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きょうは、音大生や若くてキャリアの初期にある音楽家の方々にわたしからぜひ送りたいアドバイスをお話します。
それは、
「音楽に関係ないバイトはやめて、指導の仕事をもっとやりましょう」
というものです。
音大生や若い音楽家の「指導の力」は とても貴重で役立つものです。これがもっと活用されることは、日本の音楽文化を豊かにする可能性を秘めています。
どうぞお楽しみに!
【音大生のみなさん、教えることをやってみよう!】
わたしは普段から音楽を専門的に学ぶ学生さんとレッスンでお会いしていて、奏法から心理面まで幅広い相談をたくさん受けています。
そのなかで時々出てくるのが、
「練習時間」と「将来のこと」
について悩み。
相談を受けるその時点では、相談してきたその音大生にとって主観的にはあまり関連がないように思える2つの事柄ですが、話を聞き進めているうちによくリンクしているのが分かってくるケースが多々あります。
で、そういった学生に対してわたしがよくアドバイスしていることがあります。
そのアドバイスは、こうして書くことがなんとなく憚られるものなのですが、まったく地域も楽器も異なる複数の学生たちに共通していたテーマで、かつ役に立ったアドバイスなので、やはり公にしてより多くの音大生に役立てた方が素敵だなと思ったので書くことにします。
【学生生活の後半になって….】
そのアドバイスとはズバリ、
「いまやっているバイトはやめる or 減らして、楽器を教える仕事を始めなさい」
です。
練習時間のやりくりに苦慮していることと並行して、自分の音楽家としての将来や、生計を立てて行くプランに関してもやもやと悩んでいる音大生の多くに感じる共通項は、
・学生生活の後半にさしかかっている
・演奏技術がかなりしっかりしてきている
・音楽に関係することで生きて行きたい、ということははっきりしている
というものです。
ここからどんな現状になっているかというと、
いろいろと(自発的に)やりたい、やらなきゃと思っている練習がある
↓
なるべく自活することを望んでおり、そのためにアルバイトをしている
↓
しかし、アルバイトが時間的、体力的、あるいは精神的に音楽活動(練習含む)を圧迫している
↓
演奏家としての自分の可能性に、以前より自信や希望を持っている(チャンスがあるかもしれない、と感じている)
ざっと描写するとこんな感じでしょうか。
【ただのアルバイトではもはや満足できない】
こんな状況にある音大生は、相当フラストレーションを感じています。
そりゃそうでしょう。
音楽に関わる仕事というキャリアを開拓していくことを目指している。それにふさわしい技能、感性、経験を得つつある。
なのに、それを活かしていないのですから。
アルバイト自体は学生生活の前半で初めていることもありますから、最近までは別にそれでよかったのかもしれません。
しかし、高い学費を払って、世の中一般の平均的な大学生よりははるかに強いプレッシャーを日々の目の前の勉強や学生生活において感じながら、身体的にも心理的にも高度なコントロールが要求される楽器演奏を専門的に学んできているのです。
ちゃんと取り組んできた学生(そして日本の音大生は大半がそうです)は大学生生活の後半にさしかかってくると、
- さらに上を目指す向上心
- すばらしい技術的水準
を身につけています。本人はその自覚はないでしょうが、客観的にみるとそうです。
なのに、音楽と全く関係がなく、しかも時給の安いアルバイトを続けている。
これではアルバイトを続けることにこと葛藤を感じていても、ごく自然なことだと思います。
非常に多くの時間、労力、お金を費やしてきている音楽の勉強を「活かす」ことや「仕事に結びつける」ことを望んでも、当然なのです。
実際、この頃になると多くの学生が演奏の仕事を何らかの形で経験し始めます。
【レッスン活動を勧めたい理由】
音楽に貢献する活動を生活の中心にしたい。
音楽に貢献する活動で生計を立てたい。
その活動形態が
「演奏」なのか、
「指導」によってなのか、
あるいはその両方によってなのか。
これじゃ音大生の時点ではっきり分からなくても構いません。
すでに音楽で生計を立てているひとでも、何年も活動をしているうちに、演奏から指導へと軸足が移ることもあれば、その逆もあります。編曲、作曲、文筆、プロモーションなどへと移っていくこともあります。
とりあえず、音大生のうちから実際に音楽に携わる仕事をして収入を得る体験を得ることはしておくとよいでしょう。音楽活動を生活の中心に据え、それを生活の手段や支えとしていくことがどんなものなのかを体験し、よく考える機会がるのはすばらしいことです。
そこで、練習や勉強時間や将来のことでもやもやと悩んでいる音大生にお勧めしたいのが、レッスン活動をスタートしてみることです。
なぜか。その理由は以下の通りです。
理由1:日本の音楽文化を高める
日本で、専門的に楽器のレッスンをしてくれるひとがもっと身近にたくさん存在するようになるのは、日本の音楽文化にとって大変良いことだと思います。
中高生にとっても、また音楽を嗜む大人の愛好家の方々にとっても、
- 誰に
