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ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。
今回は、このポッドキャストの主、ヒッツ氏そのひとへのインタビューを全文日本語で書き起こしました。インタビュアーは、ボストンブラスで同僚だったユーフォニアム奏者のランス・ラデューク氏です。このインタビューの前編はこちら
~第四回【自分が持っている不公平なほどの優位性を探す】〜
Lance
『もうひとつ君がもっていたアドバンテージは、ボストンブラスを脱退するころには、誇張でなく合計数万人の音楽指導者の前で演奏をしてきていたということだ。だからその市場を表から裏まで知り抜いていた。
そこで、その層を対象にした本のシリーズを作ることにした。そこに良い機会があると見定めたわけだね。その本のことについて、話してくれるかい?』
Andrew
『「バンドディレクターのためのガイド」だね。いまはチューバ編とトロンボーン編まで出版した。次はトランペット編で、いずれバンドの楽器全部カバーするつもりだよ。
この本をやるときも、ビジネスモデルキャンバスをやってみて、誰のためにやるのか?自分のビジネスの命題はなんだろう?ということを考えたうえで取り組んだ。
それで見出した形が、チューバのエキスパートたちへのインタビュー集というものだった。
たとえば、パット・シェリダンへのインタビュー。彼が生み出した「ザ・ブリージング・ジム」は有名だけれども、その生みの親の本人に1時間インタビューをする価値は高いと思ったんだ。呼吸や解剖学についてインタビューし、それを書き起こした。バンドディレクターたちが指導をするときに、パットの話を聞く(読む)ことができるのはとても助かるのではないかと思った。
あるいは、サム・ピラフィアン。彼には即興演奏についてインタビューした。素晴らしいインタビューになったよ。彼は、数年に一回しか出会うことがないような天才的なチューバの学生の教え方ではなく、ごく平均的な、学校バンドで日常的に関わるようなチューバ吹きをどう教えるかということについてしっかり話してくれたんだ。小学4年生から個人レッスンを受け、毎日15分ちゃんと練習するような子供の教え方なんてあまり使う場面はないだろう(笑)。だから、サムはちゃんと普通の子供向けにどう即興演奏を教えるかということを語ってくれて、即興を教えるとチューバ吹きは自分をベース奏者として考えることができるようになり始めるということを説明してくれた。そうなってきた生徒をマーチングバンドやマーチの曲に入れると、ちゃんとベース奏者のようにマーチの低音声部を演奏するようになるんだと。一々指示しなくても、ちゃんと8小節や16小節の単位でフレージングするようになるんだ。
ティム・ラウツェンハイザー博士には、バンドのチューバ吹きたちをいかにわくわくさせ続け、活動的にさせるかということについて話を聞いた。バンドだとついついフルートやトランペットへの指導ばかりに時間が割かれがちで、加えてチューバの譜面は一見単純だからチューバ吹きたちは退屈して興味を失ってしまいがちなんだ。だから、いかにチューバ吹きたちにリーダーシップを与え、「やること」を持たせてあげられるかという話を聞くことができた。
幸運にもぼくのこれまでの生い立ちと状況から、こういう人たちとのつながりを得ることができたんだ。
こうして実在の特定の人物たちとそれぞれ特定のテーマを掘り下げることができたおかげで、「バンドディレクターのためのガイド」は商品価値の高いものになった。
1冊目のチューバ編は最初、KindleやiBookで売っていたんだけれど、そういう販売サイトへの出品はいまでは全部やめて、すべて「Hitz’ Publication」といって自分のサイトで自分の出版メディアとして取り扱っているよ。値付け、販売、セール、全部自分でできるんだ。
2016年の秋には、「バンドディレクターのためのPodcast」も始めるよ。本の中身に関わることや、本に登場する人物との対談などを放送するんだ。
この一連のプロセスはとても面白いし、ただただ本番の会場に行って、演奏して、家へ帰るという演奏家の生活とはすごく異質なものだ。』
Lance
『あとふたつ質問がある。
ひとつめは、きみの関わる「Hitz’ Publications」や「Pedal Note Media」というプロジェクトやブランどの短期〜中期的な目標は何か?ということ。』
Andrew
『Pedal Note Mediaの短期的な見通しとしては、これからサイトを完全に作り直すことになっている。それと、ランスの”Music Practice Coach”という本に基づいた最初のe-コース(訳注:オンライン学習プログラム)をやるんだ。そういうわけで、オンライン学習という分野の展開に初めて踏み出そうとしている。これ以外にもいろいろ、たくさんe-コースをやる計画があるよ。
Pedal Note MediaもThe Entrepreneurial Musician (訳注:「起業家的音楽家」という、ヒッツ氏の別のプロジェクトおよびPodcast)も、引き続きリスナーの拡大に取り組む予定だ。
Hitz’ Publications に関しては、「バンドディレクターのためのガイド」のチューバ編の中のパット・シェリダンの章から、呼吸と解剖学に関する部分をトロンボーン編にも入れるし、それ単体でも発売するんだ。それぐらいすごく内容の良いものだから。他の本の執筆計画もある。でもいまは何よりもまず、さっきも触れたバンドディレクターのためのPodcastかな。
それと、コンサルティング。いろんな個人や小規模なアンサンブルのコンサルティングはやっていてすごく楽しいし充実感がある。それも引き続き進めていく予定だよ。』
Lance
『もうひとつの質問。
ぼくらはどちらもボストンブラス時代、金管5重奏の一員として年間100回、人前に立っていたよね。
それがいまではきみは人前に出て演奏する回数は大きく変わったわけだけれども、そういう演奏が主な生活というのを恋しく思ったりするかい?
クリエイティブな仕事を続けているという点では以前と変わらないけれど、クリエイトの仕方が変わったわけだよね。
そのあたりについて、どう感じたり考えたりしているんだい?』
Andrew
『まず、演奏の機会を恋しく思うことはないね。
それはたぶん、いまでも演奏の機会はあって、それぞれの機会がとてもクリエイティブなものだからかな。一回一回の演奏の機会での演奏時間は量的には少ないんだけれども、以前はなかったような特殊で面白い演奏会や催しで演奏できている。ボルティモア交響楽団やナショナルシンフォニーに代奏で行くことも時々ある。
金管アンサンブル、ポップスオーケストラ、管弦楽団/交響楽団、20世紀現代作品アンサンブル、リサイタル….やっていることはかなり多様なんだ。だからその多様性の増加が、演奏の量の減少を補っているのかもしれない。』
Lance
『そうやって多様なスタイル・ジャンルの演奏をすることの取り組みは、また異なる楽しさと課題があるよね。1つのグループで1000回演奏したひとと、1000のグループで1回づつ演奏してきたひととでは、視野が異なるんだ。
ところで何か、リスナーにおすすめの本はあるかい?』
Andrew
『いくつもあるね。
まずは、ジム・コリンズの「The Good to Great」。このPodcastでもなんども言及してきた。すごく強力なビジネス書だよ。
もうひとつは、ゲイリー・ウェイナーチャックの最新書「Ask Gary Vee」(訳注:2016年当時)。素晴らしいよ。マーケティングのこと、ソーシャルメディアのこと、ビジネスパーソンとしての自分への気づき、多岐に亘る。厳しい愛に満ち溢れた本だよ。』
Lance
『ありがとう、最後にお気に入りのコーヒーの飲み方について聞いておこう…いや、やめとこう!笑』
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了
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