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アマチュアホルン吹きの生徒さんからのメール相談のやりとりです。
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【生徒さん】
苦手に感じていて、改善したいと思っているのは、静かなところで一人で伸ばすことです。
うまくいくこともあるのですが、うまくいかないことが多く、練習が怖いです。
ある曲で、私とは別の人がトップをやっていますが、その方がお休みのため代奏をしなければいけないというのが一ヶ月前くらいからわかっていて、一ヶ月くらい練習が怖かったです。
こちらの録音(非効果)をお聞き下さい。
思いきって入れなかったところがプルっとなったり、音が途中で切れてしまっていたりします。
録音を聞くと、自分が思っていたほど大惨事ではなかったので、録音を聞いて安心はしましたが、次また代奏をしなければいけないかもしれないと考えるととても憂鬱なのと、こういうことがある度に自信を失って、他のいつもできているところまで控えめになってしまい、うまくいかなくなるので、気持ちの持ち方を考えたいです。
こういったことを気にしてしまうのは、一番長く深く関わっているオケの時が特にそうです。単発企画オケの時はそもそも練習が少なかったので、まあ失敗してもいいやというのと、今後付き合っていくかどうかわからない人たちと演奏していたので、いい意味で無責任になれました。ホームのオケだと、自分は団長だ、という点で必要以上に自分にプレッシャーをかけてしまっているのかな、と思います。
うまく入れなかったときに、物理的に何が起こっているのか、と、怖い、という気持ちへの向き合い方をお聞きしたいです。
よろしくお願いいたします。
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【バジル】
これまでも何度もリハやレッスンで拝見していて、その記憶も込みでお話しますと、『息を吐くとき・吐くことに力んでいる』という状況があるように思います。
その力みは、原因がメンタル的な緊張にあるのか、それとも奏法的ところなのか、あるいは体質(呼吸のパターンや自律神経など)にあるのかは、まだわかりませんのでこの3つの相互関係がどのようなものなかは分かりませんが、少なくとも一緒に現れることが多いようなので関連していると思います。
メンタル的なところでは、ご自身でおっしゃるかも程よい無責任をもっとホルンや音楽活動全般に敷衍したいですね。
この場合の無責任って、
完璧じゃなくていいやと思えている
仲間に助けてもらえると思えている
他者に嫌われたり攻撃されたりしないと思えているorされても大丈夫の思えている
そんな心の動きだと思うんです。そういうふうに心が動く条件を一度抽象化して、ホームのオケの方に形を変えて当てはめてみれないか?トンチみたいですが、ぜひ数日ぼんやり考えてみて下さい。どんなさりげないことからウルトラCまで、全てアリです。
あとは息を吐くときの体の力みですが、どこかで『ホルンを吹くなら音が思いどおりに出る保証はない』ことを受け入れる必要があります。
というのも、息を吐かないと唇は振動しません。でも吐いてみないと最終的にどうなるか分からない。だからって慎重になると息を止めたり弱めたりする。どうするか?
リスクを受け容れてリラックスしてただ息を吐く、なんですよね。
気持ち的に、そんなのなかなかできない、というのはよく分かりますが、やってみると気持ち良いし、いま悩んでいる音の入りや伸ばしの景色がふと変わると思います。プルっとなってま伸ばしが完璧じゃなくても、感覚的に体験として、気持ち良かったり肩の力が抜けたりするかもしれません。
ひとまず、試してみて下さい☺
また続けてのご質問ご報告お待ちをしています。
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【生徒さん】
お返事ありがとうございます。
個人練習をしながら、息を吐くことについてどのようにしているか、自分を観察してみましたが、確かにそうでした。発音についても基礎練習から曲の練習まで、どうなっているか意識したところ、上手くいっていないときもかなりの頻度でありました。
実は、普段からそれほどできていないという状態で、合奏の中で目立つところでできないので、緊張のせいだ、と思っていたかもしれません。
もちろんびびって息が出せない、ということも多いにあったと思いますが、普段からできていないので、普段から楽に息を吐くことを意識して練習をしてみようと思います。
また、エスプレッシーボって書いてあるところは発音がよくなる傾向がありました。
息を思いきって吹き込むからでしょうか?