- どうやってお願いして
- どんな感じでレッスンを受けたらいいのか
が分からない、ということがまだまだ多いと思います。
そこでもし、ちょっとした知り合いである音大生のお兄さんかお姉さんが教えてくれる、知り合いを通じて、しっかり勉強している音大生からちゃんと楽器、奏法、音楽のことを教えてもらえる、というような状況が増えれば、それはすなわち子供や愛好家の方々の演奏水準を高めることにつながります。
理由2:指導者の水準を高める
指導だって、スキルです。
スキルは、繰り返し練習することで磨かれていきます。
学生のうちから演奏の仕事を経験することは良いことと思われているわけですから、指導の仕事だって一緒です。
若いうちから、たくさん指導経験を積める方が、指導のスキルが上がるのです。
そうして指導者の水準が高まると、それは当然、日本の音楽文化を豊かにさせます。
理由3:より有意義な時間とエネルギーの使い方である
音大生や音大卒業者の多くは、自分の師匠や、上手な先輩・後輩・同級生と自分を比較して「劣等感」を持っています。
この劣等感に意識が向き過ぎていて、自分が専門的な勉強を積んでいる専門家( or 専門家のたまご)であることをすっかり忘れがちです。
せっかく専門家( or そのたまご)なのに、その技能を使ったり高めたりすることに全くつながらないようなアルバイトをしていては、収入を得る以外にあまり意味がありません。
一方で、専門家のたまごである音大生に教えてもらいたいと思っている中高生、大人、吹奏楽部や合唱部の顧問の先生たちは、多くの音大生が思っているより多いのです。
せっかくそういった需要があるのに、それを通じて自活する可能性を模索しないのは、もったいないと思いませんか?
レッスンをするというのは、とても高度な能力です。
でも、音大生のみなさん、あなた方はその能力の基礎や少なくとも一部はすでに備えていますよ!
ずっとレッスンを受けてきているから、レッスンはどうやるものか無意識的にはかなり分かっているのです。それに何より、あなたはいつもあなた自身を教えています。
豊かなレッスン受講経験と高度な「教える能力」があってこそできるレッスンの仕事は、普通のアルバイトより
・より短い時間で
・より高い収入が得られ
・楽器演奏に関係することであり
・将来のキャリアに寄与することであり
・自分の演奏能力を高めることもある
そんなすばらしい機会なのです。
「音楽のレッスン」という仕事(アルバイト)を、音大生のあなたは、やろうと思えばチャレンジできるのです。
では、どうすればレッスン活動を始められるでしょうか?
アイデアや考え方は色々ありますが、何よりも大事なのは、自分がレッスンを提供する用意があるということを、意思表示 することです。
【意思表示の方法:例】
例1:ブログを始める
自分が一音大生として普段どんな勉強をしていて、いまどんなことを考えたり悩んだりしていて、どんなことに取り組んでいるかを綴るブログを始めましょう。そして、なぜ指導をするのか、なぜ指導をしたいと願うのか、どんなことをやれるのか、どんな考え方に基づいてレッスンを行うのかを綴りましょう。レッスンを行ったら、受講生の協力を得て、体験談や感想文を書いてもらって、許可を得て掲載したり、オンライン Q&A などをやってみたりしましょう。
例2:名刺でレッスン活動を行っていることを表現する
名刺を作りましょう。そして、名刺をもらった側の視点になって、どんな名刺にならもらった側は興味を持つか、想像力を羽ばたかせましょう。自分がレッスン活動に取り組んでいることを、名刺に工夫をこらして表現しましょう。そしてその名刺をたくさん印刷して常に持ち歩き、会う人にひたすら渡していきましょう。「音楽の指導をしております」という言葉をしっかり声に出して。
例3:お世話になった先生方に、レッスン活動をやっていることを話す
いま習っている楽器の先生や、中学高校のときの顧問の先生などに、レッスン活動に取り組んでいることを伝えましょう。そして、別にゴマをするわけではありませんが、仕事を紹介してくれれば一生懸命に良い仕事をして応えたいのだ、ということが先生に伝わるよう、コミュニケーションを工夫してみましょう。
他にも、いくらでも意思表示の方法はあります。
【あなたのレッスンの価値は?】
最後に、レッスン料について。
自分がするレッスンの値段の決め方の基準もまた、色々な考え方ができますが、わたしが思うに、自分が楽器演奏を学ぶために費やしてきているレッスン料や学費のことを忘れてはいけないと思うのです。
だから、自分でちょっと高いかな、と思うくらいでも、十分正当であることが多いでしょう。
それに、学生だからといって変に安くしたり無料にしたりすると、音楽のレッスンというものの価値は低いものであると、レッスン提供者側が認めているに等しいのです。
指導活動を生活や仕事の中心にしたいのであれば、レッスン業が健全な市場であり続けるうえであなたにも適正な価格(=レッスン提供者が十分に豊かな生活ができる)を守るうえで大事な責任があるのです。
わたしが思う、簡単かつしっくりくる決め方は次の通りです。
① あなたが、習いたい先生に習うためなら1レッスンいくら払いたいと思えますか?
