下唇の割合が多く息が上に流れるアンブシュアタイプについて

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David Wilken氏のウェブサイトより、

記事「More Thoughts on Horn and the Upstream Embouchure」の翻訳を行いました。。




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下唇の割合が多く息が上に流れるアンブシュアタイプについて
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この稿は、ホルン奏者のジェームズ・ボールディン博士との、彼のウェブサイト『Horn World Blog』でのディスカッションに刺激を受けて書いているものである。

かいつまんで経緯を話すと、わたしたちは

「なぜ、ホルンの世界にはマウスピースの中で下唇の割合が上より多くなるようなマウスピースの当て方をする奏者が他の金管楽器より少ないのか」

ということについて対話していた。

この当て方をするアンブシュアでは、下唇の方が上唇より割合が優るため、マウスピースのカップ内に向かって上方向に息が吹き込まれることとなり、これを「上方流方向」のアンブシュアと呼ぶことがある。

金管楽器の演奏者・指導者ともに、こういったアンブシュアのタイプは他者の指導によって変えたり決めたりできるものではなく、個々の奏者それぞれ固有の解剖学的構造によって決まっているのだということを理解することが重要である。

(アンブシュアタイプについて詳しくは:こちら



【身体の特徴に反してはならない】

そのひとの顔の構造に合ってないアンブシュアを選択して身につけ用いようとすることで身体的な特徴に反するようなことをすると、結果としてアンブシュアに関する困難を抱えることになる。

金管楽器奏者の3つの基本アンブシュアタイプのうち、ふたつはマウスピースの中の上唇の割合が優るため息が下方向に流れる。

このふたつのタイプの方が、残るひとつより一般的だ。

その残るひとつのタイプはマウスピースの中で下唇の割合が優り、息が上方向に流れるようなアンブシュアになる解剖学的構造の持ち主は、比較的少数だ。それがどれぐらい少数であるかは明らかではないが、わたしの推測では15%ほではないかと思う。



【ホルンの場合は何がちがうのか?】

とは言いつつも、ホルン奏者たちのアンブシュアを他の金管楽器奏者と比べると、下唇優位の息が上方向に流れるタイプの奏者はさらに少数しか見受けられないであろう。

多くのホルン奏者は、ホルンという楽器自体にそうさせる要因があると憶測しているが、実際のところはどの金管楽器においても基本アンブシュアタイプのパターンにちがいは見受けられない。

とすれば、何かべつのことが起きているはずだ。

ボールディン博士の『Why More Upper Lip in the Mouthpiece』(=「なぜマウスピースの中で上唇の方が多いのか」英語)にいくつかヒントがあるかもしれない。

この記事のなかで、彼はホルン奏者やホルン指導者のための教則本をいくつか引用しており、それらは例外なくマウスピースのなかで上唇の割合が多くなるようにすることを推奨している。そのうちのいくつかはその教則本の著者がなぜそれを推奨しているかに関する推測も述べられている。

デニス・ブレイン(伝説的なソリスト)やフィル・マイヤーズ(ニューヨークフィル首席ホルン奏者)などのように明らかに下唇の割合が多い低位置タイプの存在にも関わらず、わたしはこの吹き方を認めるばかりかそれに言及しているホルン奏者による記述にはただのひとつも出会ったことがない。実際には、頑固なほどにこの吹き方を否定し避けるよう勧める記述がほとんどだ。



【金管教育全体の偏向】

こういう態度は、ホルンの教育に限られたものではない。

手元にある書籍類にざっと目を通してみても、ボールディ博士が見つけたのと同じような記述や引用が見受けられる。


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「マウスピースの内側のエッジが上唇の赤い部分に置かれるようなアンブシュアで演奏している奏者は、通常のトランペット演奏に必要な柔軟性、パワーそして耐久力を生み出すことはできない」
–Frank Gabriel Campos, Trumpet Technique, page 73

「上唇の赤い部分にマウスピースのリムが置かれるような低い位置にマウスピースを当てる当て方になっていないよう、よく注意すること。上唇2対下唇1という昔ながらの原則を守るようにしなさい」
–Scott Whitener, A Complete Guide to Brass, page 185
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わたし自身(訳注:Wilken氏のこと)のアンブシュアは、下記の写真の通りだが、上述したような専門家の定義からするとまったくもって謝ったアンブシュアである、ということになる。

Low Placement (Upstream) Embouchure
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金管楽器の演奏を指導する指導者たちが、低い位置にマウスピースを当てることを避けさせるようにするこの傾向は実はホルンだけでなく金管楽器界全体にある偏向なのだ。



【ホルン以外の金管の場合】

しかしながら、ここからがわたしがこの稿で主張する要点になるのだが、ホルンの教則本や書籍は他の金管楽器よりその傾向が遥かに強固である。

この相対的少数派ながら他のアンブシュアと同等に正しい、下唇の割合が高いアンブシュアについて、ホルン以外の金管指導者たちの方がこのアンブシュアを一定数の奏者にとって適合していると認めていることが多い。


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「大半の奏者は上唇の方が下唇より多くなるようなマウスピースの置き方をしている。だいたい上唇2対下唇1の割合だ。通常、この当て方が最善の結果につながる。
しかしながら、現実にはこの逆の割合の当て方をしている奏者の中にも素晴らしい奏者が存在する。彼らについては、この当て方を間違っているなどとするには、その演奏は素晴らしすぎる。」
– Dennis Wick, Trombone Technique, page 21

「大半のケースでは、マウスピースの中で上唇が下唇より多いのではあるが、マウスピースの当て方に関して画一性を求めるものではないことは明らかだ。」
– Edward Kleinhamer, Mastering the Trombone, page 21
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【”左利き”を認めよう】

なぜ、他の金管楽器に比べてホルン奏者たちのなかで下唇の割合が上唇より多いマウスピースの当て方をする奏者が少ないのか。

その理由を完璧に適切な比喩ではないのだが、あえて喩えるとこうなる。

美術の学生たちに対し、左手を使って描くことはOKであると教えれば、左利きの学生は自分が最もうまく使える手で描くことになる。しかし、大半の生徒は右利きだから自然と右手を使うだろう。

しかしながら、もしすべての美術の学生たちに「描くときは右手を使うのが大切で、左手を用いるような不利なことは避けるべきだ」と教えてしまえば、右手を使う描き手がさらに増え、左利きの者たちはうまくいかなくて苦労のあまり辞めてしまうか、四苦八苦しながら右手で描くが自身のポテンシャルを最大限に実現させられずじまいになってしまうだろう。

わたしがこの比喩を通して、金管のアンブシュアについての誤った一般化による混同を指摘したい。

右手を使う描き手が多いからといって、すなわち右手を用いて描くことが大切だとか正しいということは成り立たない。

それと同じように、マウスピースのなかで上唇の割合が下唇より多いアンブシュアの奏者が多いからといって、その吹き方を採用することが必要不可欠だとか大切だということにはならない。

下唇の割合が多くなる当て方を必要とするアンブシュアを積極的に否定しやめさえようとするホルン奏者・指導者の下には、「左利き=下唇の割合が多いアンブシュアの奏者」が他の金管楽器より少なくなってしまうのも当然だ。


さて、読者のあなたはどう考えるだろう?

ホルンという楽器が本当に他の金管楽器とそれほど異なる何かの要因があるのか?

それともやはり伝統的なホルン教育法のバイアスによる自己実現の結果なのだろうか?

下唇の割合が多くなり、息が上むきに流れるようなアンブシュアを認めたり、あるいは推奨するようなホルン関係の文献や情報があればぜひお知らせ頂きたい。


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