腹を使う」のは確かに多くの場合、邪魔で逆効果になると思います。お腹の筋肉は基本的に、「息を吐く」ことに寄与する筋肉ですから、「吸うとき」に使うと、実に吸いにくくなりますし、吐くときには働ける余力が減っています。
さて、ご質問の、「力が入る」ことそして「連続タンギングがうまくいかないこと」ですが、相互に関連している可能性もありますね。
まずはタンギングの仕組みをみていきましょう。
〜タンギングの仕組み〜
タンギングの本質は「息の出口を塞ぐ」ことにあります。
息はその吐く仕組みの性質上、吐き始めの時点では吐き始めた一瞬あとより圧力が相対的に低いです。そのため、「フワッとした」発音になります。
しかし管楽器奏者としては、もっと明確な発音が欲しいことがあるわけです。そのときにタンギングが使われます。
息を吐き始めるのですが、そのときに息が身体の外に出て行かなければ、吐き続けていれば体内にとどまっている息の圧力が上がって行きますよね?
ベロのほんの先端で、「息が身体の外に流れ出るのを塞ぐ」ことができます。口腔内の持って生まれた形状などにより異なる場合もありますが、多くのひとにとってはベロの先端をちょこっ動かす(わずかに上げる)だけで前歯の裏に届きます。
これはアパチュアのすぐ後ろ側ですから、結果的に息が外に出て行くのを塞いでいることになるわけです。でも息を吐き出し続けていれば、息は外に出て行かないのにどんどん流れてくるので、息の流れの圧力が高まっているわけです。
そこで、ベロを上げるのをやめれば(下ろすとか引くと考えるより、「上げるのをやめる」と考えた方がラクな動きになります)、息が一気に流れ出します。スポッと栓が抜けて、ドッと息が流れるので、その息により唇が振動したら、「パン」とした明確でクリアな発音になるわけです。
これがタンギングの仕組みです。
〜この仕組みに「沿って」やるようにすれば疲れにくい〜
タンギングの目的は、「発音の質の操作」です。
そしてその質の操作は、意外にも「ベロの先端のちょっとした動き」でできてしまえるわけです。
上記したことを実際に確認してみて下さい。
おそらく、少ない労力で「明確な発音」ができるのが体験できると思います。
その「新たな技術」で連続タンギングをすれば、
・そもそもの仕事が少ない
・仕事をする→やめるの交互であるので休みが挟まっている(先端を上げる→やめる)
ため、より疲労せずにラクにできることと思います。
〜仕事の分担/整理〜
タンギングが「発音の質の操作」の技術であることは上述しました。
では「発音」の構成要素をみてみると、今度は「力んでしまう」現象の軽減・解消の道筋も見えてくるかと思います。
タンギングを用いた発音は
①息を吐いている
→吐く力はお腹の力
②その息がベロの先端によってせき止められている
→ベロの力はほんのわずかで済みます。圧力はお腹の力で吐かれている息の流れによるものです。(参照:息の圧力の作り方)
③ベロの仕事を「やめる」と息が一気に外へ出る
④その息が通って行くところに、上下の唇が重ね合わされている(アンブシュアの力)ので唇が息によって振動させられる。
→重ね合わせる力(アンブシュアの仕事)の量によって音程が決まる
このようになっています。
この中で、
・ベロの力
・アンブシュアの力
はいずれもごく繊細なものです。どちらも鋭敏な感覚を持っていますので、とても意識をしやすいのですが、力の量としてはごくわずかですから、頑張らなくても大丈夫です。かといって、思い切って力を使うことを怖れる必要もありません。
しかし、管楽器演奏には間違いなく「力」は必要です。だから、ついつい「力んでしまう」のも、実は間違いではなく「惜しいところ」まで言ってはいるのです。
「力み」「過剰な緊張」として感じられるのはほとんどの場合、「力の出しどころ」がずれているときです。
管楽器演奏に必要な力のほとんど、99%は「息を吐く力」です。そしてその「息を吐く力」の適任者は「お腹」なのです。
「お腹」を積極的に使えるようになると、はじめはお腹が疲れたり筋肉痛みたいなこともあるかもしれません。しかし、腹筋はとっても強く大きい筋肉。平気です。心地よい運動の疲れの類いだと捉て下さい。
力/仕事の分担を、実際の仕組みに沿って意識していくようにしてみて下さい。
〜まとめ〜
・「力/パワー」は全部お腹に任せよう
・ベロの仕事は、ちょこっと上げてある先端を、「やめる」こと
・音を決めるのは、唇の合わさり具合(力仕事ではない)
・「力はお腹」
・「ベロの先端を「上げるのをやめる」のがタンギング」
・「音はアンブシュアの動き」
そう考えながら練習してみて下さい。おそらくそれで、解決の糸口が見つかることと思います!