【ゴマスリ、ご機嫌取りとは別次元の人脈作り】起業家的音楽家Vol.1〜ラナーン・マイヤー第一回〜

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『一生懸命努力して、精一杯頭を使って、そして目一杯夢を見るのが大事だと思うんだ。夢が、現実のものにできると本当にありありとイメージできるなら、あとはもうその機会がいつ巡ってくるかだけだと思うんだ』byラナーン・マイヤー

ボストンブラスなどで活躍したチューバ奏者、アンドリュー・ヒッツ氏が主催するプロジェクトが『The Entrepreneural Musician』。日本語にすると、『起業家的音楽家』です。

オーケストラの団員になる、ソリストになる、学校の先生になる….音楽家として食っていく・生きていくうえで、標準的な音楽教育の場で前提になる将来イメージはごく限られています。

しかし、現実にはそのいずれにも分類されない音楽家や、いろいろな仕事を組み合わせて真の自己実現をしている音楽家でちゃんと食べていけている音楽家、さらには経済的にかなり成功している音楽家がたくさんいるのです。

こうして、音楽を中心にして起業をし、あるいは起業家的精神でキャリアを形成している人物たちにインタビューで迫るのが、アンドリュー・ヒッツ氏の同名のポッドキャスト『The Entrepreneural Musician』なのです。

今回は、このポッドキャストの記念すべき第一回放送であった、クラシックからポップス、即興など多様な分野の音楽を演奏し世界的人気を博する弦楽器トリオ“TIME FOR THREE” のコントラバス奏者、ラナーン・マイヤー氏へのインタビューを全文日本語で書き起こしました。

【ゴマスリ、ご機嫌取りとは別次元の人脈作り】
〜TIME FOR THREE コントラバス奏者/ラナーン・マイヤーの起業家的音楽家人生〜

Andrew
『ラナーン・マイヤーわたしの親友で、前向きなオーラに満ち溢れた素晴らしいヤツです。今回は忙しい身にもかかわらずこうして時間を割いて話をしてくれて光栄な限りです。調子はどうだい、ラナーン?』

Ranaan
『ありがとうアンドリュー、君とこうして話ができて嬉しいよ。とても大事なテーマだからね』

Andrew
『親友と話をするのに、こうしたプロジェクトにかこつけてしっかりスケジュールをおさえてやっと電話で話ができるなんて、ちょっと皮肉に感じるよ(笑)お互いちょっと忙しすぎるってことだね。ラナーン、君も子供が生まれたところだね。3ヶ月だっけ?』

Ranaan
『そうなんだよ。本当に家族みんな、喜びに包まれているよ。どれだけいろんなことが生きている間にはあって、責任があったとしても、もっと大事なことが人生にはあるんだということを思い知らされてるね』

Andrew
『本当にその通りだね。ぼくの息子もぐっすり眠ってくれる夜もあれば、そうもいかない夜もある。いつでも不眠で疲れ果てて起きる朝もあり得るってことさ。ぼくとラナーンの間柄は、1999年の夏に全米オーケストラ・インストゥティチュートに一緒に参加したことに遡るね。

いまヒューストン交響楽団のコントラバス奏者なっている親友のエリック・ラーセンがぼくに「おい、ラナーンってやるがいるんだ。君たち絶対親友になれるから知り合うといいよ」と言って、ラナーンには「おい、アンドリューってやるがいるんだ。君たち絶対親友になれるから知り合うといいよ」て言ってたのがきっかけで知り合ったんだよね。

貧乏な学生同士だった頃から君のキャリアをずっと見ているとほんとすごいなと思うし、外から見ていたら最近爆発的に人気が出ているように見えるけど、ぼくは実際はそうでないのは知っている。たくさんの努力と、ここに至るまでのたくさんのステップがあったよね。

まずは君のグループ TIME FOR THREE についてちょっと話をしてくれるかい?』

Ranaan
『もちろんさ。TIME FOR THREEは15年前(✳︎インタビュー当時)からやっていて、カーティス音楽院で始まったんだ。勉強はクラシック音楽だったんだけれども、それ以外の音楽もいろいろやりたくて仲間とジャムセッションしていたんだ。それを学校の事務局の人が見ていて、演奏のバイトをくれたんだ。

2001年のことで、その演奏のバイトが最初で最後の仕事になると思っていて、30分ぐらいのプログラムを組んで行った。そしたらそのバイトの待遇がずいぶん良くて、リムジンに乗せてくれたり、その企業のクレジットカードでなんでも払ってくれたり、50ドルお小遣いをくれたり。貧乏大学生が夢に見るようなものだったね(笑)。だから学期末だったしぼくたちはそのお金はパーティーをしてパッと使ってしまう気でいたよ(笑)