”程よい無責任をもっとホルンや音楽活動全般に敷衍したいですね。”
↑
演奏が上手くいく、行かない、に関わらず、練習や本番が怖いと思うのは自分の生活全般にとってよくないと感じているので、これを実行したいです。
やはり、団長として周りに下手なところを見せたくない、という力みがあるように思います。
・団長が完璧でなければならない、というのは思い込み
・音を外したくらいで嫌われたりさげすまれない
・本人が気にしている10分の1も周りは演奏について気にしていない。または上手くいってないなあとは思っても、信頼している場合も多い。
こんなようなことを考えていました。もう少し継続して考えてみたいと思います。
前半に、自分の普段の演奏を観察してみた、と書きましたが、今まで自分の音をよく聞いていなかったんじゃないか、と思いました。
自分の演奏に対して、また、目標とするクオリティに対して、自分の耳の解像度が低かったかな、と考えました。解像度という表現を聞くことに対して使うのはちょっと変ですが!
『リスクを受け容れてリラックスしてただ息を吐く』
こちらも次のtutti練習で意識してみたいと思います。
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【バジル】
まず、息を吐く力みについてですが、次の二つの角度から提案をしてみたいと思います。
①技術的提案
力んだなと思ったら、わざとちょっと顔やアンブシュアのテンションを緩めるとともに、息をフーっとたくさん、ラクに、でも勢いよく吐くようにしてみることができそうか試してみて下さい。先月の下降音形のレッスンと基本同じ要領です。
②メンタル→体
相対的に力まないときと、すごく力むときの感情の状態や思考の状態を比較して、なにか共通項がないか調べてみます。力まないときの思考などを形を変えて転用できないか、トンチみたいですが考えて試してみて下さい。
団長としての責任感ですが、団長は団長としての団のための仕事を担っていればそれで団長として立派ですよね!
世の団長のかなりの割合は、演奏時は団長は団長の責任から解放されて安心してるのをよく見かける気もします。
エスプレッシーヴォについては、以前ベートーヴェンのソナタをレッスンしたときの話と何か似ているかもしれませんね。
歌うような流れや心持ちになったとき、いつも音が柔らかくなって吹きやすそうにされている記憶があります。
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【生徒さん】
返信ありがとうございます。今週末金管五重奏の本番があり、緊張してきているところなので、アドバイスしていただいたことを試してみたいと思います。
本番が近づいてきて、一つ思ったのは、「過剰な責任感」はやっぱりあるなって感じました。ちょっとした録音の本番なので、回りのメンバーが「めっちゃ楽しみです!がんばりましょう!!」という雰囲気になってきて、私自身は楽しみだという気持ちよりも、私のせいで最初のところが失敗したら嫌だ、がんばらないと、という義務の気持ちが高まっているのに気づきました。
練習中は、あれこれ「こうしなきゃ」「ああしなきゃ」と考えていると上手くいかなくて、逆に、怖いという気持ちはあるけど、「えい」と息を吐くことに集中した時に上手くいきました。「ラクに、勢いよく吐く」ということを意識してみたいと思います。
力まないときの思考についてのメモです。
・何も考えていない
・純粋に吹くのを楽しんでいる
・今いい音出してるな~自分うまいな~と思っている
・そもそも体がリラックスしている(週の半ばは緊張している)
・がんばろうとしていない
・周りに何と思われるかなど気にしていない
・失敗したらどうしよう、と思っていない(逆に、1回失敗したらどうしよう、と思うと、抜け出すのがなかなか難しい)
・これから出す音に自信がある、または楽観的
こんなところです。
あと、ソルフェージュができているときも不必要に力まないような気もします。
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【バジル】
ソルフェージュができてると変に力まない、これは実用的ですごく良さそうなポイントです。
◎ソルフェージュの、ご自身にとっての具体的な内容または定義はなんですか?
◎ソルフェージュができてるのはどういう条件や環境下ですか?
続いて、力まないときの思考リストですが、これらは全て並列関係でしょうか?
それとも、これらの中に前後関係や因果関係らしきものはあるでしょうか。どれがあることで別のどれかが現れるなど。
そして、これら力まないときの思考はどういう条件や環境下で出てきますか?
