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この記事では、低い音に苦手意識があったり、低い音が上手く出せなくて悩んでいたりする方々にとって役立つ何らかヒントを提供することを願っていくつかのことを考え、述べていきます。
それにあたり、「低い音の出し方」というよりは、
「低い音を出しにくくさせているブレーキ」を見つけて、外すこと
をここではメインに考えてみたいと思います。
【口の中や喉を開けようとするのが邪魔になっているかもしれない】
低い音に一生懸命取り組んでいるにも関らず、うまくいかないひとたちとこれまでレッスンしてきて、金管・木管に共通して多かったケースは、
「喉を開けようとしていて、それが逆に吹きにくさにつながっている」
というものです。
低い音は、聴いている分には「丸くて太い音」という印象を持ちやすいですね。
おそらくそれも原因のひとつだと思いますが、「口の中を広く・丸く・太く」しようとしているひとたちに出会ってきました。
….わたし自身もそうやって低音を出そうとして、うまくいかない時期が続いた経験を持っています。
これをやっていると、
響きがくぐもって「もーもー」とした音になったり、ひどいときには喉が痛くなります。
→心当たりはありますか?
低い音の音程が変に高くなったり、中音域の音程は逆に下がったりします。ひどいときには、顎関節が痛くなります。
→心当たりはありますか?
低音域なのに唇やアンブシュアが変に突っ張って疲れます。
→心当たりはありますか?
実際に、「口の中を広くしなさい」と先輩や先生から教わることも多いかもしれません。
この指導は必ずしも間違いではないのですが、あまりうまく伝わらないことが多いようです。
口の中や喉を開けることで低音を出そうとしていて、でも低音に苦労していたり、先述した傾向に心当たりがあるひとは試しに、
口の中や喉を開けようとする努力を一度やめてみて、そのまま吹いてみてください。
そうすると、
・びっくりするほどシンプルに低音が鳴らせるかもしれませんし、
・吹こうとすると口や唇や顎がもぞもぞ動くかもしれません。
もしもぞもぞ動いたら、それを興味深く観察しておいてください。
口の中や喉を変にいじり回すことなしに、アンブシュアがちゃんと低音を出してくれるべく、動いてくれているのです。
まずは試してみて、これがあなたに当てはまるか、あなたに役立つのかどうか確かめてくださいね。
【顎をコントロールしようという意識が邪魔になっているかもしれない】
顎をコントロールしようとしているのが、やはり低音を吹きにくくさせる原因になっていることもあります。
コントロールする事自体は悪くないのですが、
・顎はどこについていて
・どう動くか
を誤解したまま、顎関節に不可能な、あるいは非常に負担の大きい動かし方を強いているケースにこれまでたくさん出会ってきました。
〜その1:顎は左右対称・垂直に降りてこなくてもよい!〜
よくあるのが、顎を何としてでも左右対称に、垂直にまっすぐ降ろそうとして頑張ってしまっているケースです。
人の顔は左右非対称ですから、顎の動きもまた、左右非対称なことがあるのです。
なのに、「まっすぐでないといけない」と思い込んでいて、自分の顎が左右や斜めに寄って動いているのを「ダメなことなんだ」と思ってしまい、一生懸命直そうとしています。
に顎が痛い、顎がカコカコ鳴る、顎がシャリシャリ鳴るというような症状があるひとは、無理にまっすぐ動かそうとしていないか、確認してみてください。そして、早めにお医者さんに相談しましょうね。
顎が動きたがる方向に動かしてあげるのに任せましょう。左右や斜めに寄った、左右非対称な動きをしていれば、それを祝福しましょう。
もしそうしてみたときに、顎がいつもよりスムーズに感じたり、ラクに感じたら、そこで楽器を吹いてみましょう。
驚くほどラクに良い音が鳴るかもしれません。頭や鼻、頬などの骨が響くのが感じられる、とわたしのレッスンでは報告を受けることが多いです。
〜その2:顎関節はどこにある?〜
顎関節はどこにあると思っていますか?「このへん」と思っているところ、感じているところを指差してください。
よくある誤解は
・顎のエラが張っているあたり
・ほっぺの下あたり
・うなじの上の方
です。
ですが、実はいずれも顎の関節はありません。
実際には、
高さ:だいたい耳の穴のあたり(ほんのわずか下)
位置:耳の穴より少し前方向
に顎の関節はあります。
見つけ方:
1:目の下の骨(ほお骨)を見つけてください。
2:顔の横方向に、その骨を指で辿ってください。
3:顔の横方向に大きくカーブしていきますね。
4:耳の前側の小さな軟骨に行き当たります。
5:そのわずかに下に指の腹をあててください。1センチ未満です。
6:口を開閉してみてください。
7:指の感触で関節の動きを感じることができます。これが顎の関節です。
多くのひとにとって、思っているより高い場所にありますね!