そんなこんなんで、実際に演奏をしに行ったら、聴衆がずいぶん熱狂してくれちゃって。ぼくたちは頭を掻いて、まあもう一回くらいこのバイトはやってみるかと。

二回目の演奏は別の聴衆たちだったんだけれど、やっぱりまた熱狂的に喜んでもらえた。

それでこのグループが生まれたんだ。ただただ楽しみのために、パーティーのような雰囲気でやっていたらすごく良い反応が得られた、というところから。』

Andrew
『これでプロ活動をやっていこう、と思うようになったのはいつから?』

Ranaan
『それは徐々に、いろんな過程を経てそうなっていったね。メンバーのニック・ケンダル(Nicolas Kendall)のおかげが大きいと思う。

もうひとりのメンバーのザック(Zachary DePue)とぼくはオーケストラのオーディションで勝つことに目標を定めて頑張っていたから。ザックは実際にオーケストラのポジションを勝ち取ったし、ぼくもいろんなオーケストラのエキストラ奏者の常連になっていって大きなオーディションでいい線までいくようになっていた。

一方ニックはまだ学生で、ソリストや室内楽をやっていたんだ。駆け出しのソリストやアンサンブルはそんなにお金はもらえない。ニックは食うにも困っていたから仕事をする必要がぼくとザック以上にあった。そんなニックが、なんとこの活動にお金を投資する決断をしたんだ。ビデオを撮ってエージェントに送ったりしてね。彼はぼくたち三人のグループに将来があり、未来に大きなお金を生み出す可能性があると確信していたんだ。

そうやってニックはプロモーショ用のパッケージを作り、あちこちに送って、そうするうちに僕らのことを気に入ってくれるひとが増えていったんだ。もちろんCDも録音した。9曲のデモCDを作ってね。9曲というのはデモ用には実は長いすぎるんだけれど、自分たちの感覚にしっくりくる作りを優先したんだ(笑)でも、このCDのサウンドはなんだか特別でね、いまでも時々聴いたりする。いまの基準で見ると、良い出来ではないけれど、スペシャルな
何かがあるんだよね。

ニックが作ってくれたプロモーション用の音源とか写真とかを見ているとザックもぼくも「これはなかなかいいんじゃないか」と思うようになってね。やってみようという気になった。ぼく自身、グループのマネージャーをしばらく務めたよ。ブッキングエージェントやマネージャーを雇うお金もなかったからね。

自分たちの演奏を聴いていて、これはやれると。それで当時は「BGMの仕事は引き受けない。そしてどんな仕事も1500ドルで引き受けるんだ」と決断する無謀さを幸いにも持てた。15年前の新卒駆け出しの時にね。グループの始まりは、ほんの数万円をもらっただけで天にも昇るような貧乏学生のトリオだったにも関わらずね。だから、1500ドルでやっていくぞというのは、決してしっくりくる感覚ではなかったんだけれども、それぐらい払ってもらえる気がするなら、ちゃんとそれぐらいもらう前提でチャレンジしてみろと言われて、その気になった。

月に2回、月に3回と徐々に演奏の仕事が増えていった頃トリオの1年目か2年目の10月のこと。その月は1ヶ月で4万ドル分の仕事があって、そのときの初めてブッキングエージェントのところに行って、手伝ってくれと言えたんだ。』

Andrew
『1500ドルのギャラを設定する無謀さは、業界にとっても良いことだね。実際、いろんな調査で、たとえばスーパーに5.99ドルのトマトソースが20種類とか並んでいるなかでひとつ7.99ドルのものがあると、消費者の興味はそれに行くんだということが大企業がたくさんのお金をかけた調査で分かっているんだよね。きっと何か良いトマトソースにちがいない、と消費者は思うんだよね。価格設定というのはなかなか難しいテーマ。

ここで質問なんだけれど、自分も駆け出しのアンサンブルグループのメンバーだとしたらこの話を聞いていて尋ねたいのは、デモ音源を誰宛に送るのか、そして誰宛に送るかをどうやって考えたのか?だね』

Ranaan
『ぼくたちの場合は、カーティス音楽院で学んだことがとても大きかった。カーティス音楽院は在学中は全額奨学金で学べる、とてもサポート精神の厚いファミリーのようなひとたちによって運営されている学校なんだ。学校の関係者がお互いに、お互いのことに興味を持ち合うような。学校に寄付してくれるひとたち、音楽家、教員、事務局みんなそう。そのおかげで、周りからいろんなことを引き出し、助けを得ることができるコミュニティーになっている。

学生たちは学校への寄付者たちのパーティーで演奏する機会をもらうことができた。寄付者がそれぞれにプライベートでパーティーを催すときに演奏させてもらえて、ちょっとバイトができるというね。