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【生徒さん】
自分にとってのソルフェージュはこれから吹くフレーズ全体をイメージすることです。
最初の音だけのイメージだと失敗することのほうが多いです。
ソルフェージュに集中できるのは「失敗したらどうしよう」「ちゃんとできるかな」等、余計なことを考えておらず、その場の音楽、自分の出す音に集中できている時です。
力まないときの思考
〇何も考えていない
◎純粋に吹くのを楽しんでいる
◎今いい音出してるな~自分うまいな~と思っている
〇そもそも体がリラックスしている(週の半ばは緊張している)
〇がんばろうとしていない
◎周りに何と思われるかなど気にしていない
◎失敗したらどうしよう、と思っていない(逆に、1回失敗したらどうしよう、と思うと、抜け出すのがなかなか難しい)
◎これから出す音に自信がある、または楽観的
◎が特に要素として強いかなと思います。
因果関係は、これから出す音に自信があって、実際吹き始めていい音が出ていて、純粋に楽しめているときは、自然と、失敗したらどうしようと思っていない、周りの反応を気にしていない、という風になっています。
また、一度失敗して不安になる経験があると、失敗したらどうしよう、という思考から抜け出しづらくなりますが、音楽を楽しもうという強い意志がある時は、「失敗したらどうしよう」の思考は薄まります。
力まないときの思考が出てくる条件や環境ですが、周りの人に信頼されていると感じている時、演奏をすることが義務になっていない(「成功させなければ」「うまくやらないと嫌われる」等思っていない)時、楽器を吹いて心地よくなろうと思っている時、そもそも日常生活の中でストレスが少ない時、などだと思います。
今日リハーサルで、明日昼本番です。
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【バジル】
「フレーズ全体をイメージする」
↑
これが、
A緊張や不安を感じていてもしつこくやると緊張や不安が和らいでくるのか?
B緊張や不安を感じながらしつこくやると、緊張や不安を感じていても演奏がちゃんとうまくいくのか?
C緊張や不安を感じているとできない、やっても効かないという状況なのか?
そのいずれであるかによって次が見えますね。
Aなら、ソルフェージュ自体を練習実行すればOK。
Bなら、演奏のためにはソルフェージュ。緊張と不安は別対処。
Cなら、緊張と不安の対処こそが演奏のため。
続いて、◎の項目や、環境条件を見ると、次のようないくつか異なる角度から発想できそうです。
✓ 日常のストレスを減らすことこそが演奏のための努力と定義してみるのはどうか?
✓ 日常のストレスが高いときや溜まってるときは、それに応じての自分のコンディションおよびパフォーマンスへの期待値を下げることにすると、どんな景色になるだろうか?
✓ 周りに信頼されていると感じられるのはどういうときか?その要素を抽象化して、信頼されていると感じにくいときに自分から信頼されている感覚を増やしたり見つけたりする道はないか。あるいは、信頼する感じられるようはグループ、状況での演奏機会を選択するか増やし、それ以外の状況を避けてみるということは可能か?可能として、興味はあるか?
✓義務感を感知したら、それを黄色信号と捉え一時停止。義務ではなく楽しみな要素だけを探したり思い出したりすることはできそうか?
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数日後
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【生徒さん】
ソルフェージュと、「えい!」と息を吐くことを意識して、先日の本番は上手くいきました。
A~Cですが、まだわからないので、今後観察していきたいと思います。
✓日常のストレスを減らすことこそが演奏のための努力と定義してみるのはどうか?
↑
いい考え方だと思いました。昨日気づいたのですが、ここ1か月半くらいずっと不調で、寒いからかなと思ってたのですが、たぶんカフェインの取りすぎでした。
ぐっすり眠れていないので、イライラをためやすかったり、緊張しやすくなっていました。
✓ 日常のストレスが高いときや溜まってるときは、それに応じての自分のコンディションおよびパフォーマンスへの期待値を下げることにすると、どんな景色になるだろうか?
