2008年から、ホルンのレッスンをするようになって、そして2012年からはBodyChanceメソッドの教師としての活動を始めて、数多くの金管楽器プレイヤーとレッスンをする機会を得てきました。
その中でも大変不思議なのが、40歳前後に謎の不調に襲われる金管楽器プレイヤーがプロアマ、上手下手、性別関係なく意外なほど多くいるという事実です。
何人かそういう方にお会いし、解決を見いだすべくレッスンで共同作業をしているうちに、次のような共通項が見えてきました。
【共通の症状】
- 30代後半から40前半にかけて、突如思い通りに演奏できなくなる。
- アンブシュアが震える。
- 空気が唇の間から抜けてしまい、雑音がする。
- 発音の前に、数秒迷いやタメができてしまう。
- 中音域が最も不安定になってしまう。
- 肩や首にとても力が入り、首凝りや肩凝りになっている。
- 楽器や音楽への情熱はあるので、内心とても辛い。
- 身体は基本的に健康。
一体何がきっかけや原因となっているのかはまだ私もはっきりとは分かりません。そもそもなぜ、「40歳前後」という共通項があるのかがとても不思議です。
しかし、共通の有効な対策と取り組みもまた、見えてきました。
【有効な対策】
①思いきって強めにプレスしよう!
この人たちに共通しているのは、「プレスをなるべくしないようにしている」ということです。しかし、起きている現実を見ると、あまりにプレスが少なすぎてマウスピースと唇の接着が弱くなりすぎてしまい、息を吐くとマウスピースが離れてしまい、息漏れにつながっています。
それをカバーすべくアンブシュアがどんどんマウスピースを捕まえて支えようとしてしまっています。接着が少なくて不安定なのと、それを安定させるようとすつ労力が過剰なのもあって、アンブシュアが震えてきてしまっています。
そこでレッスンの中では、腕と手を使ってしっかりマウスピースを唇に付ける、アンブシュアの方にマウスピース+楽器を持って行き、グッとプレスするようにしてもらっています。
すると、ほぼ例外無く、音が安定します。そして、半分以上の方はアンブシュアの震えも顕著に減少します。(ただし、震えていても音はちゃんと安定し吹ける、というところも見逃さないようにしましょう)。
アンブシュアは、マウスピースの温度・形・材質など接触しないと分からない情報を使って最適な形成をしてくれます。マウスピースとアンブシュアの十分な接触、ひいては思いきったプレスは絶対必要です。アンブシュアは単独としては決して成り立たないのです。アンブシュアはマウスピース+楽器と一体となって形成され、運動し、機能します。
②音のことを考える
もうひとつ共通しているのは、謎の不調や震えがショッキングなあまり、身体や症状にばかり意識が行き、音が外れたり失敗することばかりがイメージされてしまっているのが、更なる状態の悪化と恐怖の倍増を招いています。
この不調を乗り越え、新たな自分になって新たに成長していくためには、「音のことを具体的にイメージし、ただ吹く」という地道な作業が欠かせません。
レッスンの中で気付いたのは、いつどのように発音するかという、タイミングも含めて具体的に音と音楽をイメージしていたとき、かなりの確率で震えが一瞬消えている、ということです。
逆に、震えが突如大きくなったときに、「何を考えていましたか?」と尋ねると「唇のフォーム」もしくは「息の吸い方」に意識が行っていましたと答えることがほとんどだったのです。
この方たちにとってアンブシュアやベロや呼吸を「直接コントロール」しようとすることは、ほとんどの場合が自分にとってマイナスな緊張につながってるのです。
身体への指令は、音と音楽のイメージそのものなのです。実際のところ、アンブシュアや姿勢を正しく作ろうとしても、硬くなるばかりです。
・音をイメージする。
・マウスピースと口の接触を、能動的かつ積極的に作りつづける。
・唇やベロには、「マウスピース方向へ動いてね」と声かけをしておく。
・吹く。
これだけでよいですし、これが最も効率的で正確な身体へのメッセージとなります。
③アレクサンダー・テクニーク
そして最後に非常に役立っているのがやはり、アレクサンダー・テクニークです。アレクサンダー・テクニークとは、「頭の動きが身体の動きをほぼすべて決めている」という身体の仕組み・原理に着目したものです。
頭を固定すると、身体が全部硬くなります。
逆に、頭を固定するのやめると、身体が全部解放されていきます。
それを利用して、
・この音を鳴らすために
↓
・頭が動いて身体全体がついていって
↓
・マウスピース+楽器とアンブシュアの接触を思い切り良く作り続けながら
↓
・唇やベロにはマウスピース方向へ動いてもらって
↓
・吹く(息を吐く)
と考えながら練習と演奏に取り組むのです。
