【できなきゃいけないことと、できたいこと】

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若いフリーランスのTrp奏者との継続的なレッスンの中であるとき、こんな話になりました。

その奏者は、ひとりで音出しや練習をしていると段々と何をしたらいいのか分からない感覚になり、不安になって「奏法の『おかしいかもしれない』ところ」を次から次へと探しに行き、あれができないこれができないとなってるうちに時間になってなる。そんなことが頻繁にあるとのことでした。

この現象には、掘り下げていくとこの方の場合、2つの誘因がありました。

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①学生時代にマスタークラスで「そのアンブシュアではプロになれない」と言われたこと

②できないけど、できなきゃいけないと思っていることを吹こうとしていたこと
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①については、そのマスタークラス内でそのような断定をする根拠も、改善方法も示されなかったので、その時点でかなり信用にたりないものであることや、アンブシュアの定義や分析の仕方をこれまでのレッスンの中で伝えてあり、本人も理解しています。フラッシュバック的に捉われることはあれど、気持ちが落ち着くと、気にせずに前を向けるとのことでした。

ですから、②のほうが大きなポイントだったのです。

楽器演奏においては、できなきゃいけないこと、というのは考えれば考えるほど、実は存在しません。

プロとしてお金をもらって演奏するときですら、そもそも失敗したら返金しろとか、賠償しろというような契約はしません。これが多くを物語っていると思います。

むしろ、無断欠席や本番中に演奏を放棄することのほうが、事後的な賠償かそれに似たことを求められる可能性が高いのではないでしょうか。

そう考えますと、やらなきゃいけないことは、最低の最低では「そこにいること」であり、本質的には「自分のその時々の能力や体力、時間といったリソースの範囲内で最善の準備をし、本番は最善を願いつつ最善を試みて演奏すること」が『やるべきこと』なのだと思います。

もちろん、力が及ばなかった場合は次の仕事は無いかもしれません。しかしそれは評価の結果であり、自分が引き受けるリスクと責任なのです。できることが義務なのではありません。あるいは義務を果たせなかった結果としての叱責、賠償などを引き受けるならそれで良いのです。それらを勘案して引き受ける引き受けないを選ぶ自由と責任があります。

よく考えると、できない自分に依頼をした側にこそ、自分が本番で失敗したことによる何らかの結果(聴衆からのクレームなど)を引き受ける責任があります。失敗に対し賠償を求める契約をするしないなども含めてそれは依頼者の自由と責任なのです。

聴衆に対しても、自分が失敗したことによる不快が発生したとしても、実はやはり聴衆も常に素晴らしい演奏やうまくいかない演奏に接する自由と責任を行使してそこにいるのです。至らない演奏に接するのがすごく嫌なら、高い料金を払って良い演奏が高い確率で聴けるところに行けば良いのです。それも確率に過ぎませんが。100%保証を求めるなら補正された録音を聴くことができます。反対に、まだ無名の奏者を見つけて安く聴く自由もあるのですから。その自由と責任があるからこそ、楽しいのです。

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もうひとつの側面は、いくらできなきゃいけないと思っていても、それができるかできないかは根本的に意志よりは運で決まります。

その運は実力のうちです。

ある人にとって容易にできても、自分はそれがなかなかできない身体的条件が実はあるかもしれない。何か神経学的な問題だって実は隠れているかもしれない。一生できない可能性すらあります。できて当たり前ではないのです。

できて当たり前なのにできない、
できなきゃいけないのにできない。

その前提からは、「すぐにできるようになる方法を探す」流れが生まれます。これはもちろん、その可能性はあるし誤りではない。

しかし、

積み重ね
試行錯誤
考察
実験

というような、練習の王道、本家本元のような要素は価値が置かれないのです。練習のやり方が分からなくなるというのは、そういうことだったのです。

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ではどうするか?

できなきゃいけないかどうかとも、
できるかできないかとも関係なく

『やりたいこと』
『できるようになりたいこと』

を練習の出発点・軸・目標にするのです。

こう提案しました。

「できようができまいが、できるようにならなくていいことであろうがなんであろうが、やりたいことやできるようになりたいことについて、いまから30秒ほど思いを馳せてみて下さい・・・何か思い浮かんだイメージや、脳裏に聴こえた音があれば、それをそのまま吹いてみましょう。」

本人は、ふと思い浮かんだ音があったようなので、吹いてみて頂くと、迷う感覚が消え、吹奏感からもはっきりとした手応えがあっとのことです。

ただうまくいったかいかなかったか、
合格か不合格か、

練習するという行為は、それを基準にしても回らない・成立しないものなのかもしれません。

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『やりたいこと』『できるようになりたいこと』を考える・想う。

『やりたいこと』『できるようになりたいこと』を軸にそれに対し何をしたいか・試したいかを考える・想う。

『やりたいこと』『できるようになりたいこと』に対していまやったことやできたことについて考える・想う

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Basil Kritzer

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