↑
「しょうがない」と思うということですね。調子が悪いと、練習に行きたくない、と感じますが、それなら、楽にいけそうです。
✓ 周りに信頼されていると感じられるのはどういうときか?その要素を抽象化して、信頼されていると感じにくいときに自分から信頼されている感覚を増やしたり見つけたりする道はないか。あるいは、信頼する感じられるようはグループ、状況での演奏機会を選択するか増やし、それ以外の状況を避けてみるということは可能か?可能として、興味はあるか?
↑
私はコミュニケーションを自分から取るのが苦手なので、人と仲良くなりにくいのですが、そんな中でも仲良くなれると、安心して演奏できます。自分から信頼されている感覚を増やす方法は、今のところ思いつかないです。わ~この団体じゃ無理だな、と思って離れてきたように思います。
✓義務感を感知したら、それを黄色信号と捉え一時停止。義務ではなく楽しみな要素だけを探したり思い出したりすることはできそうか?
↑
できるかわからないので次からそうなったときにやってみたいと思います。
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【バジル】
本番お疲れ様でした🤗
>>『いい考え方だと思いました。昨日気づいたのですが、ここ1か月半くらいずっと不調で、寒いからかなと思ってたのですが、たぶんカフェインの取りすぎでした。ぐっすり眠れていないので、イライラをためやすかったり、緊張しやすくなっていました』
↑
ストレス対策方法いくつくらい持ってますか?
睡眠
運動
入浴
千年灸、ツボ押し
マッサージ
呼吸法、瞑想
食事の内容
遠足
マンガ映画浸り
などなど。
わたしは緊張やストレスで体調ヤバいとき、とにかく早く布団入るのと、千年灸しまくります(笑)
>>「しょうがない」と思うということですね。調子が悪いと、練習に行きたくない、と感じますが、それなら、楽にいけそうです。
↑
そうですね。コンディション悪いけど練習行く自分エライ、コンディション悪いのに逃げずに本番する自分エライ、です。
>>私はコミュニケーションを自分から取るのが苦手なので、人と仲良くなりにくいのですが、そんな中でも仲良くなれると、安心して演奏できます。自分から信頼されている感覚を増やす方法は、今のところ思いつかないです。わ~この団体じゃ無理だな、と思って離れてきたように思います。
↑
自衛はできてるってことですね。
ぼくも自分から信頼を感じるのは上手ではないのですが、悩んでることやしんどいことを相談したり打ち明けたりしたときに、否定せず聞いてくれたり受け入れてくれたり励ましたりしてもらえたりしたときに、信頼を感じます。
否定が怖いから打ち明けないんだけど、それだと閉塞するんですよねー💦
>>できるかわからないので次からそうなったときにやってみたいと思います。
↑
はい、試してみて下さい!
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【生徒さん】
返信ありがとうございます!カフェインを抜いて二日目ですが、夜ぐっすり寝れてます。
ストレス対策は、意識的にやってることはあまりないですね。最近は仕事も比較的に楽であまり大きなストレスがたまることがないです。
ストレス解消できるかもと思うのはこんな感じです↓
絵を描く
運動
ホルンを吹く
アニメを見る
YouTubeで面白い動画を見る
最近は本を読むようにしてるので、それもリラックスできているような気がします。
おもっいきりストレスたまったときは、誰かとパーっと飲みに行く、とかもありましたが、ここ3年くらいやれていないですね。
カフェインの件で思いましたが、私はやはり自律神経が弱くて、いろんなことに敏感なので、健康に人一倍気を付けて、心身を健康に保つことが楽器演奏においてかなり大事だと思いました。
単発企画オケでは、数回の演奏会で3曲のシンフォニーをやってきて、どれも上手くいったと感じていますが、時期的にコロナが流行っていたり長期休暇中であったり、気持ち的にも、体調的にもかなり余裕があったように思います。
体調に気を付けながら、相談させていただいたことを時々目を通して、演奏に生かしていきたいと思います。
ありがとうございました。
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【バジル】
健康維持増進の努力が、楽器演奏の支えになるのは一石二鳥ですね!
スポーツ、楽器演奏、極端に高い知的活動を要する仕事などをやる人じゃないと健康とパフォーマンスの関連に気づくにくかったり、気づいても健康維持の努力するモチベーションになかなかならないですし。
今回は有難うございました。
またお会いしましょう!
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了
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