頭を動けるようにしてあげて身体全体が動けるようにしてあげるその実体験をし、そのやり方を理解していくのが、BodyChanceでのレッスンなのです。
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私もアンブシャの震えにもう10年近く悩み続けています。年齢では50歳くらいからです。
マウスピースに強く押し付けたり、息を強く吹き込んだりと色々試していますが。
数年前、東京のアレクサンダーテクニーク教室で11回個人指導を受けましたが直らなかったのですが、書いていらっしゃる方法を一度試してみます。
田邊さま コメントありがとうございます。またぜひ、進捗を教えてください♪
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運動会、頑張りましたさま
コメントありがとうございました。
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初めまして
実は同じ症状を20代で経験し挫折した経験があります
チューバ吹きなのですがとにかく下あご、唇を支える両脇の筋肉が普段はふるえないのに、マウスピースを当ててヴァジングしたとたんに震えだし、演奏不可能な状態まで行きました。
この書き込みにもう少し早く出会っていたら、何とかなったかもしれません
高橋さま
もしかしたらディストニアだったのかもしれませんね‥。
そういった症状で、数年楽器をお休みしたあと再開したら、すっかり治まっていてむしろ調子がよくなったという話しも何度か聞いたことがあります。
このブログが役立つことがあれば、と願っています。
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こんにちは。48歳チューバ吹きです。
自分の周囲でも40代前後から振るえが始まる人が非常に多いです。
約半数の人が唇や頬の振るえ、又はそれに類する不調に見舞われ、その半数ぐらいが演奏を断念する感じです。
自身も5年ほど前から少し振るえが始まりました。
はっきりした音を出そうとすると顕著になります。口のセットと関係が有るような感じです。
また高音や早いタンギング中も起こりやすいです。
イメージで音を狙いすぎてもダメなようです。
無意識やリラックス状態ではあまり起こりません。
決め所の部分や響かせたいという意識も悪影響が出る感じです。
アップに長めのロングトーンを取り入れたところ若干軽減されました。
が、根本解決には至っていません。
本当に悩ましいです。
月城さん
昨年秋、顎をちょっと痛めたことで、わたしもいままでにないような震えを経験しました。
中年奏者たちに見受けられるものと似ている感じもします。
怪我の治癒とその後の上達により震えはどんどん減りましたが、
いまでも寝不足が顕著なときや気圧の変動が大きい日などには少し震えが出ます。
どうも自分の場合は、ストレスや精神的緊張を含めて、自律神経の乱れと関係しているように思います。
中年プレイヤーも、自律神経の乱れ(更年期障害も含む)が関係している場合はありそうです。
と同時に、あるいは複合的に、それまで表出していなかった奏法的・技術的問題(主にアンブシュア動作にまつわるもの)
が表面化してきているように見えるケースもあります。
ディストニアなど病理学的に症状としてはっきり診断され得るケースもありますが、
多くはそうもいかないのが厄介ですね。
Basil
お久しぶりです!
以前からホルンのレッスンでお世話になってます。奥井です。
このブログのテーマと関係ないかもしれませんが、、
ここ最近窮屈な音が鳴ってて少し調子悪いです。
理由はどうも3週間前に上唇のマウスピースの当たる部分(真ん中)に大きなニキビを作ってしまい、それでそのニキビがあった部分を避けるような感覚で吹いていて音が上手くならない印象です。
で、今日吹いてみたらプレスが以前のように出来ていない!って思って、吹いていると少しましになりました。
こういうときも、音のイメージをもう少し持ってみたりするとより良い演奏ができるようになるのでしょうか?
ご教授お願いします。
Okuiさま
文章を拝見してると、それはイメージの問題じゃなくて、
もっとシンプルにマウスピースの当たり方(ニキビが原因の)の問題に思えますが、
そう思いませんか?
ニキビを治す、
治るまで吹かない。
どうしても吹かなければいけない場合は、「ニキビがあるから吹き方を一時的にちょっと変えてる」とよく意識して臨む。
ニキビが治って、いつも通りの当て方にしてから、「さてどうか?」という順序になるのではないでしょうか?
Basil
ニキビ治してから吹いたら、なんとかなりました!
吹き方違う時はきちんとその事実を脳内で認識していく必要があるってことですかね。
ブログの記事のような状況だとまた違うのかもしれませんが。
回答、ありがとうございます。
d(^^)