楽器演奏は、もしかしたら学校や社会でやるほかのどんなことよりも、
《失敗したくないという気持ちから自由になる》
=楽しく演奏できる
=とても幸せな気持ちになれる
=うまくいく
という面が大きいと思います。
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なので、もし
『失敗したくない』
『失敗するのがこわい』
という気持ちがもうあなたの中に強くあるのなら、この気持ちと深く向き合って、向き合うことでそこから自由になって、練習や演奏をのびのびとした気持ちですることを目標に取り組んでいくことを心からお勧めします。
そういうわたしも、失敗したくないという気持ち、失敗するのが怖いという気持ちに長く苦労してきています。
でも、深く向き合うことで、いちばん苦しかった気持ちからはほとんど自由になることができました。
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そのいちばん苦しかった気持ちはというのは、
『プロにならなきゃ、プロのレベルにならなきゃ』
という焦りや強迫観念が背景にある、『失敗したくない、するのが怖い』という気持ちでした。もうすでに高校生の頃からこの気持ちがありました。
この気持ちにすっかり支配されたせいで、人前で音がまったく出なくなったりすることが続くことが何年もありました。
わたしの場合は、『プロになることより自分にとって大事なこと』を見つけて、その大事なことのために練習や演奏をすること、その大事なことができているなら基本的に自分はOKだと確認を重ねていくことで、少しづつ、失敗したくないという気持ちに縛られないようになっていきました。
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その大事なことというのは、わたしにとっては
『きょうもホルンで音を出すこと』
『ホルンの音が好きだということ』
『ホルンの素晴らしい演奏に心から憧れ、ワクワクすること』
です。
いまでも失敗することはたくさんあるし、思い通りにいかないことばかりですが、失敗したことですごく傷つくことは減りました。失敗しても、わりとすぐに「まあ、仕方ない!」と思えるようになったし、演奏すること自体は、自分の演奏がボロボロでもどこか心の奥底で楽しめるようになってきました。
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失敗したくない、
失敗するのが怖い。
そういう気持ちって、なんといいますか、鋭かったり重かったり苦しかったりしますよね。とっても不快で嫌でつらいですよね。
ここからが大事なところなのですが、不快で嫌でつらいけれど、その気持ちをよーく眺めることがとても意味があると思うのです。
ひとり静かにじっと座って、ゆっくり呼吸しながら、失敗を嫌がっている自分や失敗を怖がっている自分を感じてください。
どこか景色のよいところに散歩にいって、歩きながらなんとなく、失敗について感じていることを眺めてください。
ほんとうにさいごまで、あなたの話をただただ受け止めて、じっくりと静かに聞いてくれるひとがいれば、そのひとに思い切ってあなたの苦しい気持ちを告白してください。
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ここではあえて、《気持ちをコントロールする方法》は述べません。失敗したくない、失敗するのが怖いという気持ちは、何か小手先のテクニックで抑えたり紛らわしたりするより、よく感じて向き合って眺めるほうが大事だと思うからです。
ですから、本番直前にいきなりではなくて、本番の何週間も前から向き合ってくださいね。
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失敗したくない気持ちから自由になれると、それは素晴らしい変化があります。でも、それを期待して取り組むようなことではありません。
それだと、
結局うまくいく=失敗しない=そのために自由な気持ちになろう
という打算になっていて、結局これだと失敗したくない気持ちで動いているんです。
だから、面倒くさいかもしれませんが、ぜひあなたの気持ちの奥底にあるものにゆっくり、ゆったり、じっくり向き合ってください。そこに宝物が眠っています。
Basil Kritzer