カーティス音楽院には、「ティータイム」という制度があるんだ。カーティス音楽院の初期から始まった制度で、昔は若い天才たちが音楽院にはたくさんいて、一日中練習ばっかりで社交性がなかったんだ。一般との関わり方を分かっていない子たちが多かったんだね。それで社交の体験を積ませるための制度として始まったんだ。

現在ではいろんなことがもちろん変化していて、きっとカーティス音楽院の学生も当然、社会性を身につけているだろうけれどね。

ぼくにとっては、タダでご飯が食べさせてもらえるのが凄くエキサイティングだったな(笑)

でも実際、寄付者たちと知り合えて、お話ができる機会をぼくはすごく楽しめたね。そういう会が、「ぼくたちのCDだよ、こういうことをやっているんだよ」と音源を配ったり自己紹介する機会になった。

そういう動きがどれぐらい仕事に結びついたかという意味で成約率はわからないけれど、それでも10%かそれ以上はあったんじゃないかな。ティータイムに来るのがそもそも、学校のパトロンたちだったからね。

それに、自分のパーティーに TIME FOR THREE を呼んでくれるそのひとたちが、芸術文化財団やNPO法人の役員をやっているわけで、そういう組織のなかで「うちのパーティーで演奏してくれたすごくいいグループがあってね、こんど企画をするときに演者でぜひ呼ぶといいよ」というふうに推薦をしてくれるわけなんだ。

カーティス音楽院以外の学校に行っているひとが当然多いんだけれど、こういうような機会は学校のなかにも外にもある。仕事を釣り上げる機会があるようなコミュニティーを自分の環境として探していくこと。自分に合った仕事の機会がちゃんとあるような、正しい「池」を見定める必要があるけれどね。

2015年(インタビュー当時)のいまはいろんなことが変わっていて、Youtubeの力がすごく大きい。自分のやろうとしていることを象徴するような良いコンテンツをYoutubeで公開することは、いまやほとんどどんな職業でも行われているよね。みんな、興味を持ったらすぐにYoutubeに行って、あなたのことを知ろうとする。だからYoutubeは決定的に大事だね。

ぼく自身、Youtubeに載せるビデオは、それがTIME FOR THREE の動画でも自分のやっている教育ビデオでも、観て伝わる価値を絶え間なく上げることを意識しているよ』

Andrew
『いまの話を聞いていて、駆け出しの音楽家だったら気づかない行動の選択肢がひとつあったね。それはコンサートの企画開催の実行者ばかりにアプローチするのではなく、音楽に関係した地元の慈善団体や家の近くにあるホールの役員にアプローチする、ということ。そういうひとたちに演奏を提供していけば、大々的なコンサートを支援するお金を持っていて針を動かすのがそのひとたちなんだから、多方面から日々売り込みを受けているようなコンサート企画開催の実行者のポジションに受けているひとは外から知らないひとからの売り込みより、役員からの推薦の方が耳に届きやすいよね。』

Ranaan
『そういうことって、ぼくたちのグループのキャリアではいつも起きているんだ。

先日、コンサートの企画をするひとのまえで演奏をした後、「今回推薦してくださったのは〜さんですよね?」とそのひとに言ったら、「え?誰それ?」と言われたんだ。でもね、実際そうだったのは事実として確実に知っているんだ。

実は、その最初の推薦があってから、実際の演奏の日の間に、「TIME FOR THREE を今回呼べたのはオレの紹介だ」って主張するひとがいっぱいいて、誰が最初の推薦者かコンサート企画者は分からなくなっていたんだ(笑)

ぼくたちにとってはとても喜ばしいことだね。すごく買ってもらえているわけだから。

でもこの話のポイントは、「誰しも、あなたのことを主体的に信頼して推薦したい」ということ。そうなると、成功に結びつくんだ。他者があなたを信頼して、自分のイチオシとして入れ込んでくれるようになれば、自分で自分を売り込まなくてよくなってくる。

Andrew
『そう、君のグループの良さを君が話すより、ぼくが話した方が他人は興味を持つし信じてくれるようになるよね。音楽家も、自分を売り込むことには慣れなきゃいけないし、正しいやり方でやる必要があるけれども、誰か他人が推薦してくれる方が意味は重い。

もうひとつ言っておくと、自分を売り込むにしても他人が推薦してくれるようになるにしても、当然それは中身が良くなきゃいけない。きみたちも、パフォーマンスが素晴らしかったから、みんな入れ込んでくれるわけだよね。

マーケティングに長けても、提供する中身がダメだったら成功は続かない。』

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第二回『危機、逆境の中にあるマーケティングチャンス』
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