もし、関節の位置を誤解していたことに気付いたら、これから顎の事を意識するときは、今回見つけた新しい場所で意識するようにしてください。
〜その3:顎を前に出そうとする前に〜
管楽器をやっているひとにとって、「顎が前に動く」ということはよく知られています。
しかし、一生懸命「前に出そう」とし過ぎてしまっているケースにもこれまで出会ってきています。
そんなひとにとってまず知るといいことは、顎は前に出るより先にいちど後ろ&下方向に「開く」ということです。
ちょっとした動きなのですが、必ず起きている動きです。
詳しくはこちらの Youtube でご覧ください。
これまで「顎を前に」ばかり一生権身意識していたひとは、顎が前に行く「その前に」すこし顎関節が開く(=後ろ下方向に顎が動く)ことを意識してみましょう。
「そういう動きがあるんだなあ」ぐらいの気持ちで十分です。
【楽器自分の方に持って来よう】
低音を演奏するとき、木管楽器を演奏するひとでも金管楽器を演奏するひとでも共通して起きがちなのが、
「楽器を自分から遠ざけてしまう」
ということです。
高い音を演奏するときは、安定を保つために、マウスピースをしっかり口にくっつけたり、リードをしっかり口の中へ入れていくということが無意識にできているひとでも、低い音になるとそれがおろそかになってしまうことが低音を出しにくくさせていることがあります。
低音になると、楽器を自分の方に持ってきて、マウスピースを口にくっつけたりリードを口に入れたりすることを忘れてしまうかのように。
〜金管楽器の場合〜
低音を演奏するときも、マウスピースを口にしっかりプレスしましょう。
プレスするとバテてしまう、と思っているひとが多いですが、実はそうともかぎりません。
低音になると、唇がはみ出しちゃったり、頬が膨らんだり息が唇から漏れたりしがちですね。マウスピースを思い切り良く唇にくっつけることは、それを驚くほど簡単に減らしてくれることがあります。
〜木管楽器(フルート以外)〜
フルート以外の木管楽器を演奏する方に関しては、楽器を自分の方へ動かす動きを途中でやめていて、自分からリードやマウスピースくわえに行ってしまう傾向が低音で顕著になっていることがあります。
楽器が知らず知らずのうちに「遠く」なってしまっているのです。
こういうときは腕を十分に使っていないので、段々と楽器が重く感じられるようになって、腕がダルくなることも多いようです。
そこで、低音の演奏をするときにリードを自分の口の中の方へ持ってくることを意識的に、かつ多めにやってみるとどうなるでしょうか?
しっかり腕を動かして楽器を能動的に動かして自分の口の中へリード/マウスピースを向かわせた方が、逆に腕もつかれにくくなるケースを、これまでレッスンしてきてたくさん見てきています。
ぜひ試してみてください。
〜フルート〜
フルートに関しても、歌口を自分の下唇の下側まで「持ってきて当てる」という意識をはっきり持つと、低音に限らず全般的に吹きやすくなります。
そのとき、腕の付け根が鎖骨と胸骨の関節であることに着目しましょう。
腕は、身体の前面に付いています。
そして、腕を動かすということは、鎖骨もかなりたくさん(前方向と上方向)動くことを意味します。
腕を、身体の前側で動かすようにしてみると、鎖骨が動いて楽器の持ち上げ心地が軽く楽になります。構えに余裕が生まれるでしょう。
鎖骨や胸骨が響くように感じるかもしれません。
低音が吹きやすく深い音色になります。
Basil Kritzer
なるほど~、としみじみ読み入りました。
明日早速、楽器を実際に吹きながら、
そして気持ちを楽に持ちながら、トライしてみます。
こばーんさん
よかった (^^) またぜひ成果を教えてください♪
おぉ。
何かすーっとホルンの低音がでたww
それはよかった!
