後輩の教え方

以下、2013.6.13 に追記分を赤で示しました。

先輩/後輩という関係。

わたしは、アメリカ人の両親の家庭に育った、アメリカ人です。しかし、1歳から日本の保育園、小学校、中学校、高等学校に通い、バイリンガルのくせに関西弁ネイティブの(笑)、読み書きは英語より日本語が得意な人間です。

そんなわたしは、物心ついたときから、「先輩/後輩」というものに強い違和感や恐怖を感じていました。むしろ、先輩とか後輩とかいうものの「意味」がよく分からかったわけです。

両親がそういうものに「関らなくて済んだ」ため、そういう文化を身に付けることなく、そういう文化が存在する社会に放り込まれたわけです。

先輩の言っていることがおかしいと思っても、そうだと言ってはならない。ただほんの少し年齢が上だというだけで、先輩の「命令」を聞かねばならない。それがとても辛かったですし、理不尽に感じました。

そこで、自分が「先輩」になったときには、「先輩ヅラ」することをやめ、対等に接することを心がけるようにしました。

基本的に実際に持った「先輩たち」ひとりひとりは、すごく良い人たちばかりで、部活生活においてもいろんなことを助けてくれました。ですので、先輩・後輩関係、上下関係が一般的に悪いなどと言うつもりは一切ありません。わたし自身が、上下関係のなかで育ち、良い上下関係も実際に体験しています。

しかし、わたしが「先輩/後輩」という関係、「上下関係」だ怖い体験や苦い体験や辛い体験を多くしたのも事実です。

その後、楽器やアレクサンダーテクニークの指導をするなかで、「先輩・後輩関係」や「上下関係」が、多大な苦労や辛さを与えていてそれにより苦しんでいるひとと接する事がたくさん出てきました。先輩も後輩も、両方苦しんでいるのです。

なので、今回の記事はまさに、そういう苦しみの真っただ中いるひとに向けて書いています。

先輩・後輩関係や上下関係が多くの問題を孕みやすいというのがわたしの意見なのは確かなのですが、この記事は先輩・後輩関係の是非を論じるものではなく、その関係の中で苦しんでいる先輩、後輩たちにとって少しでも助けになることを願って書きました。「先輩・後輩」の関係、上下関係にちょっとした工夫で変化をもたらすことで、先輩も後輩もどちらも益することが多いと思うのです。

それを念頭に読んで頂ければ幸いです。

吹奏楽部で活動している中高生のみなさまや、大学またはアマチュア団体で演奏をしているみなさまにとって、後輩や新メンバーの指導の仕方が分からず悩んでいる方もおられるかと思います。

この記事では「後輩に教える」というテーマを掘り下げていきたいと思います。

【上下関係を「やめ」にしてみるゲーム】

上下関係には、歴史がありますし、日本社会をスムーズに動かしていく大事な役割があります。尊敬をベースにした、優れた良い上下関係もたくさんありますから、もちろんそれは問題ありません。

問題なのは、後輩を教える上で、一番障害になるのが上下関係は、上が下を押さえつけ、コントロールし、言う事を聞かせるような「上下関係」です。

「教える/教わる」という関係は、共に学ぶ関係です。

しかし、「先輩・後輩」という本当はただ年齢が異なるというだけの間柄に、「人としての上下」の関係が乗っかってしまうと、もはや「共に学ぶ」ことが難しくなってしまいます。

これって、ひとが自分のやりたいことをできるようにするために技術を身につけ経験を重ねていくことに、全くつながらないですよね。

「後輩を教える」ことの難しさは、「先輩・後輩=(悪い意味での)上下関係」が入り込んでくるところにあります。

後輩が、「先輩が上で自分が下」と思ってしまうと、後輩は学び成長するうえで不可欠な「望み」や「自主性」を自分で抑え込んでしまいます。

先輩が、「後輩が下で自分が上」と思ってしまうと、後輩が自ら伸びていく力を上から潰してしまいます。

先輩・後輩という関係は本来、

①先輩から見た場合
=後輩をリードし、後輩の成長を後押しできる力と経験を持っている、

②後輩から見た場合
=先輩は、自分が迷ったり分からないことがあったときに、リクエストすれば助けになるヒントをくれるかもしれない。

というものです。

「教える・教わる」関係にうってつけです。

それを「(悪い意味での)上下関係」はぶちこわしてしまいます。

そこで私の提案は、「上下関係をやめてみる」ゲームです。その方法としては

◎敬語禁止
後輩に何かを教えるとき、教わる側の後輩が「敬語」を使う事を禁止にしてみる。わたしたちは「敬語」を通じて上下関係に慣れてしまうことが多いですから、あえて、「教える・教わる」のときだけは、普通は敬語を話すべきとされる「教わる側」を逆に「敬語禁止」にしてみるのです。最初はすっごく変な感じがするでしょう。先輩は、なんだかムカつくかもしれません。後輩は、どうしても申し訳なく感じるかもしれません。しかし、それは上下関係にいつの間にか慣れてしまっているからです。一週間「後輩は敬語禁止」やってみたら、きっと先輩と後輩はもっと助け合えるようになることでしょう。

◎質問・感想・苦情・文句
先輩は、後輩に何かを教えているとき、こまめに「質問・感想・苦情・文句はありますか?」と後輩に尋ねてみましょう。もちろん後輩は遠慮して苦情や文句は言わないでしょう(笑)しかし、先輩が繰り返し「質問・感想・苦情・文句はありますか?」と投げかけてがえるだけで、後輩としては気がラクになりますし、実際に気になっていることや分からない事を質問しやすくなります。自発的に出てきた質問は、質問をした本人の成長を大きく助けます。