② その半額を、学生のうちのあなたのレッスン料とします。
③ ただし、「見習い価格」であることを公言しましょう。
④ 大学を卒業して社会人になったらすぐに、2倍もしくは少なくとも1.5倍にすることを忘れずに!
こうすれば、学生向けの普通のアルバイトの倍くらいの時給になります。
これは傲慢なのでも、がめついのでもありません。音大生のあなたが大学で学んでいること、先生から教わっていること、日々取り組んでいることの中身にそれだけの価値がある、ということなのです。
Basil Kritzer
こんにちは。
私は高校のときホルンを吹いていました。三年生の夏のコンクールで引退し、それからもう1年になりました!
高校生から始めたのでやっていた期間は約2年間で、技術もそんなにあったわけではありません…!
大学生になったらもう一度吹奏楽をやりたいなと思い早4ヶ月が過ぎてしまいました。学校生活にも慣れてきたのでそろそろ始めてみたいなと思っています。
12月に定期演奏会があるのですが、一年間のブランクがあるのでそれまでに回復して吹けるようになるかが心配です…
もしやるとすればどのような練習をするのが良いでしょうか。
長文で失礼します。
四ヶ月あれば全然大丈夫ですね!
練習は、自分なりにホルンの演奏をなるべくシンプルな基礎に分析、分解して、そねか基礎要素を含んだ基礎練習パターンやエチュードなどを、面白味を感じられるような自分なりの練習メニューにして取り組むといいですね。
わ!本当ですか!!
アドバイスありがとうございました!!
コメント失礼します。
今年の春から音大生になります。フルート専攻です。
講師のバイトをしたいなと思っていたのですが、現役音大生の枠はほとんどない(?)のと、募集が少ないと感じて悩んでいた所この記事にたどり着きました。
この記事を読んで、勇気と自信をもらいました!
そこで質問ですが、現役音大生(しかも一年生)の時点でレッスン料はいくらがよいでしょうか? 私の考えは、楽器を持ってない人に楽器を貸し出してお試しレッスンor体験レッスン30分500円。それと吹奏楽部員や初心者などの個人レッスン(1レッスン)40分700円。を考えているのですが、どうでしょうか。
またレッスンの宣伝は母校の吹奏楽部から宣伝していこうと思っています。
長文失礼しました。m(__)m
Mflsa
それは安すぎます!!!
だって、専門技能ですよ?
その値段だと、地域によっては最低賃金以下です。
まずは最低賃金の倍を最低と思って差し支えないでしょう。
講師業を本業にするぐらいのつもりならば、最終的には1レッスン1万円くらいにもっていける必要があります。
学生時は 1レッスン45分¥3000 から始めて、卒業したら ¥5000, 指導の勉強したり付加価値をつけて30歳くらいのときに1万円
を目指すとよいと思います。
ちゃんとした値段つけないと、結局生活できません。
指導で生活していないと、指導のプロとしての能力が伸びません。
指導の能力が伸びないと、結局裾野のレベルが上がりません。
お金をちゃんといただくのは、そういう重要性があるのです。
お返事ありがとうございます!