いつも先生のブログやTwitterを楽しく拝見しています。
低音の話題でしたので、良い機会だと思いましたので質問させてください。
所属している楽団や近隣の中学校の吹奏楽部での合奏等で、指導者からチューバやバスクラリネットがいつも指摘されていることで奏者が苦労し悩んでいることがあります。
「低い音は遅れて聞こえるから立ち上がりをはっきりさせてくれ」
低音域の音の波形は高音域に比べて緩やかなのだという認識はあるのですが「立ち上がりをはっきりさせる」ためにプロの演奏家の皆さんはどうされてるんでしょうか?
僕の個人的な考えでは「低音パート全員(バリサクやファゴットを含めて)のアンサンブルとして立ち上がりのはっきりした音に聞こえればOK」だと思うのですが(勿論、曲想によりますが)、少人数ですとチューバだけでということもあります。なかなか解決策が見出だせず困っています。
横笛隊長さん
わたしはホルン奏者で低音楽器奏者ではありませんし、
また吹奏楽合奏指導の専門家でもありませんので、コレといったことは言えないのですが、
これまでの演奏家としての現場経験や、レッスン経験などからは、
単純にもっと強く思い切ってタンギングする
ことで低音域の楽器の発音がはっきり聞き取れてタテがより揃うような印象があります。
これは低音楽器に限らず、発音がはっきりしない、という話のときにかなりあてはまる場面が多いです(わたしの経験上はです)
たいてい、発音が荒いんじゃないか音が汚いんじゃないか、という実際はそんなことない「悩み」や「心配」をしているひとも多いので、おもいk1タンギングして発音してみてもらうまでに、指導者としてはあの手この手を使って必死でお誘いすることも多いですね(笑)
【楽器自分の方に持って来よう】について。どのような種類の楽器でもどのような流派でも、全く逆です。
まず楽器を遠ざけるように持つことで体が収縮してこわばることを防ぎます。音色が固くなりますから。金管のマウスピースは基本口に軽く触れる程度で、木管のシングルリードも浅くくわえます。総じて体から楽器を遠ざけることになります。
tmさん
コメントありがとうございます。
おしゃっていることは、当て方・くわえ方の部分ですね。
わたしが述べているのは、当てる・くわえる距離の持ってくるまでのところ、つまり楽器の重量を扱って移動させる部分のところです。
金管に関していうと、「軽く触れる」のが基本というのは、必ずしもそうではありません。
しっかり密着させることの方が原理原則としては大切または有用な考え方となると思います。
(マウスピースのプレスを気にしたり、避けるよう強調する教えが多いのは知っての上です。そのあたりについてはいくつかの記事で述べておりますので、もしわたしの考えの背景などに興味があればどうぞブログ内をご検索ください。)
木管に関しては、経験上たしかに、より浅くくわえることで結果が出る場面が多いです。
ですが、一般論にするのは現時点では避けています。
Basil
あ、もしかして「低音時は」ということですかね?
もしそうであれば、「高音と比べて」なら金管はマウスピースと唇の接触は軽くなり、リードのくわえ方は浅くなる、
というのはおそらくその通りだろうと思います。
その場合も、「楽器を体から離す」意識は、「楽器を口の近くまで持ち上げ保持する」という、高音/低音の調節作業以前に行われ、あらゆる音域を通じて共通して行われる作業に混乱をきたしやすい。そう見て「楽器を自分の方に持ってくる」と記事では提案している面もあります。
楽器を持ち上げ口の近くに保つ作業が曖昧になって楽器が、高音・低音の調節作業の範囲を越えて離れ・落ちていっているひとがとっても多いのです。
では、楽器の持ち上げと保持のあとの、高音/低音の調節はどう意識したらいいか?
金管の場合は、音域によってマウスピースの位置が唇の動きとともに変わります(詳細:http://basilkritzer.jp/archives/4855.html)
自分自身の場合はどうなっているか調べて、それに沿った意識をすることを現時点のわたしなら勧めます。
フルートだと、歌口と息の当たる角度が変わりますよね。
(おそらく接触の強さも?)
リード楽器は、おっしゃるのと近くて、わたしもリードの出入りや、さらには左右での動きも見られるのでそこにレッスンでは着目し観察することが多いです。
「唇の上をリードがどう移動しているか」を、出入り以外の方向も含めて三次元で把握する、ということですね。
以上、細かくなってしまいましたが補足でした。
Basil
コンクールの楽譜の低音域が出ずに悩んでいたのですが、これを見て試してみたら綺麗に出て驚きました。
ありがとうございます!
ほんまですか!わーい(^o^)