◎弱みや苦手を見せてしまう
先輩にももちろん、まだまだ出来ない事や苦手なことがありますね。「教える・教わる」関係では、教える側が自分の弱みや欠点を素直に認めて、普段からそれにどう悩んでいるか、どう取り組んでいるかを少し言うだけで、教わるが側としては緊張が解けます。そして、お互い悩みを持っている人間同士として同じ目線の高さから一緒に学びやすくなります。

【教えることで、自分がうまくなる】

後輩を教えることを、先輩が負担に感じていたり、自分の時間を削っているように感じていると、どうしても後輩はそれを感じますし、先輩も指導にとげとげしさが出てきてしまいます。

しかし、実は「教える」ことは、自分自身が学びウマくなる一番手っ取り早い方法なのです。英語には、「何かを新たに学びたければ、教えてしまえばよい」という格言もあるくらいです。

後輩を教えながら自分がウマくなるコツは、

「後輩に何を言うべきか・後輩のできていないところは何か」を考えるのではなく、

「後輩は何を知ったらもっと伸びそうか・後輩のどの長所を伸ばすとよさそうか」を考えることです。

悪いところやできていないところをただ指摘して、「ダメです」「直しましょう」と言うのは、これは誰でもできるし、誰の役にも立ちません。

しかし、「この人の長所はどこだろう?」「その長所を伸ばす秘訣は何だろう?」「この人がもっと伸びるためには何が助けになるだろう?」と自分自身に問いかけることは、先輩であるあなたの脳をフル回転させます。

「どうやったら伸びるか」に頭がフル回転をしていれば、それは先輩であるあなた自身が「うまくなる脳」を鍛えていることになるのです。

【ジェラシーを感じたら】

ときによっては、物凄く上手な後輩が入部してくることもあるでしょう。

そんなとき、うらやましくなってジェラシー(嫉妬)を感じることもあるかもしれません。

ジェラシーは、なかなか強烈な感情です。放置していると、後輩のことをイジめたくなってきてしまいます。あるいは、自分のことがすごく惨めに感じてくるかもしれません。

でもジェラシーって、

「本当は自分にもできる/手に入る物事が、『あの人(人たち)』しか手に入れられないものなどと誤解する」

ことから涌き上る感情です。

つまり、本当は、「自分にもできる」のに、「できない」と決めつけてしまっている感じているのですね。誤解と決めつけの「警告音」がジェラシーなのです。

本当は、できるしやりたいことなのに

・自分の夢は叶わないはずだと思い込んでしまっているので、行動しないでいる
・いま叶わない/手に入らないということが、一生無理だと飛躍して思い込んでしまっているので、行動しないでいる

が故に感じるのがジェラシーです。「行動しなさい」ということを教えてくれる感情なのです。

そこで提案。

他人にジェラシーを感じたら次のような表を用意して下さい。

この表は、『ずっとやりたかったことを、やりなさい』(サンマーク出版)で日本でも有名になった、アメリカ人作家・詩人・劇作家のジュリア・キャメロンが紹介した「ジェラシーとの向き合い方」を教えてくれる手法です。

わたしの場合、つい昨日、ベルリン・フィル・ホルンオクテットのCDを聴いていて、

「なんでこんなに素敵に自由に演奏できるんだろう… 自分は全然できない… いいなあ…うらやましいなあ….」

というジェラシーが湧いてきて、すっかり気持ちが落ち込んでしまいました。

そのときにこの表を使いました。誰に、なぜジェラシーを感じているかを書き出し、そして自分も欲しているものを得るためにできる小さな第一歩を記すのです。

こうやって表に記入した途端、とても気分が良くなりました。

なぜなら、「自由に素敵に演奏する」というものを自分は欲していて、そしてそれを実現することができて、そのために「いま」できる小さな第一歩を明確にできたからです。

とてもハッピーな気分になり、練習もハッピーで前向きな気分で始めることができて、とても手応えのある練習ができました。

もし後輩にジェラシーを感じたら、この表を書いて、いっぱいコピーしておいて、いつでも書き込んで、自分にもできる夢の実現へ一つ歩みを進めましょう。

そうするといつの間にかジェラシーは消え、ハッピーになります。

【自分が一番大切】

ひとを教えるときの隠れた最大重要ポイントは、「自分を最優先」することです。

後輩を教えるとき、自分の練習時間を犠牲にしてでもちゃんと面倒をみなきゃいけない、という気持ちになるかもしれません。

体調が悪くても、後輩のことを考えて、部活や練習を休まずに出席しようとするかもしれません。

本当はもう疲れていても、後輩がもっと教えて欲しそうだから、休憩せずに教え続けることがあるかもしれません。

しかし、「教える」ことがうまくいく秘訣は、教えている間に自分の体調や体力のことを最優先に配慮することです。

また、自分の練習がしたくなったら、後輩には課題や休憩を与えて、自分の練習をしましょう。その姿もまた、後輩に対してすばらしい模範になります。

「自分をいちばん大切にする」ということを、模範として示せば、みんながどんどん同じことができるようになってきます。

そうなってこそ、ストレスを溜め込む事無く、ハッピーに前向きに楽しむことができます。それこそが、上達とチームワークの秘訣です。

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