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ある日レッスンにいらした青年バストロンボーン吹き。
いつもノータンギングで、ふわっと発音している。音は柔らかく好印象だが、実はちゃんとは鳴っていない。
まずはお腹を内側に押す動きで能動的に息を吐く運動で発音してもらい、タンギングと連動させることで即座に音がしっかりし鳴りが良く、本人も『こういう感じにしたかった』とのこと。
そこからご持参された曲へと進むが、基本的に
『タンギングしましょう』
『もっと鳴らしましょう』
『音価の間、音量鳴らしっぱなしにしましょう』
『書いてあるクレッシェンドをやりましょう』
ということを繰り返し繰り返しリマインドする展開に。
これでどんどん仕上がりが良くなっているが、裏を返せばそれは、タンギングしない・ふわっと鳴らす・音量出さない・音量はすぐ落とすという明確な傾向が背景的に一貫して作動しているということでもある。それにより、ただただ損をしているから、反対のアクションで中和してえられる改善は、ほんとはそれが実態であり実力だということ。
最後に、息の吸い方をレッスン(肋骨を能動的に動かす。筋肉使う。)し、吸い方と吐き方の両方を能動的にかつ思い切りやることに集中してみてもらうと、さらにシンプルに良い効果が。音が非常に大きく豊かに鳴らせている。
ここで本人の口から出てきたのは、『昔、音が大きすぎる・出しゃばるな』と言われてからそれを気にするようになった、とのこと。やはり、全ての癖は音量の抑制を目的としたものだった。
要は、いい加減な指導、粗い言葉の悪影響だ。良い音を鳴らせるひとを抑え込むんじゃなくて、周りにもっと良い音・響いた音を求めりゃいいのにという話なのだ。
「いちど、『でしゃばらないコントロール』にかけているエネルギー、注意、作業を全部ゼロにして吹いたらどうなるか試してみましょう」と提案。
・・・このときになさった演奏はもう鳥肌。太く、余裕のある音で、たっぷりと長いフレーズ感で堂々と演奏された。
ご本人はニッコリと、「こんな感じにしたかったんです!」とのこと。
実力にアクセスしそこから上達のために努力するメンタルの鍵、具体的かつシンプルな息の動作が分かったのでぜひ持ち帰って頂ければと思う。
Basil Kritzer