音大生といえども、今後のこと将来のことを考えると、先生の言っていることは正しいとわかりました。それと同時にそのお金に対する内容のレッスンをしなければならない責任がありますね。
音楽的な事や表現に関してはまだまだ勉強足らずですが、基礎的な事や、楽器の事なら、教える自信はあるのでレッスンは一年生から自主的に始めたいと思っております。
上手く生徒を集めるアドバイスや注意することなどありましたら、是非教えて頂きたいです。
Mflsaさん
いただくお金は、レッスンの対価ではない、ということも大切です。
レッスン料は、レッスンの時間や中身に対して支払うものではなく、レッスンをしてくれる存在がこれからも存在し続けてくれるように
支払うものと考えたほうがよいと思います。
商品の対価でなく、ある意味お布施や寄付に近いものだと思います。
ですから、レッスン料金を決める基準は実はその質や時間や量ではなく、レッスンを提供するあなたが
レッスンを提供し続けることができるようにするために必要なお金をいただくということなのです。
レッスンの質は、「あなたのような先生がこれからも存在してほしい」と思ってくれるひとが増えるために高める、と考えることをお勧めします。
というのも、あまりレッスンの中身としての対価であるとか、責任を考え始めると、がんじがらめになるし、困った生徒はつけこんできます。
そういう関係性にならないためにも、「まともな生活をするためにはこれくらいいただきます」という、あなた自身にとっての基準を
はっきり決めておくとよいでしょう。それがあなた自身をしっかりさせてくれるし、ひいてはレッスンの質を高めることになると思います。
生徒さんに集まってもらうためには
・あなたがどんな人で(あなたと価値観が合うひとが集まる)
・どんなことを助けてもらえて(あなたに習うことでどんな望みが実現できたり悩みが解決するか)
・どこでレッスンしていて(そのひとにとって通える状況であること)
・いくらでレッスンしているか(そのひとが楽器のレッスンにどれぐらいお金を使う気持ちがあるか)
ことを知ってもらうことが大切です。
なので、
・チラシ
・ウェブサイト
・名刺
などを工夫して作り、Facebook や ツイッターなども活用して、あなたがどんなひとで、どんなことを助けることができるか
を日々発信しましょう。
あなた自身の音楽への取り組み、音楽や練習に関して気づいたこと、新しく発見したことを書いて発信しましょう。
あなたに習った生徒さんに体験談を書いてもらって、あなたのレッスンがどんなものなのかを他のひとに知ってもらいましょう。
出版社にそういった記事を送ってみて、雑誌などで掲載してもらえないか働きかけてみましょう。
吹奏楽部の先生方や、お子さんに音楽を習わせたい親御さんたち、楽器を習いたい大人の方々などが集まる場を見つけて、
自己紹介をなんらかの形でできるといいですね。
知ってもらうことがいちばんです。
目からウロコです!
なるほど。
わからない事だらけでしたので、アドバイスを頂けてとても良かったです。
先生から教えてもらったことを軸に早速作戦を立ててみたいと思います。
詳しく教えてくださりありがとうございます!
自分からどんどん活動の場を広げていきたいと思います!!
ありがとうございました。
力になれたようで、よかったです。やり取りをブログに紹介させていただきたいのですが、いかがでしょうか?
多くの音大生に役立つやり取りだと思うので…
音楽家のひとはなかなか勉強しないけれど、実は講師業やフリーランス業、あるいは教室業、またはアンサンブルやソリストとしての
プロモーションをしていくことには、「ダイレクトレスポンス・マーケティング」というものの勉強がすごく役立つと思います。
これはお金を儲ける方法というよりは、お客さんによく自分のことを知ってもらう方法だというのが本質だと思います。
ぜひ読んでみてください (^^)
ダン・ケネディの本
はい!是非是非。
お役に立ててこちらも良かったです。
ありがとうございます、勉強になります。
参考にさせて頂きますm(__)m
コメント失礼いたします。
楽器(特に管楽器や吹奏楽・オーケストラ)を教えるということに関して、音大卒というのはやはり必要最低限な条件なのでしょうか。
お考えをお聞かせいただければ幸いです。
KAさま
音大卒かどうかではなく、指導力(楽器演奏を理解し、相手の上達を助ける力)が全てでしょう。
しかしながら、その指導力のベースは、演奏家もしくは有能な楽器教師から楽器演奏を学び、10年くらいその楽器を真剣に練習してきていることで培われるのだろうと思います。
そういう環境を、音大に行かずに作り研鑽を積んできておられるひとは、ちょこちょこおられます。
オーケストラ団員でも、音大卒でない方はいらっしゃいますから。
Basil
ありがとうございます。
私も基本的にはそのように考えており、研鑽を積んだり情報発信をしたりしております。
ただ、近頃SNS等で「プロでない人が指導や発信をするのはどうかと思う」みたいな論調を目にすることがたびたびあり、不安になったりブレたりしてしまうことが多くなったので…質問させていただきました。
おそらくは、「一週間で楽器がうまくなる!」みたいな発信のことを言っているのだとは思いますが…。
ありがとうございます。
その論調、ありますね。
基本的に言いたいことは、子供やアマチュアプレイヤーの上達を阻害したり潰したりする悪質な指導者を排除して、助けになる指導をもっとしようよ、ということだと思います。わたしも同意見です。
その方法として基準を設けようとしたときに、肩書きまたは学歴を基準にする考えなのでしょう。
基準がどうあるべきか、あまり深く考え丁寧に議論されたたものではないと思います。
そうですね。本質といいますか、本来の目的(ここでは「助けになる指導をする」こと)を見失わないでいようと思います。
ありがとうございます。